【ガルパン】あんこうチームの同窓会

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:05:41.91 ID:JiTN6bKjo
優花里「皆さん、何飲みます?」
みほ「私は、カルーアミルクにしようっと」
華「カルーア……甘いカクテルですね」
優花里「相変わらずですねえ、西住殿」
みほ「え? 何が?」
優花里「相変わらず甘い物を好きですね、って意味です」
みほ「じゃあ優花里さんは?」
優花里「私は普通に生中です。生ビール中ジョッキ」
華「優花里さんこそ、相変わらずですけど」
優花里「そうですか?」
華「だって今のは、男性みたいな言い方じゃありませんか」
みほ「うん、優花里さんだって相変わらず。何だか男の子みたい」ニコ
優花里「…」ドキ
みほ「華さんは?」
華「わたくしは、冷やをいただこうかしら」
みほ「えっ」
優花里「五十鈴殿、いきなり冷酒ですか」
華「ここは、メニューにカクテルがあるようなお店にしては、お魚が美味しそうです」
みほ「お酒強いの? 華さん」
華「人よりは強いと思います」
優花里「昔の食べっぷりからして、お酒についても予想はできてましたが」
みほ「このお店のお酒、全部飲んじゃったりしないでね?」
華「まさか。一晩では不可能でしょう」
優花里「一晩では、って……それ以上時間を掛ければ、飲めちゃうんでしょうか」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1380359141
※閲覧注意!
過度な性表現、キャラのイメージ崩壊表現が含まれている可能性があります。
いわゆる、男女の話とかです。苦手な方はご遠慮ください!【管理人】
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:08:40.68 ID:JiTN6bKjo
みほ「じゃ、お料理も幾つか、一緒に頼んじゃおう」
華「そうですね。お刺身の盛り合わせをいただきたいです」
優花里「西住殿。甘い物が好きだからって、初めからアイスとか言い出さないでくださいね?」
華「あ、いますね。そういう女性」
みほ「そんなこと言わないよ。フライドポテトがいいな」
華「優花里さんは、どんなおつまみが好きなんでしょう」
優花里「私は、枝豆さえあれば」
みほ「ビールと枝豆……」
華「男の子みたいというより、おじさん臭いですね」
優花里「あ、すいませーん。注文お願いします。カルーアと生中と……」
みほ「沙織さんと麻子さん、どのくらい遅れるんだろ」
華「30分ほどだそうです」
優花里「五十鈴殿、お酒の銘柄は何を?」
華「あ、そうでした……ではやはり『月の井』を」
優花里「それを冷やで。あと、料理は……」
みほ「麻子さんが日本に戻って来るの、アメリカの大学へ行っちゃってから初めてらしいね」
華「はい」
優花里「……以上を取りあえず」
みほ「卒業してから、もう3年もたつんだね」
華「わたくしたちもこうして、お酒を飲める年齢になりました」
みほ「麻子さんは3年も日本へ帰らなかった、ってことかぁ」
華「お勉強が忙しいし、おばあさまにもしものことがあった時以外は、帰国する気がないそうです」
優花里「冷泉殿の性格だったら、ホームシックになんか全然かからないでしょうね」
みほ「今回この5人が集まらなかったら、次にそうできるのは、多分…」
華「更に何年かたたないと、駄目でしょう」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:10:39.93 ID:JiTN6bKjo
優花里「あ、お酒が来ました」
華「では、乾杯しましょう」
みほ「何に?」
華「やはり再会を祝して、ではありませんか?」
みほ「それは、5人そろってからにしようよ」
優花里「まず、幹事さんの活躍に感謝して乾杯しましょう」
みほ「うん。華さん、ありがとうございました。乾杯」カチン
優花里「五十鈴殿、ありがとうございます。乾杯」ガチン
華「乾杯。そんな、わたくしなんて何もしていません」
優花里「武部殿と冷泉殿へ定期的にメールで連絡を取ってた、五十鈴殿のお陰じゃないですか」
華「いろいろな事情が重なって、自然とわたくしが取りまとめ役になっただけです」
優花里「確かに、県内の大学へ進学したのは五十鈴殿と武部殿だけでしたが」
みほ「今回、麻子さんは華さんの大学に用事があるんだっけ?」
華「指導教授の先生が、うちの大学で開かれる学会への御出席のために来日されるそうです」
優花里「そのお供に日本人の冷泉殿が選ばれた、ってわけですね」
華「東京にいるみほさんと優花里さんには、無理矢理こちらまで来ていただきましたけど」
みほ「全然問題ないよ。だって、さっき話したとおり、この機会を逃したら…」
優花里「5人が集まれるのは、また何年か先になっちゃいますから」
華「お料理が来ました」
みほ「食べ物は、あとの二人が来てから本格的に注文する?」
優花里「それまでお喋りしながら、つまむ程度にしときましょう」
みほ「お店のチョイスが素敵だね、華さん」
華「ここは、以前から目をつけていたんです」
みほ「お料理もお酒も種類が多いし、値段がそんなに高くないけど、どれも美味しそう」
優花里「お店の雰囲気もいいですね。お客さんたちが落ち着いた感じだから、静かに飲めます」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:12:41.10 ID:JiTN6bKjo
華「みほさん、優花里さん」
みほ「何? 華さん」
優花里「何でしょう、五十鈴殿」
華「わたくし、結婚することになりました」
みほ「ええっ? もう?」
優花里「私たち、まだ学生ですよ?」
華「もちろん、卒業した後の話ですけど」
みほ「じゃあ…婚約した、ってこと?」
華「はい」
優花里「お相手はどんな人です?」
華「お二人に、あらかじめ断っておきたいんですけど…」
みほ「何?」
華「あまり、ロマンチックなお話ではないんです」
優花里「どういうことですか?」
華「有体にいえば、これは政略結婚なんです」
みほ「政略結婚……」
華「地元で一番大きな銀行。名前を言わなくても、分かると思いますけど…」
優花里「あ……県内の就職先では人気が常に上位の、あの銀行ですね」
華「その創業家一族のお一人に、五十鈴家へお婿様として来ていただくことになりました」
みほ「その人が、華さんの結婚相手……」
華「はい」
優花里「難しいことは分かりませんが、お互いにメリットがある、ってことですか」
華「ええ。わたくしの家としては、経済的な後ろ盾が得られる」
優花里「……」
華「相手の家としては、五十鈴流とつながりを持つことで、ブランド力が上がるんです」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:15:08.28 ID:JiTN6bKjo
みほ「華さん。こんなこと訊いていいのかどうか、分からないけど…」
華「何でしょう、みほさん。気にしないで、どんなことでも言ってください」
みほ「政略結婚なんて…華さんは、それでいいの?」
優花里「五十鈴殿は納得してるんでしょうか。そういう結婚で、幸せなんですか?」
華「このお話を聞くと、誰もがそう言いますね」
みほ「当然だと思う。私たちは他人だから、どうこう言える立場じゃないけど」
優花里「大きなお世話かもしれませんが、大事な友達の将来に関わることです」
華「ありがとうございます、気に掛けてくださって。でも心配しないでください」
みほ「相手の人って、どんな男の人なの?」
華「年齢は10歳上です」
優花里「じゃあ、もう30歳を超えてるんですね」
華「はい。その銀行には系列の会社が複数ありますけど、その幾つかで役員をしています」
みほ「優しい人?」
華「それはもう。お婿様に来てもいい、というくらいのかたですから」
優花里「大人しい男性、ってことですか」
みほ「もちろん、もう何回か会ってるんだよね?」
華「ええ。いつも借りてきた猫のようです。わたくしみたいな、まだ学生の小娘が相手なのに」
優花里「でもそれじゃ、ちょっと物足りなくないですか?」
みほ「そうだよね。何でもいいから、何か頼れる一面があった方がいいよね」
華「ところが、それは逆なんです」
みほ「逆?」
華「そのかたは、これからうちへ来ていただいたら、もっと大人しくなります」
優花里「それは、尻に敷く、という宣言ですか?」
華「女が圧倒的な支配権を持つ五十鈴家の“型”に、キッチリはめてさしあげます。ふふふ」
みほ「……今の華さん、ちょっと怖かったね」
優花里「……目が、邪悪な光を放ってましたね」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:17:01.49 ID:JiTN6bKjo
みほ「じゃあ華さんは、その結婚に納得してるってこと?」
華「はい。意外と幸せですよ」
みほ「それなら、良かった。心配する必要なんてなかった」
優花里「本人が受け入れてるのなら、周りがとやかく言うことじゃないです」
みほ「相手の人も納得してるの?」
華「はい。わたくしと同じくらい嬉しがっていると思います」
みほ「“同じくらい嬉しがってる”?」
優花里「五十鈴殿はむしろ、その結婚が嬉しいんですね?」
華「もちろんです。相手はすごく年上ですけど、可愛いところのあるかたですし」
優花里「五十鈴殿。それなら、思い切って訊いちゃいますが…」
華「何でしょう」
優花里「実は相手の男性のこと、好きになっちゃってるんじゃないですか?」
華「不思議なものですね。お見合いでも、相手を好きになったりするんですね」
優花里「ありゃ。おノロケ発言が出ちゃいました」
華「わたくしは結局この年齢になるまで、恋愛を経験したことが一度もありませんでした」
みほ「……」
華「これが、最初で最後の恋、なんでしょうね」
優花里「西住殿、聞きました? 今度は尻に敷く宣言どころか、純愛宣言ですよ?」
みほ「もう聞いてられない。心配した私たちは何だったの、って感じ」
華「ふふふ。恥ずかしいです」
みほ「おめでとう、華さん」
優花里「おめでとうございます、五十鈴殿」
華「ありがとうございます、みほさん、優花里さん。式については、また連絡をさしあげます」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:19:08.15 ID:JiTN6bKjo
優花里「でも、五十鈴殿」
華「はい」
優花里「五十鈴殿自身は、どうするんですか?」
華「わたくし、自身?」
優花里「大学を卒業した後の話です」
みほ「華さんの大学って、全国から受験生が集まるほどの所だよね」
優花里「そんないい大学を出て、そのまますぐに永久就職ですか?」
華「はい。そのとおりです」
みほ「……断言、されちゃった」
優花里「……返す言葉も、ありませんね」
華「元々、大学への進学は家を継ぐための行程の一つですから」
みほ「華さん、経営学科だったっけ」
優花里「なるほど……五十鈴家、五十鈴流の経営、運営に備えて、そこを選んだんですね」
華「経営学が実際の経営へどの程度役に立つのか、分かりませんけど」
優花里「羨ましいですね。就活しなくていいなんて」
華「わたくしの場合、あの家に生まれた時点で、もう就職先は決まったようなものですから」
♪~♪~♪~
優花里「誰の携帯ですか?」
華「わたくしのです。ちょっと失礼……」
みほ「沙織さんからメールかな」
華「……そのとおりです。先ほど麻子さんと合流して、今、こちらへ向かっているそうです」
みほ「いよいよ、全員そろうね」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:21:02.56 ID:JiTN6bKjo
優花里「五十鈴殿。結婚のこと、武部殿には?」
みほ「あ、そうか。沙織さんが知ったら…」
優花里「はい。結婚願望の固まりみたいな人でしたからね、武部殿は」
華「沙織さんが知ったら、嫉妬と羨望で発狂します」
優花里「……五十鈴殿のそういう発言も、相変わらずですねえ」
華「実はもう、発狂させてしまったんです」
みほ「えっ」
華「婚約した少し後に、沙織さんと麻子さんへメールでそのことを伝えました」
みほ「うん」
華「そうしたら、その日のうちに沙織さんから呼び出されて…」
優花里「質問責め、ですか」
華「相手のことや相手の家柄に始まって、婚約指輪の値段に至るまで、もう大騒ぎでした」
みほ「沙織さん、すごいこと訊くなぁ」
華「居酒屋を3軒、はしごしました」
優花里「じゃあ二人とも、べろんべろんになっちゃったんじゃないですか?」
華「わたくしは大丈夫でしたけど、沙織さんはその後3日間くらい、二日酔い状態だったそうです」
みほ「……さすが華さん」
優花里「恋に恋する乙女、武部殿。そういうところは相変わらずですか」
華「何ら結果を出せていない、ということも昔のままです」
みほ「沙織さんって可愛いのに、どうしてモテないんだろうね」
華「いろいろ努力をしているようですけど」
優花里「その努力が、ことごとく空回りしてるんですね」
華「お二人に、前もって言っておきますけど…」
優花里「何ですか?」
華「これから、沙織さんが来ます。今の彼女を見ても、びっくりしないでくださいね」
みほ「え? どういうこと?」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:23:01.34 ID:JiTN6bKjo
優花里「……」
みほ「優花里さん、どうしたの? 何見てるの?」
優花里「キャバ嬢にしては下手なメイクの、中途半端にケバいおねーさんが笑顔でこっちへ来ます」
みほ「……ホントだ。その人に手を引かれてるの、麻子さんかな」
優花里「やっぱり、あれは冷泉殿ですか。雰囲気が変わりましたね」
みほ「何ていうか、柔らかい感じになったね」
沙織「お待たせ! 元通信手、武部沙織! ただ今参上!」
優花里「このキャバ嬢おねーさんの声、武部殿にそっくりですね」
みほ「うん。沙織さんのお姉さんなのかな」
沙織「何言ってんの! 私よ私! さ・お・り! 武部沙織!」
麻子「みんな、久しぶり」
みほ「麻子さん! 久しぶりー!」
優花里「冷泉殿、会いたかったですー!」ギュッ
麻子「こら秋山さん、抱きつくな。頬ずりをするな」
優花里「そんなこと言われても、やめませんよー!」スリスリ
麻子「五十鈴さん、今回はいろいろありがとう」
華「お礼を言うのはこちらです。忙しいのに来てくださって、ありがとうございます」
麻子「昔の仲間に会うと教授へ言ったら、構わないから行けと言ってくれた」
みほ「麻子さん、座って。早く飲み物頼んで、乾杯しようよ」
沙織「みんな何よ! 私を無視しないでよ!」
優花里「まあまあ、キャバ嬢おねーさんも座ってください」
沙織「誰がキャバ嬢よ!」
みほ「見れば見るほど沙織さんにそっくりだね。背の高さとか髪とか」
優花里「違うのは顔だけですね」
沙織「だから本人だってば! ちょっと華! さっきから何笑ってんのよ!」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:25:07.31 ID:JiTN6bKjo
華「沙織さん、だからずっと言ってきたんです。そのお化粧の仕方、やめた方がいいって」
沙織「何言ってんの! 男は顔と胸しか見てないんだから! 手間を掛けるのは当然でしょ!」
優花里「キャバ嬢おねーさんは何飲みます?」
沙織「だからゆかりん、キャバ嬢って言うな!」
麻子「私はビールにしよう。生ビール中ジョッキだ」
沙織「私も生中!」
優花里「すいませーん、生中二つ」
みほ「あの…」
沙織「何? みぽりん」
みほ「沙織さんのお姉さんですか?」
沙織「だーかーらー! 沙織よ沙織! 正真正銘の本人だよ!」
優花里「でも武部殿には、妹さんしかいなかったはずですが」
沙織「……もう、アッタマきた」
華「沙織さん?」
沙織「みんながこんなにバカにするなら、分かったよ! 分かりましたよ!」
麻子「どうするんだ?」
沙織「このメイクを落とせばいいんでしょ!? 落とせば!!」ダダッ
みほ「……行っちゃった」
優花里「五十鈴殿が、びっくりしないでと言ったのは、あのことですか」
華「はい。あのお化粧をやめた方がいいと以前から言ってるんですけど、全然聞かないんです」
麻子「私もさっき、初めて見た時は驚いた。知らない人の振りをしようかと思った」
みほ「確かに、努力が空回りしてるね。ああいうのを勘違いメイクっていうんだね」
麻子「自分ではあれがいいと思ってるんだろう。自分以外の全員は不気味だと思ってるが」
優花里「毎日あのメイクで、学校へ行ってるんでしょうか」
華「わたくしも気になりますけど、訊かないようにしています。何となく」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:26:50.66 ID:JiTN6bKjo
沙織「まったく……出先でメイク落とすことになるなんて」
麻子「お、戻ってきた」
みほ「沙織さん!」ギュッ
優花里「武部殿!」ギュッ
沙織「ちょっと、二人とも急に抱きつかないでよ!」
みほ「いいじゃない、久しぶりなんだから……」ギュウウ
優花里「そうですよー。たけべどのー」ギュウ
沙織「何よもう、わざとらしい! メイク落とした途端に何なのよ!」
みほ「……」
沙織「みぽりん! いい加減に放してよ!」
華「そろそろ、静かにしましょう。周りの人たちが皆、見ています」
沙織「だって、みぽりんが!」
みほ「……」
麻子「いや、沙織」
沙織「何?」
優花里「様子が、おかしいです」
沙織「えっ」
みほ「……ううっ。ぐすっ……」
華「みほさん……」
優花里「西住殿が、泣いてます……」
みほ「……うぐっ。ううっ……」
沙織「な、何よみぽりん。どうしちゃったの?」
みほ「……ご…ごめん、なさい……何だか、急に……」
沙織「や、やだもーみぽりんったら。私に会えて、そんなに嬉しかった?」
みほ「……うぐっ。ぐすっ……」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:28:22.95 ID:JiTN6bKjo
麻子「西住さん、乾杯しよう。酒はもう来てる。目の前にあるんだから早く飲みたいぞ」
みほ「……うん……」
優花里「西住殿……」
みほ「ごめんなさい……もう、大丈夫……」
華「さあ、みほさん。音頭を取ってください」
みほ「うん……分かりました。じゃあみんな! 乾杯します!」
沙織「西住隊長、何に乾杯する?」
みほ「もう、隊長はやめてよぉ」
華「よろしいではありませんか、今くらい。ね、隊長?」
麻子「隊長が嫌なら、車長の方がいいか?」
みほ「どっちも同じだよぉ」
沙織「隊長、いいから早くー!」
優花里「ジョッキを掲げた手が疲れてきました」
みほ「何ですか、装填手のくせに!」
優花里「ひえ~っ、隊長に怒られちゃいました~」
みほ「じゃあ、みんな!」
沙織「うん!」
華「はい」
優花里「はい!」
麻子「ああ」
みほ「ついにこの5人がそろいました! 再会を祝して、乾杯!!」
一同「かんぱーい!!」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:31:03.66 ID:JiTN6bKjo
優花里「じゃあ、料理を本格的に頼みましょうか」
みほ「麻子さん、ひょっとして久しぶりの和食?」
麻子「ああ。普段は現地人たちと同じ物を食べてる」
沙織「私は肉じゃが!」
優花里「そういえば、それは武部殿の得意メニューでしたね」
華「沙織さんはこういうお店へ入ると、必ず肉じゃがを注文するんです」
沙織「私が作ったのとどっちが美味しいか、チェックしてるんだよ」
麻子「沙織は一体何と戦ってるんだ」
みほ「麻子さん。変な言い方だけど、麻子さんが普通に話してて私、少しホッとした」
麻子「西住さんの言いたいことは分かる。日本語をこんなに使うのは久しぶりだからな」
華「やはり普段、英語だけなんでしょうか」
麻子「日本語を使うのは、日本人留学生の知り合いと話すときだけだ。しかもその機会は少ない」
華「では今日、麻子さんには思い切り日本語を喋ってもらって…」
優花里「思い切り日本食を食べてもらいましょう。外国だと高いみたいですし」
みほ「じゃあ私も、お酒を日本酒にしようかな」
華「あらみほさん、実はいけるクチなんですね」
沙織「ぷはーっ、生中もう一杯!」ダン
優花里「早っ。もう飲んじゃったんですか?」
沙織「さっきみんなが私にさんざん叫ばせたから、喉が乾いてんのよ」
麻子「私も、もうジョッキが空く。今度はバーボンソーダにしよう」
優花里「ビールの次はバーボンですか。いかにもアメリカですね」
麻子「だが今夜の料理は日本食がいい。焼鳥の盛り合わせを食べたい」
華「タレか塩かを選べるようですね。どちらにしましょう」
一同「塩!!」
みほ「どうして私たち、こんなところで息が合うの?」
優花里「酒飲みは大抵、塩を選びますから。私たちは全員そうなのかも。あ、すいませーん」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:34:28.09 ID:JiTN6bKjo
~~~~~~~~~~
華「沙織さん、そこのお醤油を取ってもらえますか」
沙織「あ、これね。はい」
優花里「それにしても、冷泉殿」
麻子「何だ」
優花里「雰囲気が変わりましたね」
みほ「何ていうか、柔らかくなった、っていうか…」
華「女性らしくなったんじゃないでしょうか」
沙織「ね、みんな。どうしてだと思う?」
優花里「武部殿は理由を知ってるんですか?」
沙織「さっき会ってから、ずっとこの話を聞かれてさー」
麻子「沙織がその話題しか訊いてこないからだ」
みほ「何なの? その理由って」
沙織「麻子、言っていいよね?」
麻子「別に隠すことじゃない」
沙織「何と! 麻子に、彼ができましたー!」
みほ「えーっ?」
華「あらあら」
優花里「やりますね、冷泉殿」
沙織「どこの国の人だと思う?」
みほ「アメリカ人じゃないの?」
沙織「スペイン人だってさー!」
華「ラテン系ですか」
みほ「同じ大学の人?」
麻子「ああ。私が行ってる大学は、世界中から学生が集まるからな」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:36:08.68 ID:JiTN6bKjo
みほ「そっかー、それで…」
沙織「ここが、こんなになったんだよねー」プニプニ
麻子「胸を触るな」
華「雰囲気が変わったのは、女性らしい体つきになったからですね」
沙織「男に揉まれると大きくなるって、都市伝説じゃなかったんだねー」プニプニ
優花里「……」
華「優花里さんは、自分のどこを見ているんでしょうか」
優花里「あ、あははは。私のことはいいじゃないですか」
みほ「麻子さん、彼氏がスペインの人って…」
麻子「何だ」
みほ「麻子さんはスペイン語も喋れるの?」
麻子「いや。そいつとの会話は全部、英語だ」
みほ「あ、それもそうか。二人ともアメリカの大学にいるんだし」
麻子「私はそいつがスペイン語で喋るのを、聞いたことがない」
華「反対に、麻子さんが日本語で話すのを…」
麻子「ああ。そいつは聞いたことがないだろう」
優花里「なるほど」
麻子「セックスの最中に私が何語で何を叫んでるかは、自分で分かりようがないけどな」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:38:24.29 ID:JiTN6bKjo
みほ「ちょ、ちょっと麻子さん///」
優花里「冷泉殿……ストレートに言いますねえ」
麻子「事実だが、何か変か?」
沙織「麻子ったらもう、さっきからずっとこんな調子なんだよ」
麻子「質問に対して率直に答えるのが、おかしいのか?」
沙織「彼と会ったときには、必ずヤるとか言ってるし……」
麻子「健康な若い女と男なんだ。当然だろう」
沙織「会ったら、朝から晩まで、ずっとヤってるんじゃないの?」
麻子「それは違う。晩から朝までだ」
華「一日中か一晩中かの違いだけですけど」
優花里「彼氏は、白人の男性ってことですよね」
麻子「ああ」
優花里「冷泉殿は可愛い小柄な人だから、身長差がすごいんじゃないですか?」
麻子「“すごい”がどの程度なのか知らないが、そいつは南欧系だ。北欧の白人に比べれば小さい」
華「北欧三国やドイツなどの男性は、すごく大きいですね」
麻子「2メートル近いのがザラにいるな。私の相手は確か、180センチ前後だったと思う」
みほ「そのくらいの男の人だったら、日本でも普通にいるね」
沙織「じゃ、麻子でも大丈夫なんだ」
麻子「どういう意味だ? 確かに体の各部分がそれに見合った大きさだから、私でも可能だが」
みほ「“各部分”とか“大きさ”って///」
優花里「“私でも可能”ってのも言ってましたよ」
麻子「しかし、白人でも様々な大きさがあるそうだ。安易な一般化は避けるべきだ」
華「何だかお話が、男性のサイズ談義になってしまいました」
優花里「冷泉殿はアメリカへ行って、一気にいろいろなものが開花した感じですね」
みほ「麻子さんのイメージが、崩れていく……」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:41:00.05 ID:JiTN6bKjo
麻子「だが、そいつと会うのはせいぜい月に1回くらいだ」
みほ「あ、そうなの?」
麻子「課題やら何やらで、普段はそれどころじゃない」
沙織「へー。麻子、ちゃんと勉強してるんだ」
麻子「当たり前だ。アメリカまで遊びに行ってるわけじゃないんだぞ」
みほ「麻子さんの専攻って何?」
麻子「生物学」
優花里「生物学といっても、いろいろありますが」
麻子「Stem Cell Biology」
沙織「麻子、日本語でおk。聞いてもどうせ分からないけど」
麻子「日本語では…幹細胞生物学。私の指導教授はその世界的な権威の一人だ」
みほ「そういう先生がいるから、麻子さんの大学へ世界から人が集まるんだね」
優花里「冷泉殿は研究者を目指してるんですか?」
麻子「将来については未定だ。今は、教授の研究室に残れるようになることしか考えてない」
沙織「でも麻子は、幾ら勉強が忙しくたって、ちゃっかり彼を作ってるじゃん」
麻子「そいつの方から近寄ってきたんだ。やたらと話しかけてきて、気が付いたらこうなってた」
華「そのかたは、麻子さんのどういうところを好きになったんでしょうか」
麻子「知らない。ただ、欧米人の男は、アジア人女性のストレートでロングの黒髪が好きだな」
みほ「麻子さんの髪、綺麗だものね」
麻子「そいつに会うと、四六時中いじくりまわされる」
華「ふふふ。それは、いじられているのではなく、可愛がられているんでしょう?」
麻子「……そうとも言う」
沙織「おっ? 麻子がガラにもなく、照れちゃってる?」
優花里「あーもう今夜って、この話の展開、何なんですかねえ」
みほ「おノロケ合戦だよね、これ。やってられないよね」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:43:16.31 ID:JiTN6bKjo
沙織「何ぃ……?」
みほ「えっ」
沙織「みぽりん。それは、華がまたノロケてたってこと……?」
みほ「しまった。沙織さんの目に、変な炎が灯っちゃった」
華「沙織さん。あの夜の続きなら、もう勘弁してください」
優花里「武部殿が再び、発狂してしまう……」
沙織「華。そういえば今日、あんたは指輪してきてないね……。どういうこと?」
華「だから、それは許してくださいと、あれほど…」
沙織「どうして見せない!? 200万円の婚約指輪!!」
麻子「おい沙織、黙れ!…大きな声で言うことじゃないだろう」
沙織「……あ……」
みほ「そうだよ、沙織さん」
優花里「武部殿、自重を……」
沙織「……華、ごめん……」
華「いえ、いいんです。とにかく、わたくしはまだ学生ですから、そういうのは勘弁してください」
優花里「五十鈴殿なら、決して分不相応ではありませんが…」
みほ「生意気、って思っちゃう人もいるよね」
麻子「そんな高価な物を身に着けて、その辺りを歩くことなどできないしな」
沙織「……うん……」
優花里「でも、200万円…ですか」
みほ「値段を聞くと、興味が出ちゃうね。華さん、いつか見せてくれる?」
優花里「触らせろなんて、言いませんので」
麻子「画像をメールで送ってくれ」
華「皆さんまで……。後生ですから、もう許してください」
沙織「当然の反応だよ。私たちは女なんだから」
優花里「女の性(さが)ってやつですね」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:45:25.66 ID:JiTN6bKjo
みほ「それにしても、華さんも麻子さんも、羨ましいな」
優花里「冷泉殿なんて学業も恋愛も、全開でブッ飛ばしてるっていう勢いです」
みほ「それに比べて、私は……」
優花里「西住殿?」
みほ「……」
華「みほさん、どうしましたか?」
みほ「……う、ううん。何でもない……」
沙織「みぽりん。さっきからちょっと、おかしいよ?」
麻子「西住さん」
みほ「何?」
麻子「ここにいるのは全員、かつての仲間で、今でも大切な友人同士だ。だが一方で…」
みほ「……」
麻子「西住さんの今の生活とは、関係がない人間ばかりだ。何を喋っても後腐れはない」
沙織「そうだよ。私たちでよければ、話を聞くよ?」
みほ「……」
麻子「もちろん、無理にとは言わないが」
みほ「……分かった。みんな、聞いてくれる?」
華「みほさん、大丈夫なんですか?」
みほ「うん。みんなに話を聞いてほしい。それで、どう思うか言ってほしいの」
優花里「西住殿、一体何が……」
みほ「私、あの学園を卒業して、東京の大学へ入って…」
沙織「うん」
みほ「すぐに、彼氏ができたの」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:47:53.04 ID:JiTN6bKjo
沙織「みぽりんなら、男が群がってくるんじゃない?」
麻子「下品な茶々を入れるな、沙織」
みほ「でも、すぐに別れちゃって…」
沙織「えっ」
みほ「次の人も、そう。すぐ、別の人と付き合い始めたんだけど、長続きしなくて…」
優花里「……」
みほ「どの人もそうなの。一番長く彼氏でいてくれた人でも、4か月くらいだった」
沙織「ちょっと待って。そんなに何人もと付き合ったの?」
みほ「うん。いつも、別れたら、すぐに次の人から告白されて…」
沙織「……」
みほ「断る理由なんて特にないし、付き合い始めるんだけど…」
麻子「すぐに別れてしまう。その繰り返しか」
みほ「そしたら、そのうち変な噂が立つようになっちゃって…」
優花里「変な噂?」
みほ「いつも違う男の子を連れてる、とか…誰とでもそういうことをする、とか…」
優花里「ひどい……」
みほ「女の子たちからは、可愛いからっていい気になってる、って言われてるみたいだし…」
優花里「ひどい。ひど過ぎます。西住殿はそんなつもり、全然ないでしょう?」
みほ「当たり前だよ。私、何も…してないのに……」
沙織「みぽりん……」
みほ「男の子たちと、仲良く…してただけ…なのに……ううっ……」
華「みほさん、泣かないで……」
みほ「……ぐすっ。もう、女の子の友達も…告白してくれる、男の子も……」
優花里「……」
みほ「……一人も、いなく…なっちゃった……」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:49:45.45 ID:JiTN6bKjo
麻子「西住さん」
みほ「……う、うん……何……?」
麻子「今、何もしてない、と言ったな」
みほ「うん……それが、何……?」
麻子「本当に、何もしてないのか?」
優花里「どういう意味ですか?」
麻子「本当に何もしてないのなら、そんな噂の立つはずがない」
みほ「……ね、麻子さん。はっきり、言って?」
麻子「今の話だと、その噂が立った原因は、西住さんが付き合う男を頻繁に変えてることだ」
華「非常に言いにくいですけど、そうなりますね」
麻子「だから、西住さんは決して、何もしてないわけじゃない」
沙織「次々と男を変えてる、ってことをしてるのか」
みほ「じゃあ……私が、悪いの? だって、好きって言われたら、嬉しいし…」
優花里「……」
みほ「男の子と遊んでると、楽しいし……これが、悪いことなの!?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:51:24.53 ID:JiTN6bKjo
華「みほさん、落ち着いてください」
みほ「うん……ごめんなさい。でも、納得、できない……」
華「みほさんは、男性たちとお付き合いして一緒に遊んでいると、楽しいと言いました」
みほ「うん」
華「それならどうして、その楽しいお付き合いが長く続かないんでしょうか」
みほ「そんなの、分からない……。だって私、いつも、振られちゃうから……」
優花里「えっ!?」
沙織「みぽりんを振る男なんて、この世にいるんだ……」
優花里「でもまさか、“いつも”ってことはないでしょう?」
みほ「ううん。私から、別れたいって言ったことなんて、一度もない。全部、相手から」
優花里「そんな……」
みほ「浮気されてたことまで、あった」
優花里「ええっ!?」
華「みほさんほどの可愛らしいかたが、浮気をされてしまうなんて……?」
みほ「その人は突然、手をつなぐのさえしなくなった。後で、その時に別の彼女ができてたって…」
優花里「ゆっ、許せません!」ガタタッ
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:53:50.32 ID:JiTN6bKjo
麻子「秋山さん、落ち着け。座れ」
優花里「落ち着け!? そんなの不可能です! 西住殿、そいつの居場所を教えてください!」
みほ「ゆ、優花里さん……」
優花里「私がぶん殴ってやります! 西住殿を裏切るような、泣かすような奴を!!」
沙織「ゆかりん。お願いだから、無理言わないで」
華「静かにして座ってください。わたくしたちはもう、騒ぎ過ぎです」
沙織「お店中の人が、ゆかりんを見てるよ」
麻子「店員から何か言われるぞ。最悪、今すぐ退店だ。地元にいる五十鈴さんと沙織は出入り禁止」
優花里「……くっ……」
沙織「ね、ゆかりん。みんな同じ気持ちだよ。でも、そんなことしたって…」
華「問題は何も解決しません」
優花里「……は、はい……そうです。分かって、ます……」ガタ
沙織「問題は、みぽりんみたいな可愛い子がそんな目に遭う原因は何か、ってことだよね」
華「みほさんは可愛らしいから、周囲の男性は皆、お付き合いしたいと思うんでしょう」
沙織「だから、ある男と別れたら、すぐに次の男が告白するけど…」
麻子「関係が長続きしない。男は間もなく去ってしまう。これの繰り返しだ」
沙織「みぽりん。こうなっちゃう原因、何か心当たりないの?」
みほ「……」
華「原因がはっきりしなければ、今の状態がずっと続くことになるでしょう」
みほ「……あるよ」
優花里「え?」
みほ「心当たり。相手の態度が、変わるきっかけが、ある……。私、気付いてた……」
優花里「何ですか、それは?」
みほ「……駄目、言えない。……恥ずかしい……」
優花里「恥ずかしい……?」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:55:38.41 ID:JiTN6bKjo
麻子「西住さん」
みほ「……」
麻子「セックス、だな?」
優花里「れ、冷泉殿」
麻子「違うか? 西住さん」
みほ「……うん……。そう、だよ……」
沙織「麻子、どういうこと?」
麻子「大体の事情は推測できる。だが、極めて私的な話題だ」
華「こんな話題を、これ以上、本人にいろいろ訊いていいものか……」
みほ「……ううん。みんな、何でも訊いて?」
優花里「西住殿、無理をしなくても…」
みほ「ううん、無理なんかじゃない。だって私はさっき、話を聞いてほしいって言ったんだもの」
優花里「……」
みほ「だから、どんなことでも話す。さっきは、言えないなんて言って、ごめんなさい……」
麻子「じゃあ、西住さん」
みほ「うん」
麻子「はっきり、訊くぞ?」
みほ「うん……」
麻子「セックスで気持ちいいと思ったことはあるか?」
みほ「それは、あるけど……」
麻子「イったことはあるか?」
みほ「それは、ない。今まで一度も、経験してない」
麻子「挿入状態では難しいかもしれない。だが触られたり、舐められたりしてもか?」
みほ「舐める、なんて……アソコを? そんなこと、させないよ」
麻子「それなら反対に、男のを舐めてあげるか?」
みほ「やだ……そんなの、絶対しない」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:57:21.75 ID:JiTN6bKjo
麻子「体位をいろいろ試したか?」
みほ「普通ので、十分だよ……」
麻子「男は、様々なことをやりたがると思うが」
みほ「動物みたいな格好が好きな人も、いたけど…すぐやめてもらった」
華「動物みたい?」
沙織「後ろから、じゃない?」
華「あ、そうですね」
麻子「……推測したとおり、だ……」
華「……」
沙織「……」
優花里「……」
みほ「どうしたの? みんなで顔を見合わせて……」
麻子「西住さん。思ったことを、正直に言っていいか?」
みほ「何? 何でも言って?」
麻子「西住さんは、怒るかもしれないぞ?」
みほ「……」
麻子「席を立って帰ろうと思うかもしれないぞ? それでもいいか?」
みほ「くどいよ、麻子さん。私はさっき、どう思うか言ってほしいって言ったんだよ?」
麻子「それなら、言う」
みほ「……」
麻子「西住さんは、男にとって“つまらない女”なんだ」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 18:59:30.57 ID:JiTN6bKjo
優花里「……」
沙織「ゆかりん。みぽりんがあんなこと言われても、さっきみたいに怒らないんだね」
優花里「……そんなの、訊かないでください」
華「優花里さんも、麻子さんと同じことを思っているんでしょう?」
優花里「……」
華「経験のないわたくしでも、麻子さんと同感です」
麻子「セックスは女と男の、共同作業のはずだ」
沙織「でも、みぽりんの言ってることって、何でもかんでも、あれは嫌、これは駄目…」
華「こんな非協力的な態度では、その作業は成り立たないかもしれません」
沙織「でも、どっちかが完全に受身、どんなこともされるがまま、ってのもあり得ないけど」
麻子「そんな趣味の人もいるかもしれないが、非常にまれだろうな」
みほ「……うん……私、分かってた……」
優花里「西住殿……」
みほ「本当は私、気付いてたの。分かってたの」
優花里「……」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:00:58.44 ID:JiTN6bKjo
みほ「どの人も何回かしてるうちに、どんどん、がっかりした感じになってくの」
麻子「……」
みほ「私とじゃ、楽しくないのかな、気持ちよくないのかな、って思ってた」
華「……」
みほ「でも、どうすればいいのか、思い付かなかった。だから、どうしようもなかった」
沙織「……」
みほ「だけど本当は、それじゃ駄目だった。分かってたなら、何とかすべきだった」
優花里「……」
みほ「結局、ずっと私は、麻子さんの言った“つまらない女”のままだった……」
沙織「みぽりんって、こんなに可愛いのに…」
みほ「男の子にとっては、見た目が可愛いだけの女」
沙織「……」
みほ「それしか取り柄がない、残念な女」
麻子「……」
みほ「だから、すぐに飽きられちゃう……」
華「本当は全て、自分で分かっていたんですね」
みほ「うん。でも、このことから目を背けてた。心の奥の方へ押し込んで、見ないようにしてた」
優花里「……」
みほ「今、みんなに言われて、やっと向き合えた……」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:02:57.89 ID:JiTN6bKjo
優花里「でも、西住殿」
みほ「何?」
優花里「無理することは、ないと思います」
沙織「そうだね。今まで嫌だったことを、すぐできるようになるはずないじゃん?」
華「ええ。好き嫌いは、そう簡単に変えられるものではありません」
麻子「どうしても嫌なものは嫌だし、譲れない一線は必ずあるだろう」
沙織「いつか、そういうことも合わせて、みぽりんのことを全部好きになってくれる人が現れるよ」
みほ「……でも……そんな人、いるのかな」
優花里「……」
みほ「こんな私でも、受け入れてくれる人なんて、いるのかな……」
沙織「ちょっとみぽりん、何言ってるの?」
華「みほさんは、一生のうちに出会う人の全員に、もう会ってしまったとでも?」
麻子「まだ私たちにはこれから、いろいろなことが起こるぞ」
沙織「出会いだって、数え切れないほどあるよ」
麻子「ああ。You ain't seen nothin' yet」
みほ「え?」
麻子「すまない。つい……」
優花里「そのまま訳せば、“あなたはまだ、何も見ていない”」
華「“お楽しみはこれからだ”という意味です」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:05:35.24 ID:JiTN6bKjo
沙織「やっぱり体の相性って、大事なんだね……」
麻子「つまらん一般論でオチをつけようとするな、沙織」
沙織「そりゃあ、麻子は余裕だよね。相性バッチリの人に巡り会えたみたいだからさ」
華「わたくし、結婚が少々怖くなってきました」
沙織「華、どうする? 新婚初夜になって初めて、相手に欠陥があるって分かったら」
華「欠陥? 例えばどんなことでしょう」
沙織「例えば、もう駄目だったり。全然役に立たなかったりとか、さ」
麻子「あり得ない話ではないな」
華「少し、困るかもしれませんけど…今は、様々な不妊治療の方法がありますし」
沙織「じゃあもっと困るのは、実は変態だった、って場合か」
麻子「そっちの方が更に深刻だな。周囲としては面白いが」
華「その場合は…こちらがもっと変態的なことをすればいいんです」
みほ「華さんって変態さんだったの?」
華「どうしてそうなるんでしょう。例えば、の話です」
麻子「だが五十鈴さんは、SMのS嬢とかが似合いそうだな」
華「うーん……興味がなくもないですね」
沙織「五十鈴家って、女が絶対的な力を持ってるんでしょ?」
麻子「旦那を尻に敷いて、搾取するのか」
華「その意味では、五十鈴家は代々、S的な当主ばかりだったといえます」
みほ「華さんも伝統を受け継ぐんだね。やっぱり変態さんだったの?」
沙織「これが、五十鈴流……!」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:07:02.63 ID:JiTN6bKjo
華「下らない話はここまでにして、最後のお一人について、近況をうかがいましょうか」
沙織「最後の一人?」
麻子「五十鈴さんの近況は、もう報告済みか」
華「ええ、お二人が来る前に。例の婚約の話です」
みほ「華さん、麻子さん、私、と来て…」
華「最後は優花里さんです」
沙織「ちょっと! どうして私がハブられてるのよ!」
麻子「報告すべき近況なんてあるのか? 沙織」
みほ「沙織さん、相変わらずって聞いたけど」
麻子「もし最近、何か変化があったというのなら…」
華「わたくしたちはお話をうかがうのに、決してやぶさかではありません」
麻子「じゃあまず、男関係について話してみろ」
沙織「ぐぬぬ……」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:09:08.07 ID:JiTN6bKjo
華「では、優花里さん」
優花里「私ですか……。近況なんて、何を喋ればいいんでしょう」
麻子「これまでが全て、男の話だった」
華「ここはやはり、男性についてではないでしょうか」
優花里「……」
麻子「秋山さん。今、付き合ってる男がいるか?」
優花里「……」
華「どうしました?」
沙織「ゆかりん。さっき怒った時から、何だか元気なくなったね」
優花里「そんなこと、ないですよ」
麻子「話題を変えるか?」
優花里「いえ。それについて皆さんも、話したんですから……」
みほ「じゃあ、今、彼氏っているの?」
優花里「……」
みほ「優花里さんのお話、聞きたいな」
優花里「……西住殿…残酷、過ぎます……」
麻子「何か言ったか?」
優花里「何でもありません」
麻子「……」
優花里「……い、い……」
みほ「い?」
沙織「い……“い”ます? “い”ません?」
華「どちらなんでしょう」
優花里「……い、います……」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:11:51.77 ID:JiTN6bKjo
沙織「……!!」
みほ「これで…」
麻子「男のいた経験が、ないのは…」
華「沙織さんだけ、という事実が無慈悲にも明らかとなってしまいました」
沙織「う……うるさーい! 男がいれば偉いのか!?」
華「ということは、沙織さんはまだ…」
みほ「処女、なのかぁ」
沙織「だったら悪いか!? 悪いのか!? ああ!? 華だってそうでしょ!?」
麻子「何を言ってるんだ、沙織?」
みほ「今はまだ、そうみたいだけど…」
麻子「沙織には、五十鈴さんへデカデカと貼られた『売約済』の札が見えないのか?」
みほ「あまり長い間処女でいたら、体に悪いんじゃなかったっけ?」
華「言われてみれば、どこかでそう聞いたような……」
沙織「ない! そんなことは断じてない!」
麻子「ずっと処女を守ってれば、いいこともあるんじゃないか?」
沙織「いいこと?」
みほ「30歳まで処女でいると、魔法少女になれるんだよね」
沙織「何だそれは! なるわけないでしょ! そんなもの!」
華「沙織さん、魔法を使えるようになるんですね。変身したりとか」
沙織「華まで何言ってんのよ!」
麻子「変身する時、身体や服の変化は分子レベルにまで及ぶのか調べさせてくれ」
沙織「わけの分からんこと喋るな! 理系女め!」
みほ「変身アイテムとかは商品化しやすいものにした方が、おもちゃメーカーに親切だよ」
沙織「みぽりん、どうしてそんなことに詳しいのよ!」
麻子「まあしかし、30歳で“少女”とはずいぶん無理があるな」
華「でも今は、40代や50代の御婦人がたでも“女子会”を開くそうですから」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:14:04.92 ID:JiTN6bKjo
麻子「秋山さん、その男は大学の人か?」
優花里「はい……。私は大学で、軍事や歴史関係のサークルに入ってまして…」
華「同じサークルのかたですね」
優花里「はい。学年は一緒です」
麻子「同好の士か」
みほ「趣味が同じって、いいね」
優花里「……」
華「やはり、名前に“殿”を付けて呼ぶんですか?」
優花里「いえ、それは……」
沙織「どう呼んでるの?」
優花里「下の名前を、呼び捨てで……」
麻子「それなら、私たちに対して使うような敬語は…」
優花里「使いません。タメ口で話してます」
みほ「えー? 想像できない」
華「わたくしたちは敬語以外で話す優花里さんを、見たことがありませんものね」
麻子「逆に相手の男は、秋山さんをどう呼ぶんだ?」
優花里「同じく、下の名前を呼び捨てです」
沙織「お互いに呼び捨て? 何だか超いい雰囲気じゃない?」
華「恋人同士であるのと同時に、趣味が合う友達、仲間という雰囲気なんでしょうか」
優花里「自分自身では、よく分かりませんが……そんな感じだと思います」
沙織「でも、ゆかりんだって女の子だもんね」
みほ「その人に甘えたり、するの?」
優花里「……」
沙織「どうなの?」
優花里「……し、します……」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:16:24.19 ID:JiTN6bKjo
みほ「またまた、おノロケが来ちゃったー」
沙織「いやーん」
華「聞いているこちらが、赤くなってしまいます」
麻子「だが、どうしてそんなに、言いにくそうに話すんだ?」
みほ「照れてるんだよね、優花里さん?」
優花里「……」
みほ「ね、どんなふうにして甘えるの?」
優花里「……」
華「男性に甘える優花里さんも、想像できません」
沙織「これは、どうしても聞きたいよねー」
優花里「いいじゃないですか、そんなこと……!」
みほ「え……?」
麻子「秋山さん、どうしたんだ?」
沙織「ちょっと……ゆかりん、怒ってるの?」
華「わたくしたち、気に障るようなことを言ったでしょうか」
優花里「……怒ってなんか、いません。そう見えたのなら、すみませんでした」
沙織「それなら、今のは何?」
優花里「私は、彼の、ことが…」
みほ「うん」
優花里「確かに……今付き合ってる彼のことは、大好き、です……」
華「皆さん、今のを聞きました?」
みほ「聞いた聞いた!」
沙織「だいすきー! きゃー!」
麻子「……みんな、ちょっと待て。様子が変だ」
みほ「え?」
優花里「でも……今の、私には……もっと好きな人が、いるんです」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:18:40.25 ID:JiTN6bKjo
みほ「もっと、好きな人?」
優花里「……」
華「どういうことなのか、差し支えなかったら……」
優花里「……それは……言えません……」
麻子「今度は秋山さんが“言えません”か」
優花里「……」
沙織「……ね、ゆかりん」
優花里「何ですか……?」
沙織「その人って、もしかして、私たちがよく知ってる人?」
優花里「……」
沙織「私たちが、すごく、よく知ってる人じゃない?」
優花里「……」
沙織「ゆかりん。その人の名前を絶対に言わないから、教えてくれる?」
優花里「……約束して、くれますか……?」
沙織「うん、絶対に言わない。約束する」
優花里「……そう、です……。皆さんが、よく知ってる人、です……」
沙織「やっぱり……」
麻子「沙織、秋山さんと何を話してるんだ?」
華「お話の内容が、全く理解できません」
沙織「華、麻子。ゆかりんの“もっと好きな人”が、分からない?」
華「分かりません。わたくしたちがよく知っている人なんですか?」
麻子「共通の知り合いなんて、女ばかりだぞ?」
沙織「ね、二人とも。さっきゆかりんは、どうしてあんなに怒ったと思う?」
華「え……? あ……!?」
沙織「どうして、お店中の人、全員が見ちゃうくらいにすごく怒ったと思う?」
麻子「……まさか……」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:21:04.74 ID:JiTN6bKjo
みほ「ねぇ、みんな何話してるの? 私、全然分からない」
麻子「西住さ…」
沙織「麻子! 駄目だよ!」
優花里「五十鈴殿、冷泉殿、お願いです。約束してください。絶対に名前を言わないって」
華「分かりました……」
麻子「分かった。すまなかった」
みほ「……?」
麻子「だが……秋山さん」
優花里「何ですか?」
麻子「今、“男”がいるんだろう?」
優花里「そうです」
華「優花里さんは、どちらも………なんですね」
優花里「はい。そう、です……」
麻子「沙織はどうして、誰なのか分かったんだ?」
沙織「私、昔から、何となく気付いてたの」
優花里「……」
沙織「ゆかりんは、その人のことをすごく尊敬してる。でも、そういう気持ちだけじゃないって」
優花里「……」
沙織「これってもう、それ以上なんじゃない? 好きってことなんじゃない?って、思ってたの」
華「優花里さん。好き、なんですね……その人のことを」
優花里「……何度も、言わせないでください」
沙織「付き合ってる彼のことで、あんなに言いにくそうにしてたのは、これが理由だったんだね」
麻子「尊敬だけじゃなく恋愛感情も、なんだな。その人に対して持ってるのは」
優花里「そうです……私、好きなんです! 今までずっと、そして今でも、大好きなんです!」
一同「……」
優花里「昔、自分のこの気持ちに気付いた時、私はすごく悩みました」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:23:26.90 ID:JiTN6bKjo
華「自分は、ほかの人と違うのではないか、と?」
優花里「そのとおりです。私はまともな人間じゃないかもしれない、そう思いました」
麻子「だが、大学へ入って“男”ができた」
優花里「はい。彼が私に、好きだって言ってくれました。私、普通に、嬉しかったんです」
沙織「……」
優花里「彼を、好きになることができました。付き合うのも、普通にできました」
麻子「……」
優花里「そして、あれも……その彼と、ちゃんとできたんです」
華「それなら、その人に対する恋愛感情を、忘れることができたのでは…」
優花里「私はずっと、忘れようと努力してきました。勉強に没頭しました」
沙織「ゆかりんはものすごく勉強して、浪人までして今の大学へ入ったんだよね」
華「わたくしの大学など比較にならない、日本を代表する名門校の一つです」
麻子「その理工学部にいるんだ。秋山さんこそ、研究者を目指してるんだと思うが」
沙織「受験勉強中や、大学へ入った後は、その人を忘れられたんだね」
優花里「はい。決して、逃避だけのために勉強をしてきたわけじゃありませんが……」
沙織「……」
優花里「私が、今の大学と学部を志望したのは、研究でやりたいことがあったからでした」
麻子「……」
優花里「今は、やりたいことをできてます。それに、恋人もいますから……」
華「でも、今日…」
優花里「はい……。私は知って、しまいました」
麻子「その人が今、置かれている状況」
沙織「あんまり、幸せじゃない状況……」
優花里「さっきは、気が狂いそうでした……。不様なところを見せて、すみませんでした」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:25:53.62 ID:JiTN6bKjo
華「いえ……気に、しないでください」
優花里「生意気かもしれません。不遜かも、しれませんが…」
麻子「何だ」
優花里「私ならその人を、泣かせたりしない。もっと幸せにしてあげられるのに、と思いました」
沙織「……」
優花里「私、さっきの話を聞いて、決心したんです」
華「えっ」
沙織「ゆかりん、決心って……まさか」
優花里「私、言います。自分のこの気持ちを、その人に伝えます」
華「優花里さん、そんな……」
優花里「その人の、今の状況。それを知ってしまったのに、何もしない…」
麻子「そんな選択肢は、ないと言うのか」
優花里「そのとおりです。私は、ずっと迷ってました。でも、やっと決心がつきました」
華「優花里さん。言いにくいことですけど、あえて言います」
優花里「五十鈴殿。私、分かってます。拒絶されるのが確実って言いたいんですね?」
華「はい。その人に受け入れてもらえることは恐らく、絶対にありません。それでもいいと?」
麻子「その人は、秋山さんとは違う。拒絶どころじゃなく、嫌われてしまうかもしれないんだぞ?」
優花里「承知の上です。でも、受け入れてもらえる可能性は、決してゼロじゃありません」
華「可能性が低過ぎます。そんな賭けへ挑むことに価値があると、本気で思っているんですか?」
麻子「この賭けに敗れて誰よりも深く傷つくのは、秋山さん自身だ。分かってるはずだ」
優花里「何を言われようと、行動を起こさないでいるのは、私にとってあり得ません」
華「受け入れてもらえなかった場合、その後の関係へ影響が及ぶのは必然なんですよ?」
麻子「二人の関係だけじゃなく、全員の関係にもだろう。それでもやる気か?」
沙織「こら! みんな! 何をぐじゃぐじゃ言ってんのよ!!」
一同「……」
沙織「こんなに頭いい人たちが集まってて、問題はそれより前のことだって誰も分かんないの?」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:28:25.12 ID:JiTN6bKjo
優花里「武部殿。“問題はそれより前”って、どういうことですか?」
沙織「ゆかりん。自分が何をしようとしてるか、ホントに分かってる?」
優花里「分かってなければ、行動なんてしません」
沙織「へー、分かってるのかあ」
優花里「……何ですか、それ?」
沙織「私には、そう思えないんだけど」
優花里「何ですか? どうしてですか?」
沙織「ゆかりんはこの後すぐ、東京へ戻る前に、その人へ言う気だよね?」
優花里「もちろんです。直接言うつもりですから」
沙織「……」
優花里「東京へ戻ったら、お互いにいつもの生活が待ってます」
沙織「……」
優花里「会える機会は、極端に減るでしょう。タイミングは今しかありません」
沙織「ほら。やっぱり、分かってないじゃん」
優花里「どういうことですか? 説明してください」
沙織「冷静になれば、すぐ分かるんだけどなあ」
優花里「だから、何だって言うんです? 無駄に引き伸ばさないで、早く言ってください」
沙織「さっきはすぐ怒って、今はすぐイライラする。熱血路線は相変わらずだね」
優花里「いい加減にしてもらえませんか?」
沙織「じゃあ言うよ?」
優花里「いちいち断る必要なんてないですから、早く言ってください」
沙織「ね、ゆかりん。今の彼のこと、どうするの?」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:30:30.79 ID:JiTN6bKjo
優花里「……う……」
沙織「やっぱり、何も考えてなかったんだね。彼のこと」
優花里「……」
沙織「それとも彼に電話して、ちゃんとそっちを終わりにしてから、とでも考えてた?」
優花里「……」
沙織「そんなはずないよね。そう考えたくらいなら、絶対、思いとどまってる」
優花里「……」
沙織「だって、電話一本で決着がつくような話じゃないもん。誰でも想像つくよね、こんなこと」
優花里「……」
沙織「多分、彼のこと、頭のどこかにはあったと思う。さっき“大好き”って言ったくらいだし」
優花里「……は、はい……」
沙織「でも、もっと好きなその人のことで、感情が走り出しちゃった。突っ走っちゃった」
優花里「……」
沙織「すぐに行動だ、って決心した。ゆかりんは一直線な性格だからね」
優花里「……」
沙織「だけどそれは、彼にとってどんな行動だと思う? どんな意味になっちゃうと思う?」
優花里「……それは……」
沙織「ゆかりん。さっき自分がどうして、あんなに怒ったか憶えてる?」
優花里「……あ……」
沙織「何が、許せなかったんだっけ?」
優花里「……」
沙織「みぽりんが、どんな目に遭ったから…」
優花里「……」
沙織「ゆかりんは、許せなかったのか、憶えてる?」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:33:09.18 ID:JiTN6bKjo
みほ「優花里さん」
優花里「……はい」
みほ「優花里さんたちが何を話してるのか、私にはよく分からないけど…」
優花里「……」
みほ「優花里さんには今、彼氏がいる。でもほかに、もっと好きな人がいる、ってことだよね」
優花里「はい……」
みほ「私なんかが、口を出しちゃいけないことって、分かってるけど…」
優花里「何ですか? 何でも言ってください、西住殿」
みほ「優花里さんに、一つだけお願いがあるの」
優花里「言ってください。何ですか、それは?」
みほ「浮気だけは…浮気するのだけは、絶対にやめてほしいの」
優花里「……」
みほ「もちろん私、分かってる。同時に二人とかを、好きになっちゃうこともあるって」
優花里「……」
みほ「人を好きになっちゃう気持ちって、止められない」
優花里「西住殿……」
みほ「でも、一人と付き合ってる時に、隠れてほかの人と付き合うのだけは、絶対に駄目」
優花里「……」
みほ「さっき私、自分が浮気されてた話を、したよね」
優花里「はい」
みほ「浮気されてたって分かった時、私は怒るとか悲しいとか、そういう気持ちが起こらなかった」
優花里「……」
みほ「そのくらいショックだった。私、ちょっと、おかしくなっちゃってたと思う」
優花里「……」
みほ「立ち直るまで、時間が掛かった。こんなの、私が弱い人間だからかもしれないけど…」
優花里「そんなことありません。ひどい目に遭ったんです。そうなるのは当然です」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:35:01.01 ID:JiTN6bKjo
みほ「だから優花里さん。お願いだから、今の彼氏を、私と同じ目に遭わせないでほしいの」
優花里「……」
みほ「さっき、優花里さんは怒ってくれたよね」
優花里「あんなことして、すみませんでした」
みほ「ううん。私、嬉しかった。優花里さんが、私のことを心配してくれて」
優花里「……」
みほ「優花里さんは、浮気したその人を今すぐ殴りに行く、ってくらい怒った」
優花里「……」
みほ「浮気って、そういうことだと思うの。誰かを怒らせたり、悲しませたり…」
優花里「はい。誰も幸せになりません」
みほ「人を、裏切ることだものね」
優花里「浮気した人とその浮気相手だって、同じだと思います」
みほ「うん。仮に、その後ずっと、うまくいっても…」
優花里「“私たちが出会ったのは浮気、不倫、裏切りの結果です”なんて、大きな声で言えません」
みほ「優花里さん」
優花里「はい」
みほ「私は、優花里さんがこれから、その“もっと好きな人”に告白するかどうかは分からない」
優花里「……」
みほ「それこそ、本当に、私なんかが口を出しちゃいけないことだと思う」
優花里「……」
みほ「でも一つだけ、お願いを聞いてもらえるなら…」
優花里「浮気だけは、絶対にしちゃいけない。その前の関係に区切りをつけてから……ですね」
みほ「うん」
優花里「分かり、ました……」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:38:03.75 ID:JiTN6bKjo
沙織「ゆかりん」
優花里「はい」
沙織「焦っちゃ、駄目」
優花里「……」
沙織「みぽりんは、人を好きになる気持ちは止められない、って言った」
優花里「……」
沙織「そのとおりだと思う。でも、焦っちゃ駄目」
優花里「はい……」
沙織「ゆかりんのいいところは、その真っ直ぐな性格。でも周りを見失っちゃ、駄目だと思う」
優花里「はい。失礼、しました……」
沙織「取りあえず、東京へ戻ったら、彼に会いなよ」
優花里「そう……ですね」
沙織「もちろん私、その彼に会ったことは一回もない。今初めて、話を聞いただけ」
優花里「……」
沙織「でも彼のこと、何となく分かる。だってゆかりんの恋人で、仲間でもある男だもん」
優花里「……」
沙織「私たちも、ゆかりんの仲間。同じ仲間のことだから、分かる」
優花里「……」
沙織「いいヤツなんでしょ? その彼」
優花里「はい。いいヤツ、です……。私と気が、合います」
沙織「でも一方で、昔と同じように、今でもその人のことが大好き」
優花里「……」
沙織「ゆかりんは、どっちへ足を踏み出すのか…」
優花里「……」
沙織「それを決めるのは、東京へ戻って“いいヤツ”の顔を見た後でも、遅くないと思うよ」
優花里「はい……」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:42:23.89 ID:JiTN6bKjo
麻子「沙織」
沙織「何?」
麻子「大活躍だな」
沙織「そう?」
華「沙織さんの洞察力、機転、度量…」
麻子「これらがなければ、話の行方がどうなってたか分からない」
華「わたくしたちの集まりで、かつてこれほど、緊迫した局面があったでしょうか」
麻子「だがその局面の破綻は、沙織のお陰で回避できた。円満に収束したといってもいい」
華「優花里さんの近況報告と同時に、沙織さんのことも、何となく分かりましたね」
麻子「秋山さん」
優花里「はい」
麻子「沙織に諭された感想は?」
優花里「はい……。武部殿は、昔よりもっと優しく…何ていうか、もっと大きくなったと思います」
沙織「でしょ? ほれ見ろ!」
麻子「……何だ、また騒がしくなってきたな」
沙織「さっきはさんざんバカにされたけど、ゆかりんみたいに、ちゃんと分かってる人はいる!」
華「……せっかく、いい話で終わりそうだったのに、沙織さんという人は……」
沙織「モテ道武部流の家元、ザ・恋愛マスター武部沙織様は、パワーアップしたのだ!」ドヤァ
みほ「恋愛マスター?」
麻子「男性経験が皆無なのに、マスターなのか?」
沙織「あっ、ひどいー! バッチリ決めたんだから、今みたいに誉め讃えろー!」
華「それに、沙織さんは…」
沙織「え?」
華「昔から、そのモテ道とやらを口にしてますけど、門下生のいたためしがありませんね」
沙織「あーあー聞こえないー。ここはどこー私は誰ー」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:45:27.82 ID:JiTN6bKjo
みほ「優花里さんは東京へ戻ったら、また彼氏へ甘えられるんだね。いいなぁ」
優花里「……」
華「みほさん。もうそのお話は、終わりに…」
優花里「いえ、構いません」
麻子「秋山さん?」
優花里「私は、さっき皆さんから訊かれたことに、まだ答えてません」
沙織「そんなのは、いいって…」
優花里「西住殿だってあんな話題なのに、質問へ全部答えたんです。私も、話します」
みほ「優花里さんが彼氏へ、どうやって甘えるか、だよね?」
優花里「はい」
みほ「どんなふうにするの?」
優花里「例えば、あまり構ってくれない時なんかは…」
みほ「うん」
優花里「“構ってくれ”なんて言うのは恥ずかしくて、絶対できませんから…」
みほ「そうだよね」
優花里「“うぉりゃああ”とか叫びながら、タックルみたいにして抱き着くんです」
沙織「おお、ワイルド」
みほ「仲のいい男の子同士が、ふざけあってる時みたいだね」
華「いかにも優花里さんらしいです」
みほ「それで?」
優花里「そのまま相手の体を、いじくったりして…」
華「あら、本題に入ってきました」
みほ「くすぐったりするの?」
優花里「はい。お腹の肉を、つかんだりとか…」
沙織「はぁ!? お腹の肉をつかむ!?」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:50:03.76 ID:JiTN6bKjo
麻子「やかましい。大きな声を出すな、沙織」
みほ「どうしたの? 沙織さん」
華「びっくりすることが、何かあったでしょうか」
沙織「……だ、だって……」
麻子「だって、何だ」
沙織「……ゆかりんの彼って、ひょっとして……」
優花里「何ですか?」
沙織「太ってるの!? デブなの!?」
優花里「え? そうですが、何か?」
沙織「……」
麻子「沙織、何かおかしいのか?」
みほ「世の中には痩せた人もいれば、太った人もいるよね」
華「もしや沙織さんは、友達の恋人は格好のいい男性ばかり、とでも思っていたんでしょうか」
優花里「だとすれば、根拠のない思い込みですが。幻想、ファンタジーといってもいいです」
みほ「こういう思い込みする人ってたまにいるけど、どうしてそう考えちゃうのかな」
麻子「自分が付き合いたい男についての願望。それと、自分の仲間への奇妙な連帯意識が原因か」
優花里「仲間の彼氏がイケメンなら、自分だってイケメンと付き合えるはず、ってことですね」
華「実際には虚構、妄想、希望的観測にすぎませんけど」
優花里「武部殿が私の彼について、どんなイメージを勝手に作り上げてたか、知りませんが…」
沙織「な、何……?」
優花里「彼は、さっき武部殿が言ってくれたように、いいヤツです。頭も切れます」
沙織「……」
優花里「でも、そういうことを除けば、要するに…」
沙織「い、嫌あ……もう想像できるから、その先を言わないで……」
優花里「要するに、単なる軍事オタクの、キモデブですよ?」
沙織「嫌ああああああああああ」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:53:31.88 ID:JiTN6bKjo
優花里「私は、男性の場合は太めが好みだから、好きだって言われた時に嬉しかったですが」
みほ「“男性の場合は”?」
優花里「……とにかく、武部殿だって今後、デブから好かれる可能性がないわけじゃありません」
麻子「嫌なら断って、次を待てばいいだけだ」
沙織「そ、そんなことは、分かってるけどさ……」
華「でも、あまり選り好みしていると…」
優花里「そのうち、誰も告ってくれなくなるかもしれませんよ?」
麻子「自分から相手へ近寄ってく手もあるが、まず、その相手を見付けなくちゃならない」
華「そうこうしているうちに、年数がたち…」
みほ「沙織さん、本当に魔法少女になっちゃうよ?」
沙織「い……嫌、それだけは、絶対に嫌!」
優花里「それなら武部殿、イケメンじゃなくても妥協できるんですか?」
沙織「い……嫌、イケメンじゃなきゃ、絶対に嫌!」
麻子「沙織。私の相手も、どんな奴だと思ってたんだ?」
沙織「麻子の彼は……スペインとかイタリアによくいるタイプの、ラテン系の…」
麻子「多分、そういう国のサッカー選手みたいな男を想像してたんだろうが、全然違うぞ?」
沙織「じゃあ、どんなのだって、言うのよ……」
麻子「秋山さんの男とは逆に、ガリガリだぞ? 顔は馬にそっくりだ」
沙織「もう嫌あああああ。どうしてそういうこと言うのよおおおおお」
麻子「私はそいつのことを密かに“ロシナンテ”と呼んでる」
優花里「スペインつながり、ですか。そのあだ名はあんまりだと思わなくもないですが」
みほ「どういう意味?」
華「小説『ドン・キホーテ』に出てくる、痩せっぽちの馬の名前です」
みほ「なるほど」
麻子「そいつに跨って髪を振り乱しながら腰を振ってると、私は何をやっとるのかとたまに思う」
みほ「ま、麻子さん、露骨過ぎだよぉ///」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:56:09.89 ID:JiTN6bKjo
華「まったく……これだから沙織さんは“恋に恋する乙女”などと言われてしまうんです」
沙織「華! 華のフィアンセはどうなの?」
華「わたくしの相手だって、大した外見ではありません」
沙織「あんた、顔とかの画像を全然見せてくれないよね!? 画像も、指輪も!」
華「画像なんて携帯へ入れていないし、写真を持ち歩いたりなどもしていません」
沙織「あ……でも、華の男はステータスが半端ないか」
華「どういうことでしょう」
沙織「弱冠30過ぎで幾つもの会社の役員。年収はもちろん1千万を軽く超える。ヤンエグだよね」
優花里「“ヤンエグ”なんて死語、よく知ってますねえ」
みほ「これは、どういう意味?」
麻子「Young Executive。“若手経営者”だな。数十年前に日本でこの言葉が流行ったらしい」
優花里「当時は“大企業の若手社員”くらいの、もっと軽い意味で使われてたみたいですが」
沙織「この半端ないステータスなら、ちょっとくらいルックスが悪くてもいいよね」
麻子「沙織。お前は、かなり失礼なことを平気で言ってるのが分からんのか?」
華「はぁ……それは確かに、わたくしの婚約者について、事実はそのとおりですけど…」
沙織「な、何よ、“確かに”とか“けど”って……。華まで、何を言い出すのよ……」
華「その外見は、ただの貧相な小男ですよ? 身長がわたくしより低いです」
沙織「もうそんなこと聞きたくないよおおおおおおお」
麻子「こんな奴は放っておいて、そろそろ2次会の打合せをしよう」
みほ「やっぱりカラオケ?」
優花里「賛成です!」
麻子「ここを出たら、近くのカラオケボックスへ入るか」
華「わたくしに、お店の心当たりがあります。予約の電話をしてきましょう」ガタッ
麻子「任せた。何から何まですまない、五十鈴さん」
華「いえ」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 19:58:19.82 ID:JiTN6bKjo
沙織「じゃ、じゃあみぽりん! 最後の砦! みぽりんの元カレたちは?」
みほ「別に……みんな普通だったけど」
沙織「デブって、いなかったの?」
みほ「太った人……特に、いなかったなぁ」
沙織「じゃあガリは?」
みほ「すごく痩せた人も……いなかったと思う」
沙織「小男は?」
みほ「うーん……中肉中背、っていうのかな。そういう人ばっかりだった」
沙織「おお! さすがみぽりん! やっぱ普通の男だよね! 普通が一番!」
みほ「でも沙織さん、みんな普通過ぎて…」
沙織「えっ」
みほ「誰が誰だったのか、分からなくなる時があるの」
沙織「何? どういうこと?」
みほ「何だか特徴のない人ばかりだったなぁ、って思うの」
沙織「でも……顔は、みんな違うでしょ?」
みほ「それが、顔まで普通なの。みんな普通の顔。カッコよくもないし、悪くもない」
沙織「何よそれ……。イケメンばっかりだった、なんて答えはもう期待してないけどさ」
麻子「さすがに沙織も学習したか」
みほ「みんな、体格も顔も、服装まで、同じように特徴がないタイプの人だったの」
沙織「……」
みほ「周りの女の子たちからは、“西住さんの量産型元カレ”って、一括りにされてる」
麻子「記憶が混乱するのは、そういう理由か」
みほ「うん。いつ誰が、私を選んでくれたのか、分からなくなる時が…」
沙織「ちょっと、変な言い方しないでよ! 人気があり過ぎて困ってる風俗嬢みたいじゃない!」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 20:01:22.16 ID:JiTN6bKjo
華「……電話をしてきました。ちょうど、この人数向けの部屋が取れました」
優花里「五十鈴殿。未来の会社役員令夫人に、そんな雑務をさせて恐縮です」
華「お安い御用なので、気にしないでください」
麻子「カラオケは久しぶりだ」
華「ボックスとしては少しだけ高級なので、お料理とお酒の質も問題ないと思います」
みほ「華さんって、ここや次の所みたいないいお店、たくさん知ってるね」
麻子「沙織。同じ地元民として、沙織も見習え」
沙織「……」
優花里「武部殿が放心状態になっちゃいました」
華「沙織さんには、今夜のお話はいろいろと刺激が強過ぎたでしょうか」
優花里「でも、実際に経験する前に現実を知っておくのは、有意義だと思います」
麻子「女なら、いつかは誰もが通る道だからな」
みほ「通らなかったら、魔法少女だものね」
沙織「……う、うるさーい! そんなものには絶対ならないって言ってるでしょ!」
麻子「じゃあ、沙織が魔法少女化を免れたら、また集まろう」
優花里「そうですね。男性の話をしなかったのは、武部殿だけです」
みほ「次の同窓会で、最初の話題は沙織さんの彼氏のことに決定だね」
華「したがって、次回を開けるかどうかは、沙織さん次第となりました」
沙織「ふ、ふん……まっかせといて! 男くらい、すぐにでも作ってやる!」
みほ「でも、沙織さん」
沙織「何?」
みほ「焦っちゃ、駄目だよ?」
沙織「……」
みほ「沙織さんなら、大丈夫だと思うけど。誰でもいいから早く、なんて考えちゃ駄目だよ?」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 20:04:14.85 ID:JiTN6bKjo
沙織「や、やだなみぽりん。そんなことしないよ」
みほ「ちゃんと、相手の人のことを好きにならなくちゃ」
沙織「……」
みほ「私、付き合った男の子たち全員に、結局振られちゃったけど…」
沙織「何?」
みほ「私は、みんな、大好きだったの」
沙織「……」
みほ「仕方なく付き合ったとか、そんな男の子なんて一人もいない。私はみんな、大好きだったの」
沙織「……」
みほ「だって、私を好きになってくれた人だもの。好きだって、言ってくれた人だもの」
沙織「ね、みぽりん」
みほ「うん」
沙織「これからも、人を好きになれそう?」
みほ「もちろんだよ。私、人を好きになるって、こんなに楽しいことだって知らなかった」
沙織「……」
みほ「私、大学生になって、初めて彼氏ができた」
沙織「……」
みほ「それまで、好きな人と一緒にいるのが、こんなに楽しいことだなんて全然知らなかった」
優花里「……でも、西住殿」
みほ「何?」
優花里「人を好きになるのは、たまに、つらいことです」
みほ「うん。私は、人を好きになったのと同じ回数、つらい気持ちにもなった」
優花里「……」
みほ「だけど、これからも人を好きになると思う。だってそれは、やっぱり素敵なことだもの」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]:2013/09/28(土) 20:06:26.10 ID:JiTN6bKjo
麻子「ほんの少し前までベソをかいてた西住さんとは、まるで別人だな」
みほ「みんな、さっきは心配掛けてごめんなさい。私、もう大丈夫だから」
沙織「何のこと?」
みほ「え?」
沙織「私はみぽりんのこと、これっぽっちも心配してないよ?」
華「わたくしもです。みほさんについて何かを心配するなど、必要ありません」
麻子「他人へ相談なんてしなくても、自分で状況を打開してたに違いない」
沙織「今日、私たちが相談相手になったのは、ただの偶然だよ」
麻子「沙織みたいな“自称恋愛マスター”に相談しても、得られることなどたかが知れてるからな」
沙織「あっ、またそんなこと言うか! さっき誉め讃えたのは何だったのよ!」
麻子「やかましい。さあ西住さん、お楽しみはこれからだ」
みほ「麻子さん。私、憶えたよ。You ain't seen nothin' yetだったね」
華「一度聞いただけなのに、麻子さんと発音まで同じ。さすがみほさんです」
沙織「クラス全員のプロフィールを憶えちゃった抜群の記憶力は、昔のままだね」
優花里「西住殿。私たち5人のこれからも、今夜の同窓会も、まだ始まったばかりです!」
華「ではみほさん、わたくしたちに指示してください」
みほ「分かりました。じゃあみんな! ここを出て、次はカラオケ大会です!」
沙織「了解! あんこうチーム、カラオケボックスへ展開!」
華「2次会へパンツァー・フォー!ですね」
優花里「ヒヤッホォォォウ! 歌いまくるぜぇぇぇ!」
麻子「今夜はかなり、キツめにいくぞ」
一同「すいませーん、お勘定!!」
終
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2013/09/30(月) 19:06:17.10 ID:6jxp16UFo
皆さん、レスありがとうございます。
この話を着想した時は、5人にただダラダラと酒を飲ませて、思い出話をさせるだけの
積もりだったのですが、書き始めたらこうなってしまいました。
結局、そうした話がほとんど出てこないどころか、「戦車」の2文字が一度も
使われない有様です。
1か所、訂正があります。
>>49における沙織のセリフ中「若干」は「弱冠」の誤りです。
失礼しました。
最後に、これを読んでくださったかたがた、全員にお礼を申し上げます。
ありがとうございました。
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2013/09/28(土) 20:18:10.96 ID:wMqOloUJo
乙。
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2013/09/28(土) 21:53:51.58 ID:cTkEVNRio
乙
前にもガルパンのSS書いてた人かな?
何となくだが、話運びが似てるような気がする
【ガルパン】みほ「……キス……1回だけ……」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]:2013/09/28(土) 21:54:37.45 ID:G9mGgbilO
乙

Entry ⇒ 2014.08.20 | Category ⇒ ガールズ&パンツァー SS | Comments (12) |
エルヴィン「最近グデーリアンが付き合い悪い」【ガルパン】

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 22:41:38.75 ID:djbmqz910
エルヴィン「そう思わないか?」
カエサル「付き合いも何も、元々グデーリアンはあんこうチームと仲良しじゃないか」
エルヴィン「でももっと仲良くしたい」
カエサル「友達の取り合いは色々と問題を起こすことがあるぞ、気が合うときに
遊ぶのが一番いい」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/08(日) 22:56:25.70 ID:cx6GKP3aP
ほう
8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 22:56:35.01 ID:+4cGb8xG0
意外とクールなカバさんチーム
2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 22:45:45.67 ID:djbmqz910
おりょう「ではいっそのこと、あんこうチームとも仲良くすれば良い」
全員「それだ!!」
左衛門佐「で、あんこうチームはどの戦国武将が好きなんだ?」
エルヴィン「」
カエサル「」
おりょう「」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/08(日) 22:48:07.16 ID:djbmqz910
左衛門佐「な、なんだ、何か変なこと言ったか?」
カエサル「自分の趣味が他人と合うことを前提として物事を考えるのは良くないぞ」
おりょう「そうだ、八重の桜も放送され今や時代は幕末志士ぜよ」
カエサル「え?」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 22:50:03.51 ID:djbmqz910
エルヴィン「待て待て、あんこうチームも戦車道履修者、したがって欧州戦線――
カエサル「待て、いったん全員落ち着け」
左衛門佐「カエサル、いまさらテルマエ・ロマエを持ち出して時代は古代ローマなどと――
カエサル「黙って聞け!!」
左衛門佐「はい」
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/08(日) 22:53:10.48 ID:djbmqz910
カエサル「いいか、我々のような歴史大好きという女性は一部メディアで取り上げられてはいるが基本的に少数派だ、普通はそんな話をされても――
エルヴィン「わかっている」
左衛門佐「ドン引きされると言いたいんだろ」
おりょう「修学旅行の希望の行き先で上田城や京都霊山護国神社と答えた時のように」
カエサル「うん……ああ」
6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 22:55:07.16 ID:djbmqz910
エルヴィン「では逆に聞くが、あんこうチームについて我々は何を知っている?」
カエサル「え……グデーリアンは戦車が好きで、武部さんは恋愛の話が好きで……後は…」
左衛門佐「むしろ、普通の女子高生とは放課後にどこに遊びに行って何の話をしているか
知っているか?」
カエサル「う……」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 22:57:43.12 ID:djbmqz910
おりょう「我々のような、変り種は、変り種で集まるしかないぜよ、友達を増やすなんてのは
夢物語ぜよ」
カエサル「ひ、卑屈になってはダメだ、現にグデーリアンという仲間が増え、彼女はあんこう
チームとも仲良くしてるじゃないか、大体おりょうはゴモヨさんとも仲良く話してたじゃないか」
おりょう「まあ、あれは――
カエサル「ともかく、今日はグデーリアンを誘い出して、あんこうチームと仲良くする方法
を考えようじゃないか」
「それだ!!」
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:03:00.81 ID:djbmqz910
みほ「優花里さんですか?」
沙織「カバさんチームと一緒じゃないの?」
エルヴィン「いや、最近一緒してないんだ」
沙織「え、私たちも遊んでないよ」
みほ「エルヴィンさん達と遊んでるから早く帰ってると思ってた」
13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:07:30.58 ID:djbmqz910
華「誰か、新しい友達でも出来たんでしょうか?」
沙織「いや、これは彼氏が出来たんだよ!!」
みほ「彼氏ですか?」
エルヴィン「デートでもしているのか?」
カエサル「遊就館に行くのか?」
左衛門佐「浜名湖の湖畔で彼氏と四式中戦車について語るかも知れん」
14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:10:34.15 ID:djbmqz910
おりょう「新婚旅行はクビンカ戦車博物館ぜよ」
カバさんチーム「それだ!!」
沙織「違うよ、ゆかりんは早く帰ってご飯の支度をするんだよ」
麻子「それで?」
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:12:59.32 ID:djbmqz910
沙織「だだいま、優花里~」(低音)
沙織「お帰りであります、男殿」(声真似)
沙織「おなかがぺこぺこだぁ」(低音)
沙織「ご飯出来ているであります」(声真似)
沙織「って感じで同棲してるとか」
16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:15:17.31 ID:djbmqz910
麻子「ちょっと待て、秋山さんは実家住まいだろ」
沙織「通い妻だね」ヤダモ‐
華「でも、それは無いでしょうね」
沙織「じゃあ、華はゆかりんが何してるんだと思うの?」
華「戦車に乗って、この世の悪と戦っているのではないでしょうか」
左衛門佐「悪って……」
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:17:05.92 ID:djbmqz910
華「たとえば、違法駐車している、暴走族の車を踏み潰すとか!!」
おりょう「容赦の無い正義の味方ぜよ」
エルヴィン「T55二両で仕返しに来た、暴走族をパンターFで返り撃ちするのか」
華「まさに正義の味方ですね」
みほ「そんなの難しすぎるよ」
全員「」
全員(出来ないとは言わないんだ)
18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/08(日) 23:19:24.71 ID:djbmqz910
エルヴィン「それなら、今年の戦車道大会の隊長の記録を書いてる可能性のほうが高いかな」
みほ「私の? 作ってどうするんですか」
エルヴィン「コミケで売るんです」
カエサル「グデーリアンならありうるな」
みほ「ええ、そんなの恥ずかしいよ」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:21:53.45 ID:djbmqz910
沙織「ん~、そうだ一年の桂利奈ちゃんはアニメの再放送を見るために飛んで帰る
ことがあるらしいよ、ゆかりんもなにか見たいテレビがあるんじゃないかな」
エルヴィン「それは無いな」
カエサル「ディスカバリーチャンネルもナショナルジオグラフィック、ヒストリーチャンネル
も今の時間グデーリアン好みの番組はやっていない」
おりょう「我々は、お互いの邪魔にならないように好きな番組の放送時間は掌握ずみぜよ」
沙織「そ、そうなんだ」
22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:26:51.45 ID:djbmqz910
麻子「まあ、お金を使いすぎて、実家で手伝いでもしてるんだろう」
華「ありきたりですね」
麻子「ありきたりで何か問題か?」
華「もっと刺激的なことが起きていて欲しいです」
麻子「じゃあもういっそ、秋山さんの後ろから付いていって何をしているか
調べれば良いじゃないか」
全員「それだ!!」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:28:52.83 ID:djbmqz910
翌日
優花里「それでは、予定がありますのでお先に失礼します!!」
みほ「うん、じゃあね」
沙織「……今日もすぐに帰ったね」
みほ「それでは、ピタピタ作戦開始します、優花里さんにピタッと張り付いて様子を伺います
優花里さんは感が鋭いですから、皆さん十分に注意してください」
全員「はい!!」
24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:31:27.31 ID:djbmqz910
華「なんかワクワクしますね」
みほ「戦車道以外でこんなことするの初めて」
沙織「彼氏に告白されたみたいにどきどきする」
左衛門佐「武部さんは彼氏が居るんですか」←純粋な目
沙織「え、いやその」
華「沙織さん、素敵な彼氏について教えてあげませんと」ニッコリ
沙織「華ひどい!!」
25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:33:26.21 ID:djbmqz910
麻子「それにしても、秋山さんのあのリュックは目立つな」
華「どこに居ても、すぐ見つけられますね」
左衛門佐「しかし、あれが彼女の個性」
カエサル「自分を偽るようになってはいけない」
エルヴィン「自分の人生は自分で演出する!!」
カバさんチーム「それだ!!」
28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:37:14.78 ID:djbmqz910
みほ「優花里さん、鼻歌歌ってるみたい」
麻子「全然聞こえないぞ」
沙織「何歌ってるの」
みほ「そこまでは良くわからない」
左衛門佐「よし、先回りして調べてくる」
29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:38:56.75 ID:djbmqz910
みほ「気づかれますよ」
左衛門佐「大丈夫、去年は忍道を選択していた、任せて」
みほ「それじゃあ、お願いします」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:40:25.81 ID:djbmqz910
優花里「進めや進め諸共に 玉ちる劔拔き連れて♪」テクテク
左衛門佐「」コソッ
カエサル「何を歌ってた?」
左衛門佐「曲名はわからないが、すすめやすすめめもろともに たまちるつるぎぬきつれて♪」
おりょう「抜刀隊ぜよ」
エルヴィン「いや陸軍分列行進曲だ」
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:42:14.99 ID:djbmqz910
カエサル「どっちだ?」
おりょう「テンポが違うはずぜよ」
エルヴィン「歌え左衛門佐」
左衛門佐「~♪~♪」
おりょう「めちゃくちゃなテンポぜよ」
エルヴィン「しっかり歌え!!」
32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:44:40.81 ID:djbmqz910
左衛門佐「いっぺん聞いただけでしっかり歌えるか!!」
左衛門佐「もう一度聞いてくる」ダッ
みほ「もういいです!!いかなくていいです」ガシッ
沙織「あ、コンビニに入っていくよ」
左衛門佐「アルバイトか」
麻子「アルバイトなら、裏口から入るだろう」
33 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:46:40.02 ID:djbmqz910
みほ「今日は新しい電球が入ってるはずだから、見に行ったのかな?」
カエサル「電…球?」
左衛門佐「電球が切れたのか?」
みほ「コンビニに新しい商品が入ったら見に行きたくないですか?」
エルヴィン「なんで?」
おりょう「?」
34 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:48:56.47 ID:djbmqz910
沙織「ああ、みぽりんはコンビニが好きなんだよ、なにが良いのか良くわからないけど」
みほ「ええ?、可愛いのに」
カエサル「」
左衛門佐(隊長の
エルヴィン(意外な
おりょう(一面を見たぜよ)
36 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:51:52.27 ID:djbmqz910
麻子「コンビニの次は図書館か」
沙織「意外だね」
華「勉強でもしているんでしょうか」
沙織「でもテストはまだ先だよ」
麻子「テストが無いと勉強してはいけない理由も無いだろ」
37 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:53:50.72 ID:djbmqz910
沙織「そりゃそうだけど」
みほ「私、試験前にみんなで勉強するってのにあこがれてるの」
沙織「いいね、今度やろう」
エルヴィン「あまりお勧めしない」
沙織「なんで?」
39 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:55:41.16 ID:djbmqz910
おりょう「勉強が捗ったためしが無いからぜよ」
カエサル「でも私としては、それをすることは様式美だと思うのだが」
左衛門佐「どうしてもしたいのなら試験が終わってから答え合わせくらいだな」
麻子「試験なんか教科書からしか出ないんだから、試験前に教科書見れば十分だろ」
全員「それは無い!!」
41 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/08(日) 23:58:43.26 ID:djbmqz910
図書館内
みほ「優花里さん目的は何なんだろう?」
沙織「図書貸し出しカードに自分の名前残すつもりかな?」
麻子「そんなことをするのは沙織だけだ」
華「もう図書貸し出しカードに名前を残せないんじゃないですか?」
麻子「そう、それでしょぼくれて帰ってきたんだ」
沙織「ひどいよ」
42 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/09(月) 00:01:43.38 ID:DSS88p+H0
エルヴィン「グデーリアンはやはり歴史コーナー――じゃなく歴史小説コーナーに行くな?」
華「なにかの本をとりましたね」
おりょう「おおっ、あれは司馬遼太郎の竜馬がゆく!!」
おりょう「ついにグデーリアンも幕末のすばらしさに――
みほ「静かにしてください」ガバッ
おりょう「むぐぅぅぅ」
44 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/09(月) 00:03:13.53 ID:DSS88p+H0
左衛門佐「で、それから机に向かって数十分」
華「本当にただ、本を読んでるだけみたいですね」
みほ「時々ノートに何か書き込んでるけど」
麻子「あきてきた」
エルヴィン「もう声をかけてしまっても良いんじゃないか?」
麻子「賛成」
左衛門佐「異議なし」
45 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/09(月) 00:07:10.56 ID:DSS88p+H0
沙織「じゃあ、声かけるよ」
沙織「へい彼女、今一人?」
優花里「うわっ!?武部殿……に皆さんどうされたんですか!?」
みほ「最近優花里さんの様子がおかしかったから、後をつけてたんです」
カエサル「さっきからなぜ、竜馬がゆくを読みながらメモを取ってるんだ?」
優花里「あ~えっと、その」(///)
46 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/09(月) 00:08:47.44 ID:DSS88p+H0
優花里「えへへっ、実は歴女チームの皆さんともっと仲良くなりたくて、各分野の知識も
持っておこうと思いまして、ここしばらくは図書館通いをしていたんです」
みほ「すごい、ノートに幕末、戦国、ローマ史までびっしり書き込んである」
麻子「本当に勉強しに来てたのか」
優花里「皆さんに、こういうことしてるって言うのは少し恥ずかしいです」
カエサル「恥ずかしいのはこっちのほうだ」
47 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/09(月) 00:10:24.69 ID:DSS88p+H0
エルヴィン「まったく、グデーリアンは可愛いな」ギユッ
優花里「うえぇぇ、エルヴィン殿」(///)
左衛門佐「我々は話を聞いてもらうだけでうれしいのに」ギユッ
優花里「ちょっ、左衛門佐殿まで!!」
おりょう「しかし、どれだけ知識を集めたかテストする必要があるぜよ」
カエサル「よろしい、これから全員で集まって勉強会だ、我々の知識を披露させてもらうぞ」
カバさんチーム「それだ!!」
48 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/09(月) 00:12:25.79 ID:DSS88p+H0
エルヴィン「あんこうチームはどうする?」
沙織「う~ん、お邪魔になりそうだから、別の機会に」
カエサル「そうか」
沙織「ゆかりん、今度は私たちとも遊ぶんだからね」
優花里「はい」
みほ「優花里さん、良い友達が増えてよかったね」
優花里「はい!!」
カエサル「私たちもあんこうチームと仲良くなれて良かった」
おりょう「めでたしめでたしぜよ」
おしまい
51 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2013/09/09(月) 00:14:24.77 ID:DSS88p+H0
おまけ
優花里「東京でオリンピックの開催が決まったようですけど、私としては
オリンピックは鹿児島、東京はコロネットだと思うんです」
49 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/09(月) 00:13:51.55 ID:NDnB05bf0
乙乙
50 : 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/09/09(月) 00:13:54.47 ID:n1zcTcAq0
おつ
ほほえましい

Entry ⇒ 2013.11.03 | Category ⇒ ガールズ&パンツァー SS | Comments (13) | Trackbacks (0) |
【ガルパン】みほ「もっと強く、抱いて」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 19:49:02.36 ID:u37htMRu0
・『ガールズ&パンツァー』で、シリアスものを書いてみました。
・エロ、百合要素一切無し。ギャグ要素ほとんど無し。
・非道徳的、反社会的な描写があります。ガルパンの雰囲気にそぐわないと思うかたは、このSSを無視していただいた方がいいかもです。
・オリキャラが、影がチラつく程度ですが登場します。名前が頻繁に出てきますので、苦手なかたは御注意ください。
・ガルパンSSは手軽に読める短編が多いですが、これは長いです。九つのパートから構成されています。
上記にありますがキャライメージが崩れる表現があるかもしれません。
閲覧される場合は自己責任でおねがいします。
【管理人】
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 19:51:58.54 ID:u37htMRu0
1
みほ「このお店、懐かしいね」
華「そんな……あの時から、まだ1年もたっていませんよ」
みほ「前に来たのは……」
華「みほさんとわたくしとで来たのは、沙織さんと一緒に生徒会へ乗り込んだ日です」
みほ「うん。あの後だった」
華「みほさんが今日選んだアイスは、あの時と同じですね」
みほ「あ、分かってた? そう言う華さんも、同じの頼んだよね」
華「何となく、です……」
みほ「あの日が何だか、すごく前みたいに感じる」
華「いろいろなことがありましたから」
みほ「あの日から、始まって……本当にいろいろなことがあったよね」
華「ここのアイスのおいしさは、何事もなかったみたいに変わっていませんけど」
みほ「華さん」
華「はい」
みほ「私たちは、変われたかな」
華「……」
みほ「私たち、あの全国大会を経験して……」
華「……」
みほ「ほんの少しでも、成長できたかのな」
華「みほさん……」
みほ「あ……今は、私が話をする時じゃないよね」
華「……」
みほ「華さんが、話があるって言うから、一緒にここへ来たのに。ごめんね」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 19:57:50.39 ID:u37htMRu0
華「いえ……」
みほ「何なの? 話って」
華「……優花里さんのことです」
みほ「優花里さんの、こと……?」
華「はい」
みほ「どんなこと?」
華「臭いが、するんです」
みほ「臭い?」
華「ええ」
みほ「えーと……優花里さんから?」
華「はい」
みほ「どんな臭い?」
華「みほさん」
みほ「うん」
華「――驚かないで、くださいね」
みほ「――どうしたの? 急に小声になったりして」
華「――タバコです」
みほ「……」
華「……」
みほ「た、た……」
華「……みほさん?」
みほ「た、た……たったた」
華「落ち着いて」
みほ「たっ、タバコぉ!?」
華「しっ」
みほ「あ……ごめん」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:00:28.34 ID:u37htMRu0
華「大丈夫ですか?」
みほ「――華さん」
華「――何でしょう。今度はみほさんが、声をひそめて」
みほ「――今、生徒が、このお店の中にいる?」
華「――待ってください。窓ガラスに映っているのは……」
みほ「――私から見える範囲には、誰も映ってない」
華「――それなら……いないようですね」
みほ「――……」
華「――こちらから見えるのは御婦人のグループだけ。自分たちの話に夢中です」
みほ「――それなら、私がさっき叫んじゃったのは、気付かれなかったね」
華「――わたくしが振り返って、目視で確認します」
みほ「――……」
華「大丈夫です。もう、普通に喋っても問題ありません」
みほ「うん……」
華「落ち着きましたか?」
みほ「……ごめん……驚かないで、って言う方が、無理」
華「そうですよね」
みほ「二人だけで話したい、って言うから……」
華「アイスクリームを食べながら、の話題ではなかったでしょうか」
みほ「ううん……それは別にいいんだけど……」
華「……」
みほ「何かの間違いでしょ?って訊いても、無駄だよね……」
華「ほぼ確実だと思います」
みほ「華さんが言うんだもの……香りや臭いに、敏感な」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:03:54.01 ID:u37htMRu0
華「吸う人が実家に一人もいなかったので、わたくしはそんなものと、無縁で過ごしてきました」
みほ「うん」
華「でも、たまに実家へ来る親戚に、すごく吸う人がいました」
みほ「じゃあ、その人と同じ臭いがするってこと?」
華「はい。優花里さんは、その親戚ほどひどい臭いではありませんけど」
みほ「華さん以外、例えば私には、分からないくらいだものね」
華「……みほさん、どう思いますか?」
みほ「どう、って……。正直言って、私……」
華「……」
みほ「まだ混乱してて、よく分からない」
華「……」
みほ「相変わらず、何かの間違いでしょ、としか……考えられないよ」
華「もちろんわたくしも、自分が間違っていたらいいと思います」
みほ「このこと、沙織さんと麻子さんには?」
華「まだ話していません」
みほ「……」
華「まず、わたくしたちのリーダーであるみほさんへお伝えしようと思いました」
みほ「うん……私たちは友達だけど、戦車道だと……」
華「みほさんは車長であり、隊長ですから」
みほ「……そういえば」
華「何でしょう」
みほ「戦車道、っていえば……」
華「はい」
みほ「最近の優花里さん、今までと何だか違った」
華「どのようにでしょうか」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:08:18.81 ID:u37htMRu0
みほ「口数が少なくなった。元気ないなぁ、それとも機嫌悪いのかな、って感じてた」
華「練習中、車内での様子に変わりはありませんけど……例の臭い以外は」
みほ「でも、動作が荒くなったよ」
華「そうなんですか?」
みほ「うん。そんなに勢いつけて装填する必要ないのに、って思ったことがある」
華「……」
みほ「まるで、自棄でやってるみたいだった」
華「……」
みほ「でも、それが無駄な動きになって、作戦行動に影響するほどじゃなかったから……」
華「本人へは、言わなかった……?」
みほ「うん」
華「わたくしも、気付いたことがあります」
みほ「どんなこと?」
華「以前は練習が終わったら、皆さんで一緒に下校していました」
みほ「うん。でも今は、先に帰っちゃったり……」
華「いつの間にか、挨拶もせずにいなくなってしまったり、ですね」
みほ「私も気付いてたけど、用事があって急いだりしてるのかな、って思ってた」
華「そうする理由をいちいち、訊いたりしませんし」
みほ「優花里さんが、そんなもの吸ってるって……どういうことなんだろ」
華「……」
みほ「どうしたらいいんだろ、私たち」
華「すごく、言いにくいのですが……」
みほ「何?」
華「最悪のケースも、あるのではないかと」
みほ「最悪のケース……?」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:11:11.02 ID:u37htMRu0
華「それは、優花里さんがグレてしまった、不良になってしまったというケースです」
みほ「そんな……友達が……」
華「……」
みほ「自分の友達が、そんなふうになっちゃうなんて……」
華「わたくしだって、そんなことは想像したくありません」
みほ「そんなの、本当に、もう……何て言ったらいいか分からないくらい、最悪だよ……」
華「……」
みほ「私たち、どうすればいいの……?」
華「みほさん」
みほ「うん」
華「本人に直接、わたくしが訊くつもりです」
みほ「えぇ? ほんと?」
華「本気です」
みほ「……」
華「わたくしなりに、知恵を絞ってみましたけど……」
みほ「うん」
華「今、とにかく大事なのは、これが露見しないことです」
みほ「このことを知ってるのは、多分……」
華「みほさんと、わたくしだけです」
みほ「沙織さんと麻子さんには……」
華「真相を確かめてからにしましょう。まだ事実だと決まったわけではありません」
みほ「これ以上、情報を広めちゃいけないんだね」
華「特に、風紀委員の皆さん。たとえ噂でも、耳に入ったら大変なことになります」
みほ「全国大会で、風紀委員のみんなとは、すごく仲良しになったけど……」
華「さすがにこれは、見逃してくれません」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:14:59.60 ID:u37htMRu0
みほ「うん。所持品検査の標的にされたら危ない」
華「まさか学校にまで、それを持ってきているとは思いたくありませんけど……」
みほ「マークされたら、何かの機会にバレる、っていう可能性は高くなるね」
華「形跡が見付かってしまうだけでも、査問の対象になるでしょう」
みほ「風紀委員のみんなと、いくら仲良くなっても……」
華「それとこれとは話が別、ですね」
みほ「真実を確かめなくちゃ」
華「もし事実だったら、一刻も早く、やめてもらわなければなりません」
みほ「ね、華さん。私も行くよ。優花里さんと会う時」
華「いえ、それには及ばないかと」
みほ「え……? 私も、優花里さんと話をするよ」
華「みほさん、繰り返しになりますけど……」
みほ「うん」
華「まだ、優花里さんがそんなことをやっていると、決まってはいません」
みほ「……」
華「わたくしが、事実を確かめます」
みほ「……」
華「まだ、あまり大袈裟な動きをしない方がいいでしょう」
みほ「うん……」
華「みほさんは、普段どおりにしていてください」
みほ「分かった……」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:18:09.40 ID:u37htMRu0
2
優花里「私に話なんて、珍しいですね。五十鈴殿」
華「お手間はとらせません」
優花里「しかも、こんな所に呼び出して」
華「人がいない場所を選びました」
優花里「格納庫の裏とは……」
華「穏やかじゃない、と思いますか?」
優花里「これから始まるのは、タイマンかカツアゲですか?」
華「……」
優花里「私、五十鈴殿に恨まれるようなこと、しましたっけ」
華「……」
優花里「それともまさか、告白ですか? 私、女ですよ?」
華「両極端ですね……。そのどちらでもありません」
優花里「分かってますけどね」
華「何ですか?」
優花里「私、分かってるんですよ」
華「何を、でしょう」
優花里「五十鈴殿の、用件」
華「……」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:21:18.58 ID:u37htMRu0
優花里「初めて会った時のこと、憶えてます?」
華「初めて、会った時?」
優花里「私たちの戦車道は、みんなで戦車を探すことから始まりました」
華「ああ、その時の……」
優花里「そして私たちは、38(t)を見付けた」
華「……」
優花里「そうできたのは、五十鈴殿のお陰でしたね」
華「……優花里さん」
優花里「すごい嗅覚を、お持ちです」
華「優花里さん、何の話をしているのですか?」
優花里「だから、五十鈴殿の用件を、分かってるって言ってるんですが」
華「……」
優花里「とぼけないでくれませんか」
華「……」
優花里「気付かれるとすれば、まず五十鈴殿だと思ってました」
華「ますます、言っていることが……」
優花里「だんだんイライラしてきました。はっきり、させましょう」
華「……」
優花里「五十鈴殿の、用件は……」ゴソ
華「あ……!」
優花里「これの、ことですよね?」
華「……」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:24:00.55 ID:u37htMRu0
優花里「ふん……。“やっぱり”って顔、してるじゃないですか。五十鈴殿」
華「……しまってください、それを。今すぐに」
優花里「五十鈴殿がそう言うのは、おかしいですねえ」
華「もし、誰かに見られたら……」
優花里「そうならないように、この場所を選んだはずですが」
華「いいから、早く……!」
優花里「こんなことくらいで、どうしてそんなに慌ててるんです?」
華「何を言ってるんですか? “こんなことくらい”では、済まないんです!」
優花里「……」シュボッ
華「!!」
優花里「……フーッ……」
華「……優花里さん」
優花里「何ですか?」
華「あなた、今、自分が何をしてるか、分かってますか?」
優花里「分かってますよ?」
華「……」
優花里「タバコを、吸ってるんです」
華「……」
優花里「五十鈴殿こそ、見て分かりませんか?」
華「あ、あなたは……」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:26:47.56 ID:u37htMRu0
優花里「五十鈴殿。大体、どう訊くつもりだったんです?」
華「……は?」
優花里「まさか私に、“タバコ吸ってますか?”って訊くつもりだったとか?」
華「……」
優花里「そんなふうに訊かれても、私が、さっきの五十鈴殿みたいに……」
華「……」
優花里「素ッとぼけて否定したら、それ以上どうしようもないのを、分かってますよね?」
華「それは……」
優花里「でも、五十鈴殿のことですからね」
華「……」
優花里「きっと、すごくうまい訊き方を、考えてきてたんでしょうけど」
華「……」
優花里「相手が絶対に白状してしまうような、誘導尋問みたいな訊き方を」
華「……もう、どうでもいいんです。そんなことは」
優花里「私は今、五十鈴殿へそんな手間を掛けさせずに、自分からバラしたんですよ?」
華「いい加減にしてください、優花里さん」
優花里「少しくらい、感謝してもらってもいいと思いますけどねえ」
華「優花里さん、あなたは……」
優花里「面白くないんですよ。いろいろと」
華「……何ですか?」
優花里「今、私の家、最悪なんです」
華「……」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:31:25.81 ID:u37htMRu0
優花里「両親が、ケンカばかりして……もうずっと」
華「……」
優花里「私がいる前でも、些細なことで延々と言い争ったりして」
華「……それと、タバコにどういう関係が?」
優花里「もう、どうでもいいんですよ。私」
華「……」
優花里「うちの親が床屋をやってるの、知ってますよね」
華「ええ」
優花里「あまり、儲かってないみたいなんです」
華「……」
優花里「そのくらい、子供の私にだって分かります」
華「……」
優花里「両親の仲が悪いのは、それが原因。ほとんど間違いありません」
華「でも、そうだとしても、だからといって……」
優花里「私に居場所なんて、ないんですよ」
華「……」
優花里「学校が大して楽しいわけじゃない。家は、もっと居心地が悪い」
華「……」
優花里「面白くないんですよ。どこにいても」
華「……だから、そうだとしても……」
優花里「でも、御心配なく。戦車道は続けますよ?」
華「わたくしは、そのことだけを気にしているのではありません」
優花里「今、楽しいのは、戦車道をやってる時だけ」
華「……」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:33:53.71 ID:u37htMRu0
優花里「さて、もういいですか?」
華「まだ、お話は終わって……」
優花里「こっちにはこれ以上、話すことはありませんが?」
華「……」
優花里「じゃあ、私は行きますね」
華「……待ってください、優花里さん」
優花里「……何ですか?」
華「それをどうするつもりですか?」
優花里「ああ、これですか。こういう物を持ってまして」
華「……携帯用の、灰皿……」
優花里「まだ私も、その辺りに吸殻を捨てるほど、やさぐれてないんでしょうね」
華「……」
優花里「でも、いつそうなるか分かりません。ま、どうでもいいですけど」
華「……まるで、他人事みたいに……」
優花里「じゃ、これで」
華「……」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:37:19.02 ID:u37htMRu0
3
沙織「……」
麻子「……」
みほ「二人とも、ごめんね」
沙織「……」
麻子「……」
みほ「うちへ来て、なんて急に言って。それで、こんなこと話して……」
華「ショックだったでしょうね」
沙織「……何か、雰囲気がおかしいな、とは思ってたよ」
麻子「秋山さんを呼んでないのは、どうしてかと考えてたが……」
沙織「これが、その理由なんだね」
華「はい」
みほ「それから……」
沙織「うん」
みほ「もう一つ、謝らなくちゃいけないことがあるの」
沙織「何?」
華「これを、沙織さんと麻子さんに黙っていたことです」
麻子「それなら、気にしないでほしい」
沙織「うん。ちょっと水臭いかな、とは思うけど……」
麻子「こんな話だ。当然、知ってる人間は少なければ少ないほどいい」
沙織「それに、ゆかりんが本当にタバコ吸ってるかどうか、分からなかったんでしょ?」
華「ええ」
麻子「その段階で不用意に情報を拡散してしまうのは、あり得ない」
みほ「うん……。ごめんね、二人とも」
華「申し訳、ありませんでした……」
麻子「いいから。気にしないでほしい」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:42:45.95 ID:u37htMRu0
沙織「ね、麻子」
麻子「何だ」
沙織「タバコって、吸ってるのバレたらどうなるの?」
麻子「少なくとも数週間の停学と自宅謹慎。最高で退学」
沙織「ええ!? 注意されるくらいじゃないの? そんなに厳しいの?」
麻子「今言ったのは、これまで実際にあった処分の例だ」
華「生徒がお酒とタバコに関わったら、待っているのは厳罰です」
沙織「どうしてそんなに厳しいの?」
麻子「学園艦では、酒とタバコに関しては全般的に厳しい。生徒に限ったことじゃない」
みほ「大人だって、買うのはすごく面倒なんだよね」
沙織「そっか……。確か、専用のカードが必要だっけ」
麻子「生体認証機能付きの購入許可証だな。本人以外は絶対に使えない」
華「それを手に入れるためには、審査を受けた上で、登録が必要です」
みほ「でも、カードを持ってる人に買わせる、ってのもできるけど……」
麻子「その横流しが発覚した事件が、昔あった。関係者は全員、退艦処分になったそうだ」
沙織「……もしも……もしも、だよ? 退学なんてことに、なっちゃったら……」
みほ「優花里さんの場合、家がここにあるから……」
華「御家族ごと、学園艦にいられなくなってしまうかもしれません」
麻子「“あの家は、子供が退学になったのに……”」
華「“どうして平気な顔で、ここに住んでいられるんだろう”」
沙織「……」
みほ「そう思う人がいても、おかしくないんだね」
麻子「退学は事実上、一家そろっての退艦処分といえる」
華「学園艦からの、追放です」
沙織「……ひどい……」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:46:30.43 ID:u37htMRu0
麻子「沙織、それは逆だ」
沙織「逆、って?」
麻子「そのくらいのリスクがあることを、秋山さんはやってるんだ」
沙織「うん……そうだね……」
みほ「絶対、絶対に、やめさせないと」
麻子「じゃあ、どうするか。それを考えなくては」
沙織「でも、華の話だと、原因は親のことなんでしょ?」
みほ「家庭の事情ってことだね」
沙織「他人の私たちが、口挟んでいいのかな……」
みほ「私たち、御両親に1回だけ会ったよね」
麻子「秋山さんがサンダース大付属へ、偵察に行ってくれた時だな」
華「仲が良さそうな御両親と、お見受けしましたけど……」
みほ「信じられないよね」
沙織「大会は、ほとんど全部の試合、そろって観に来てくれたんじゃなかった?」
華「決勝では、泣いていらしたそうです。優花里さんが前に言っていました」
みほ「お母さんが?」
華「いえ、お父様が」
沙織「超優しい、お父さんだね……」
みほ「うん」
麻子「お母さんもだ。例の、みんなで家へ押し掛けてしまった時には……」
みほ「突然だったのに、歓迎してくれたよね」
沙織「どうしてこんなことに、なっちゃうんだろ……」
みほ「御両親のことが原因だと、私たちじゃ、どうにもならないかも」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:50:35.97 ID:u37htMRu0
華「でも、みほさん」
みほ「何?」
華「確かに、御家庭の事情に立ち入るのは難しいかもしれません」
麻子「むしろそれは、やらない方がいいだろう」
華「ええ。ただの友人でしかないわたくしたちには、出過ぎた真似です」
麻子「だが、本人の行動について、諭すのはできる」
沙織「私たちは、ゆかりんのことだけを考えればいいんだね」
みほ「うん……私たちが優花里さんにできることを、考えなくちゃ」
沙織「今はとにかく、タバコをやめさせるのが最優先だよ」
華「わたくしが会った時の優花里さんは、取り付く島もないような雰囲気でした」
みほ「うん」
華「でも、説得に応じてくださる可能性はあると思います」
沙織「華、どうしてそう思う?」
華「彼女の態度は、目の前でタバコを吸ったり、とんでもないものでした」
みほ「……」
華「でも優花里さんは、おうちのことや自分の気持ちについて、素直に話してくれました」
麻子「完全には、自棄になっていないのか」
みほ「まだ、こっちの話を聞いてくれる余地は、残ってるかもしれないんだね」
華「わたくしが会った感触では、そう思います」
沙織「それなら、やるしかないね。タバコが誰かにバレる前に、一刻も早く」
華「ええ。……最後に、気になることも言っていましたし」
みほ「気になる、って?」
沙織「どんなこと言ったの?」
華「言葉をそのまま、憶えているわけではありませんけど……」
みほ「うん」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:55:17.81 ID:u37htMRu0
華「“まだそれほど、やさぐれてないんだろう。でも、いつそうなるか分からない”」
みほ「……」
麻子「……」
沙織「……何か、微妙な言い方だね」
みほ「……冷静だよね。自分のことなのに」
麻子「自分の現状を、冷静に把握してるのか。心は荒んでるはずだが」
沙織「ゆかりんって、ハッキリ言って“熱血戦車バカ”だけど、実は……」
麻子「その頭脳明晰さは、誰もが暗に認めてる」
華「ええ。彼女が持っている戦車や軍事関係の知識は膨大です」
沙織「それを、理路整然、っていうの? きちんと順序立てて喋るよね」
麻子「秋山さんは恐らく、チームの中で最も論理的な頭の持ち主だろう」
みほ「冷静なのは、その頭のよさが原因なのかな……」
麻子「だが本人が言うとおり、いつ状況が悪化しても、おかしくないのかもしれない」
華「放っておいたところで、事態が好転するとは思えません」
みほ「好転するきっかけを作るのは、私たちだね」
沙織「うん。今すぐ、ゆかりんと会う約束しようよ」
華「そうですね。次の練習までの間に、事態を解決すべきでしょう」
沙織「早く何とかしなくちゃ。こんなこと知った後で、普通に練習なんかできないよ」
麻子「チームワークに影響が出るのは、必然だ」
みほ「私がメールしようか?」
沙織「みぽりん」
みほ「何?」
沙織「でも、みぽりんはまだ、じっとしてて」
みほ「え? どうして?」
沙織「何でもかんでも、みぽりんに頼るなんてできないよ」
麻子「沙織の考えに賛成だ」
みほ「麻子さんも、どういうこと?」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:57:05.90 ID:u37htMRu0
麻子「西住さん、これまでのことを憶えてるか?」
みほ「これまで、って……そんな漠然とした言い方されても」
麻子「ほとんど全ての局面で、それを打開したのは西住さんだった」
みほ「それは……そうできたのは、みんなと一緒だったから」
沙織「そんなの分かってるよ。でも、私たちが言いたいのは……」
麻子「西住さん無しでは、決してここまで、やってこられなかったということだ」
沙織「今回くらい、私たちに任せてくれない?」
みほ「でも、私だって、みんなを手伝えたら……」
麻子「もちろん私たちでは、どうにもならない可能性がある」
沙織「そうなったら、みぽりんにお願いするよ」
みほ「……」
麻子「まあ十中八九、西住さんに出番がまわってくる結果になると思うが」
みほ「そうなの?」
沙織「それは、いつものゆかりんを見てれば、分かるでしょ?」
麻子「秋山さんは、西住さんを尊敬してる」
沙織「私たちの言うことは、聞かなくても……」
麻子「西住さんの言うことなら、ほぼ間違いなく、聞くと思う」
みほ「そんな……私なんて……」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 20:59:53.75 ID:u37htMRu0
華「わたくしも、二人と同じ意見です」
みほ「華さんまで。でも、もし、そうだったら……」
沙織「何?」
みほ「やっぱり私も一緒に行った方が、いいんじゃないかな……」
沙織「最初からみぽりんが出ていって、一気に決着をつけるってこと?」
みほ「うん」
麻子「確かに、戦力の逐次投入は天下の愚策といわれてる」
華「でもこの場合は、それに当てはまりませんね」
沙織「みぽりんは、切り札なんだよ」
麻子「私や沙織が、説得の下地を作る」
沙織「そして最後に、みぽりんというカードを切る」
みほ「……」
華「全員がどれだけ優花里さんを心配しているか、段階を踏むことで分からせるのです」
麻子「戦力の逐次投入じゃなくて、いってみれば波状攻撃だ」
沙織「それに、みぽりんに出てきてもらう前に、説得できちゃうかもしれないよ?」
麻子「可能性は低いけどな」
みほ「……」
華「今度は、わたくしたち3人で行きます」
麻子「西住さんは、もう少し辛抱していてほしい」
みほ「……分かった」
沙織「じゃ、私がメール送るね」
みほ「……」
沙織「ゆかりんのは……あ。あったあった」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:05:58.14 ID:u37htMRu0
4
優花里「これは皆さん、おそろいで」
麻子「秋山さん。用件は分かってるな?」
優花里「ええ。今度こそ、この格納庫裏で私をボコボコにするんでしょう?」
沙織「何言ってるの……?」
優花里「違うんですか? 西住殿がいないのはそれが理由だと思ってましたが」
華「優花里さん。まだ、タバコを吸っていますか?」
優花里「ええ。それが何か?」
沙織「……」
麻子「単刀直入に、言う」
優花里「何ですか?」
麻子「それを、今すぐやめてほしい」
華「露見したらただでは済まないし、何より、自分の体には害しかありません」
沙織「何も良いことないの、分かってるでしょ?」
優花里「用件って、そんなことですか」
華「前にも言いました。“そんなこと”では済まないのです」
麻子「理解してるはずだ、秋山さん」
沙織「タバコなんて、やめてよ。お願い」
優花里「お断りします」
沙織「……!」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:08:52.52 ID:u37htMRu0
麻子「秋山さん、なぜだ。理由を聞かせてほしい」
優花里「私は逆に、それ以前のことについて皆さんへ訊きたいですね」
華「それ以前のこと? 何でしょうか、それは」
優花里「どうして皆さんは、私にそんな命令をできるんですか?」
沙織「命令なんかじゃないよ。お願いしてるんだよ」
華「確かに、何をしようと個人の自由かもしれません」
麻子「でも、タバコは危険だ」
沙織「見付かったらどうなるか、知ってるでしょ?」
優花里「大きなお世話ですね」
沙織「なっ……」
麻子「バレたら間違いなく、家族へ影響が及ぶんだぞ?」
華「そんなリスクを冒してまで、することでしょうか」
優花里「……家族の話を、しないでください」
華「優花里さん、何がそんなに面白くないんですか?」
麻子「五十鈴さんから聞いたが、やはり、親のことなのか?」
優花里「……私は今、家族の話をしないで、と言いました」
沙織「親の仲が少し悪いからって、自分がタバコを吸っていいわけないでしょ?」
麻子「その二つは、無関係だ」
華「御両親だって、いつか仲直りするのでは」
優花里「聞こえませんか? 親の話をするな、って言ってるんです」
沙織「どうして? 大切なお父さんとお母さんのことでしょ?」
麻子「家族への迷惑を考えれば、タバコなんてすぐにやめられるはずだ」
華「それに、同じ家に住んでいれば、まず御両親に見付かってしまいます」
優花里「だから! 親の話をするな!って、言ってるでしょう!!」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:11:51.59 ID:u37htMRu0
沙織「……」
麻子「……」
華「……優花里さんが、そんなに大きな声を出すなんて」
優花里「大きな声を出さなくちゃ、分からない人たちが、いるからですよ……!」
沙織「……何よ……もう!」
麻子「沙織?」
沙織「さっきから何言ってるのよ、ゆかりん! もう、わけ分かんない!」
優花里「ふん。分かってもらわなくても、いいですよ」
沙織「どうして、親の話がそんなに嫌なの!?」
優花里「だから、その話をするな、と言ってるんですが」
沙織「お父さんとお母さんが、大事じゃないの!?」
優花里「もう一度、大きな声を出さなくちゃいけませんか?」
沙織「大体、親のことで悩めるなんて、幸せだと思わないの!?」
優花里「……武部殿、何を言ってるんですか?」
沙織「麻子なんて、親はもういないんだよ!!」
優花里「……」
沙織「親のことで悩みたくたって、悩めないんだよ!!」
優花里「……」
華「――麻子さん」
麻子「――私なら、大丈夫だ。沙織を止める必要はない」
優花里「それは……確かに……」
沙織「何よ?」
優花里「冷泉殿の事情は、お察しします」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:14:26.97 ID:u37htMRu0
沙織「そうでしょ?」
優花里「親がいないって事情が、あるんですよね」
沙織「やっと、分かってくれた?」
優花里「でも……」
沙織「何?」
優花里「私には、親がいる事情、ってのがあるんです」
麻子「!」
優花里「さっき武部殿は、こう言いましたよね」
沙織「な、何よ……」
優花里「私みたいに親のいる人は、“親のことで悩めて、幸せだ”って」
沙織「……」
優花里「私は逆に、こう思うんですが」
沙織「……」
優花里「親のいない人は、“親のことで悩む必要がなくて、幸せだ”って」
麻子「……」
沙織「……ひどい……何てこと、言うのよ……」
華「……優花里さん、ひど過ぎます」
優花里「そうですか? こんなの、当たり前のことじゃないですか」
沙織「当たり前……?」
優花里「親のいない事情ってのがある。一方で、親のいる事情ってのもある」
麻子「……」
優花里「両方とも、当たり前のことです。どっちが幸せか比べるなんて、意味ないですね」
沙織「……」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:17:47.30 ID:u37htMRu0
麻子「……秋山さんの、言うとおりだ」
沙織「麻子!?」
麻子「行こう。沙織」
沙織「ちょ、ちょっと麻子!」
麻子「……」
沙織「いいの!? 何か言い返さなくて!?」
麻子「言い返すことなんて、ない」
沙織「どうして!?」
麻子「秋山さんの言ってることは、正しい」
沙織「あ……ちょっと待ってよ! もう行っちゃうの!? ねえ麻子!」
麻子「……秋山さん。わざわざ来てもらって、すまなかった」
優花里「いえ。さすが冷泉殿です。理解してもらえると思ってました」
麻子「……」
沙織「華……私、麻子に付いててあげるから……!」
華「分かりました……」
優花里「……」
華「……」
優花里「……二人とも、行っちゃいましたね」
華「……」
優花里「さて、私は一服しますか」
華「……優花里さん」
優花里「何ですか?」シュボッ
華「見損ないました……優花里さん!」
優花里「……フーッ……」
華「あんなことを、言うなんて!」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:20:39.76 ID:u37htMRu0
優花里「大きい声出さないでください。聞こえてますから」
華「ひど過ぎる、残酷過ぎるって、思わないんですか!?」
優花里「へーえ?」
華「何ですか、その態度は! 真剣に話してるんですよ!」
優花里「ふーん……じゃあ、言いますけど」
華「何ですか?」
優花里「私、間違ったこと、喋ってます?」
華「……どういうことですか?」
優花里「誰にだって事情がある。そんなの、当たり前じゃないですか」
華「……」
優花里「何かの事情を抱えてない人なんて、この世にいるんでしょうか」
華「……」
優花里「それに、ひどいとか残酷とか言うんだったら、それは私じゃないですけど?」
華「何を、言ってるのか……」
優花里「さっきの武部殿の方が、よっぽど残酷だったと思いませんか?」
華「……」
優花里「親のいる人は“親のことで悩めて、幸せだ”なんて言ってましたよ?」
華「それは……」
優花里「まるで、それに比べて、親のいない人は不幸せで、惨めで、可哀想で……」
華「……」
優花里「劣ってる存在、みたいじゃないですか」
華「……」
優花里「五十鈴殿も本当は、ひどい言い方だって思ってるんでしょう?」
華「わ、わたくしは……」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:24:18.29 ID:u37htMRu0
優花里「よく、親のいない子や片親の子が、差別されたりいじめられたりしますよね」
華「……」
優花里「それは、あんな上から目線の考え方をする人が、たくさんいるからだと思います」
華「……」
優花里「五十鈴殿。これも私、間違ったこと言ってます?」
華「――それは……」
優花里「何ですか?」
華「――それは……確かに……」
優花里「何ですか? 聞こえませんよ?」
華「――確かに、あなたの言っていることは……」
優花里「まだ聞こえませんよ? ほら、さっきみたいに大声で喋ったらいいじゃないですか」
華「……」
優花里「どうして今、それが、できないんですかねーえ?」
華「確かに、優花里さんの言っていることは、正しいかもしれません」
優花里「ふっ。やっと理解してくれましたか」
華「でも、勘違いしないでください」
優花里「……勘違い?」
華「たとえ、その理屈を分かったとしても……親を失った悲しみ、心の傷……」
優花里「……」
華「そういうものが癒えるとは、全く思いません」
優花里「……」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:27:17.71 ID:u37htMRu0
華「さっきの麻子さんを見たでしょう?」
優花里「この場にいるんだから、見てないはずありませんが」
華「あんな、消え入りそうなくらいに、弱々しく、傷ついた麻子さん……」
優花里「……」
華「あんな麻子さんを、見たことがありますか?」
優花里「……」
華「沙織さんの言葉についても、そうです」
優花里「どうだって言うんです?」
華「あの言い方は確かに、親のいないかたを、少し見下してしまっているでしょう」
優花里「“少し”とかじゃなくて“見下してる”ってのが問題じゃないですか」
華「あなたは、あの言葉の背後にあるものを全然分かっていない」
優花里「……何を言ってるんでしょう」
華「あれは沙織さんが、人を思いやって、気遣っているからこそ出てきた言葉です」
優花里「……」
華「あなたの理屈に、それがありますか?」
優花里「……」
華「人への思いやり、気遣いがありますか?」
優花里「……」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:29:54.20 ID:u37htMRu0
華「優花里さん」
優花里「……何ですか?」
華「麻子さんに、謝ってください」
優花里「……」
華「ひどいことを言ったと、謝ってください」
優花里「……気が向いたら、そうしますよ」
華「!! なっ、何て……」
優花里「じゃ、もういいですか?」
華「……」
優花里「そういうことで」
華「優花里さん」
優花里「……まだ何か?」
華「一つ、訊きたいことが、あります」
優花里「何ですか? もったいぶって」
華「あなたは……」
優花里「早く言ってください」
華「タバコを、どうやって手に入れているんですか?」
優花里「……何を言うのかと思ったら」
華「答えてください、優花里さん」
優花里「……」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:32:33.45 ID:u37htMRu0
華「この学園艦ではお酒とタバコに関して、ものすごく制限がかけられています」
優花里「……」
華「陸の人たちには、異常と思われているくらいです」
優花里「知ってますよ」
華「それなのにあなたは、どうやってタバコを手に入れているんですか?」
優花里「……」
華「答えてください」
優花里「……」
華「どうして、何も言わないんですか?」
優花里「……それは、ですね」
華「何でしょう」
優花里「答える必要が、ないからですよ」
華「……」
優花里「私は今、“答える必要がない”と、答えました」
華「……」
優花里「これで、何か訊かれたことへの返事には、なりますよね」
華「……答えられない。言えない。そうなんですね、優花里さん」
優花里「会話は成立したはずです。で、こちらにはもう、言うことは何もありません」
華「……」
優花里「今、これ以上話をする理由なんて、ないですよね?」
華「……」
優花里「じゃ、これで」
華「……」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:37:28.23 ID:u37htMRu0
5
みほ「優花里さんは……思ってたより、状況が深刻みたいだね」
華「はい。率直に言って、そのとおりです」
沙織「まるで、違う人みたいだった……いつの間に、あんなになっちゃってたのよう」
麻子「もうボヤくな、沙織」
沙織「“最高だぜェ!”って叫んでた、明るい元気なゆかりんは、どこ行っちゃったのよう」
麻子「ボヤいたって何も解決しないぞ」
沙織「麻子、悔しくないの? あんなこと言われて」
麻子「前にも話したが、秋山さんの言ってたことは正しい」
沙織「そうかもしれないけど、でも……」
華「みほさん、申し訳ありません。わたくしたちではやはり無理でした」
沙織「ごめんねみぽりん。やっぱり、またみぽりんに頼っちゃうよ」
みほ「そんな、謝らないで。私にできることは何でもするから」
華「最後の頼みの綱は、みほさんです」
麻子「失敗が許されない役目を、担わせてしまうが……」
みほ「だけどここまでは、みんなで書いたシナリオと一緒だよね」
華「……それは、そのとおりなんですけど……」
沙織「……」
麻子「どうした、沙織」
沙織「……御飯が、おいしくない……」
みほ「え。そんなことないよ、おいしいよ」
華「沙織さんが作ってくださったんですから。いつもどおりにおいしいですよ」
沙織「ありがと……でもいいよ、みんな、無理しなくて」
麻子「食欲が湧くような気分じゃないと思うが、残さず食べろよ」
みほ「食べておかなくちゃ。どんな気持ちでいたって、お腹は空くんだから」
沙織「うん……分かってる」
華「それに残したりしたら、このお部屋のみほさんに御迷惑です」
みほ「そんなの、気にしなくていいけど……」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:41:03.70 ID:u37htMRu0
沙織「麻子」
麻子「何だ」
沙織「あの時……どんなこと、考えてたの?」
麻子「……」
みほ「……珍しいね。麻子さんが黙っちゃうなんて」
沙織「言いたくないなら、別にいいけど」
華「あの後、沙織さんは麻子さんを送っていったのでは」
沙織「うん。でも麻子は、帰り道で一言も喋らなかったんだよ」
華「……」
麻子「分かった。話そう」
華「麻子さん、無理をしないでください」
麻子「大丈夫だ。……あの時、私は、理性と感情が全く別に動いてた」
沙織「……」
麻子「何度も言うが、秋山さんの論理は正しい」
華「……」
麻子「人にはそれぞれの事情がある。こんなのは当たり前のことだ」
沙織「だから、それは分かるけど……」
麻子「いいから、食べながら聞け」
みほ「あ、そうだね。じっと聞いてたら、御飯冷めちゃうよ」
華「麻子さんも食べながら、ゆっくり話してください」
麻子「ああ。……何らかの事情を抱えてない人間など、存在しないだろう」
みほ「……」
麻子「そして、その事情について優劣を比較するなど、全くもってナンセンスだ」
沙織「……」
麻子「“あいつに比べれば良い方だ”とか、“どうして自分だけがこんな目に”とか」
華「……」
麻子「秋山さんの言ってたことは、徹頭徹尾、正しかった」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:43:45.35 ID:u37htMRu0
沙織「……ね、麻子」
麻子「何だ」
沙織「本当は、麻子が怒ってるのはゆかりんじゃなくて、私なの?」
麻子「どうしてそう思うんだ?」
沙織「だって……私はあの時、あんなこと言ったでしょ」
華「……」
沙織「あれは、麻子とほかの人とを、比べる言い方だったよね……」
みほ「……」
沙織「……みぽりんには話が見えないと思うから、説明するね」
みほ「うん」
沙織「私は、ゆかりんを説得する時に、こう言ったの」
みほ「……」
沙織「“麻子には親はもういないんだ。親のことで悩めるなんて幸せだ”って」
みほ「……」
麻子「気にするな、沙織」
沙織「だって……」
麻子「私は分かってる。沙織が私を、いつも気にかけてくれてるのを」
沙織「……」
麻子「その気持ちが、秋山さんを説得する時に、ああいう言い方になって出たんだと思う」
沙織「……」
華「沙織さん」
沙織「何?」
華「麻子さんを気遣っていなければ、そんな言葉すら、決して出てくるはずがないでしょう?」
沙織「……」
麻子「私は分かってる。気にするな、沙織」
沙織「とにかく、ごめん……」
麻子「しつこいぞ。謝る必要など、ない」
沙織「うん……」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:47:34.36 ID:u37htMRu0
麻子「話を元に戻す。秋山さんの論理が正しいことは理解できる。だが……」
みほ「……」
麻子「感情は、その理性と全く違う動きをした」
沙織「……」
麻子「私は、怒るというより、悲しかった」
みほ「麻子さん、今もつらそうだよ……」
麻子「大丈夫だ、西住さん」
みほ「……」
麻子「親がいないという自分の境遇」
みほ「……」
麻子「私は親のことで、喜ぶのはもちろん、怒ったり悩んだりするのも永久に不可能だ」
華「……聞いているこちらが、つらいです……」
麻子「そして、それについて友達に、あんな言い方をされてしまった」
みほ「“あんな言い方”? 優花里さんは何て言ったの?」
麻子「秋山さんは、“親のことで悩む必要がないのは幸せだ”と言ったんだ」
みほ「え……?」
麻子「……」
沙織「……みぽりん?」
みほ「……」
華「……みほさん?」
みほ「……優花里さんは、そんなこと言ったの……?」
麻子「……」
みほ「優花里さんは本当に、そんなこと言ったの……?」
沙織「ヤバい……みぽりんが、激怒してる……」
みほ「ねぇみんな、教えて。優花里さんは本当に、そんなこと言ったの?」
華「みほさん、落ち着いて……」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:51:34.68 ID:u37htMRu0
麻子「西住さん、予断を持たないでほしい。本人に問いただすまで、この真意は分からない」
みほ「だけど……」
華「売り言葉に買い言葉で、思わず言ってしまっただけかもしれませんから」
みほ「……」
麻子「話の流れとしては、その可能性があるんだ」
みほ「……分かった。麻子さんがそう言うなら」
沙織「めっちゃビビったんだけど……こんなみぽりん、初めて見たよ」
麻子「論理は理解できる。あの言葉も、真意じゃないかもしれない」
みほ「……」
麻子「でもやはり、悲しかった。憤りを、通り越してた」
華「……」
麻子「もう、あの場にいたくなかった」
沙織「だから、早く帰っちゃったんだね……」
みほ「麻子さん」
麻子「何だ」
みほ「優花里さんを、怒ってないの? 許せないって、思ってないの?」
麻子「西住さん。どっちも、あり得ない」
みほ「……」
沙織「……」
華「……“あり得ない”? 完全否定、ですか?」
沙織「しかも今、麻子は……速攻でそう答えたよね」
麻子「ああ。あり得ない。即座に断言できる」
みほ「……」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:55:08.72 ID:u37htMRu0
麻子「それは、こういう理由だ」
沙織「どんな?」
麻子「これも理性と感情の話になる」
みほ「……」
麻子「まず理性面。私は、何か間違ったことを言われたわけじゃない」
華「……」
麻子「間違ったことや誤解があれば、私は断固、それを否定し、正しい内容を理解させる」
みほ「その時に、怒ったりするかもしれないんだね」
麻子「そのとおりだ。でも秋山さんの論理は正しい。私には怒る理由も必要もない」
みほ「……」
麻子「次に感情面。確かに私は、悲しい気持ちにさせられた」
華「……」
麻子「言葉も出ないくらいに、凹んだ」
沙織「……」
麻子「だが、秋山さんの発言は真意じゃない可能性が、まだ残ってる」
みほ「確かめる必要があるんだね」
麻子「それは、そうしたいとも思うが、そんなことはどうでもいいという気持ちの方が強い」
沙織「どういう意味?」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 21:59:10.33 ID:u37htMRu0
麻子「私は秋山さんを、仲間で、友達だと思ってる」
みほ「……」
麻子「西住さんの前でこんなことを話したら、大袈裟だと笑われるかもしれないが……」
みほ「何? 笑ったりしないよ、言って?」
麻子「戦車道のこと、全国大会のことだ」
みほ「うん」
麻子「私たちは勝ち上がっていったものの、その間に何度も窮地に立たされた」
華「……」
麻子「だが、その絶望的な状況を、何度も克服した」
沙織「……」
麻子「それは私にとって、“死線を越える”という表現が一番ふさわしい経験だった」
みほ「麻子さん、そんなふうに考えてたんだ……」
麻子「おかしな話だと、自分でも思う」
みほ「何が?」
麻子「私はそもそも、戦車道に大して興味があったわけじゃない」
華「麻子さんが参加してくださったのは、単位が理由でしたものね」
麻子「その動機は、一貫して変わらなかった。だが……」
沙織「やってるうちに、のめり込んじゃった?」
麻子「大会が終わり、単位取得のめどがついても、私はこうして戦車道を続けてる」
みほ「……」
麻子「これが、その答えだ」
みほ「私……麻子さんを、いつも落ち着いてるけど心の温かい人、って思ってたけど……」
華「“温かい”どころでは、なかったですね」
沙織「熱い女だよ、麻子は。クールに見えるけど」
華「神技的な操縦のモチベーションは、その熱い想いでしょう」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 22:03:25.07 ID:u37htMRu0
みほ「麻子さん。さっき、“大袈裟だと笑われるかも”って言ってたよね」
麻子「ああ」
みほ「全然、大袈裟じゃないよ。私たちは何度も絶体絶命になったんだから」
華「冷静に考えれば、本当に崖っぷちだったのは、ほんの数回だったかもしれません。でも……」
沙織「余裕で勝てた試合なんて、なかった。何だかいつも土壇場、正念場だった気がするよね」
みほ「だけど私たちは、それを乗り越え続けた」
麻子「そうだ。“私たち”は、それを乗り越えた」
みほ「……」
麻子「決して、一人でやったんじゃない。みんなで、やったんだ」
華「……」
麻子「みんなと一緒だから、できた」
沙織「みんなと……」
みほ「優花里さんと……」
華「一緒だから、できた……」
麻子「ああ。秋山さんと私は、共に死線を乗り越えた仲間なんだ」
みほ「……」
麻子「私たちは、仲間だ。友達なんだ」
みほ「……麻子さん……」
麻子「私は確かに、少し悲しい気持ちにさせられた。でも、それが何だ?」
華「……」
麻子「別に、殴られたのでもなければ、面と向かって絶交を言い渡されたのでもない」
沙織「……」
みほ「……だから……」
麻子「……」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 22:06:19.32 ID:u37htMRu0
みほ「だから、あの言葉の真意なんて、どうでもいい……」
華「これが、優花里さんを、怒っていない理由……」
麻子「ああ」
みほ「……」
麻子「私たちは……」
みほ「うん」
麻子「私たちは、秋山さんを取り戻さなければ、駄目だ」
華「……取り戻す……」
みほ「うん……こっち側へ、戻ってきてもらわなくちゃ」
沙織「今は別のところへ、ちょっと行っちゃってるだけだよね」
華「……」
麻子「もちろん私は、分かってる」
沙織「何を?」
麻子「いつかはこの5人も、離ればなれになってしまうことを」
みほ「うん……」
沙織「みんなだって、そんなの分かってるよ」
麻子「だが、それは……」
みほ「今じゃ、ない。そうだよね?」
麻子「ああ。断じて、今じゃない」
沙織「うん。絶対、そうだよ!」
華「……」
沙織「ガチで、そのとおりだよ! 今でいいわけないじゃん!」
華「……」
沙織「大体、私たち今、どうして4人だけで御飯食べてるの?」
華「……」
沙織「こんな理由で5人がそろわないなんて、マジあり得ないよ!」
41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/15(土) 22:11:04.70 ID:u37htMRu0
みほ「……華さん?」
華「……」
沙織「……華、どうしたの?」
華「お茶、淹れますね……」
みほ「あ。私がやるよ、華さん」
華「いえ……わたくしに、やらせてください」
沙織「ね、華」
華「はい」
沙織「ちゃんと言ってくれなくちゃ、分かんないよ?」
華「……何を、でしょう」
麻子「五十鈴さん」
華「はい、麻子さん……」
麻子「何か言いたいことがあるんだろ?」
華「……」
沙織「そんなの、私たちが気付かないとでも思ってるの?」
華「……ごめんなさい。図星です……」
みほ「どうかしたの? 華さん」
華「皆さん、実は……」
麻子「何だ」
華「悪いニュースが、あります」
沙織「悪いニュース?」
華「優花里さんに会った日から、こうして集まる今日までの間に……」
みほ「うん」
華「どうやって彼女がタバコを手に入れているか、調べました」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:28:28.67 ID:2JrnA4b70
6
沙織「お。華、やるね」
麻子「秋山さんのタバコ入手ルートか。どう調べたんだ?」
華「優花里さんがいる普通Ⅱ科に、わたくしの友達が何人かいます」
沙織「うん」
華「彼女たちから優花里さんについて、最近の様子を教えてもらいました」
みほ「何か分かった?」
華「ある生徒と親しく話している姿を何回か見た、と複数の友達が言っていました」
沙織「ある生徒?」
華「皆さんは、祐天寺順子という名前を聞いたことがあると思います」
麻子「……」
沙織「……こんなとこで、その子の名前が出てくるなんて」
みほ「ゆうてんじ……誰?」
麻子「西住さんは、まだ知らないか」
華「ある意味、学園の有名人です」
沙織「悪い意味で、ね」
麻子「不良ではない。だが、不良よりも厄介な存在だ」
みほ「どういうこと?」
華「不良とか、そういう半端な、チンピラみたいなものではないのです」
沙織「大洗にいる親が、組長さんなんだよね」
華「ええ。しかも東京の、もっと大きい組の幹部らしいですね」
麻子「祐天寺順子だったら、この学園艦の中でも……」
沙織「タバコを手に入れるくらい、簡単でしょ」
華「ここにも親の息がかかった大人は、間違いなく、いるでしょうから」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:32:04.49 ID:2JrnA4b70
麻子「五十鈴さん、その目撃情報は確かなのか?」
華「それを信じない理由は、わたくしには特にありません」
麻子「そうか……」
華「……」
麻子「五十鈴さんの友達を疑うような言い方をして、悪かった」
華「謝らないでください。麻子さんがそう訊く気持ちは、理解できますので」
沙織「何かの間違いならいいのに、って思っちゃうよね」
みほ「ねぇ、みんながそんなこと言うのって、一体……」
麻子「西住さんは知っておいた方がいいと思うから、伝えておくが……」
みほ「うん」
麻子「本人が入学してから学園で起こったほぼ全ての不祥事へ、裏で関わってるらしい生徒だ」
沙織「あの子の顔色を窺う教師までいるよね。要するに、この学園をシメてるの」
華「表の権力を握るのは生徒会。裏の権力は、祐天寺さんですね」
麻子「西住さん。学園に幾つか、素行のよろしくないグループがあるのは知ってるな?」
みほ「うん。どんな学校にもいるよね、そういう人たち」
麻子「祐天寺順子は、そういうグループ同士をまとめてる存在らしい」
華「それらは祐天寺さんを中心、あるいは頂点として、もっと大きな集団を形成しているようです」
みほ「……そんな人が、いるんだ……」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:35:06.43 ID:2JrnA4b70
華「でも、ここの不良たちがやっていることは、陸の学校に比べればかわいいものですけど」
麻子「学園艦はどこも生活指導が厳しいし、ここに関していえば一応は進学校だからな」
沙織「進学校っていっても、最近はレベル高い大学へ行った人、少ないよね」
華「進学に関しても目立った実績がない。これも恐らく、廃校にされかけた理由でしょう」
沙織「ぶっちゃけここは、不良の程度も勉強も、どっちも中途半端なんだよね」
麻子「だがそれでも、いや、だからかもしれないが、一通りの不祥事は発生してる」
沙織「飲酒、喫煙、万引き、原チャリ無免許運転、ケンカ……あと何かあったっけ?」
みほ「そういう人たちのリーダーが、その祐天寺っていう生徒……」
華「普通Ⅱ科。学年はわたくしたちや優花里さんと同じです」
麻子「本人は、すごくサッパリした性格の人間らしいけどな」
華「“竹を割ったような気性”というのは、彼女のためにあるような言葉だとか」
沙織「人当たり、っていうの? そういうのは超良いみたいだよね」
みほ「でも……」
華「何でしょう」
みほ「優花里さんがその人から、タバコをもらってるかもしれないんでしょ?」
沙織「買ってるのかもしれないけどね」
華「どちらにせよ、わたくしの友達が教えてくれた目撃情報が正しくて……」
麻子「秋山さんが祐天寺順子と親しいなら、ほぼ確実に、これが入手ルートだ」
沙織「……」
みほ「華さん」
華「はい」
みほ「“最悪のケース”……」
華「……」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:38:40.01 ID:2JrnA4b70
沙織「何の話?」
みほ「華さんが、私へ最初に相談してくれた時に、言ってたの」
華「優花里さんがグレてしまった、不良になってしまったケース、ということです」
麻子「祐天寺順子の仲間になってしまったケース、か」
華「皆さんは先ほど、“取り戻す”とか“こっち側”、“別のところ”と話していました」
沙織「うん」
華「それは、喩えで、そういう言葉を使ったのでしょうけど……」
麻子「そうか……五十鈴さんには、そう聞こえなかったんだな」
沙織「だから、さっき様子がちょっと、おかしかったのか」
華「優花里さんが、祐天寺さんの仲間になってしまったら……」
沙織「それは、本当に“あっち側”で……」
みほ「“別のところ”かも、しれないんだね」
華「はい……」
麻子「秋山さんを、“取り戻す”……」
華「それが、現実になってしまった……かも、しれません」
みほ「……」
華「……」
麻子「……」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:42:31.63 ID:2JrnA4b70
沙織「……でも……」
みほ「何?」
沙織「確かに、私たちはゆかりんの友達だけど……」
華「はい」
沙織「“そんな子とは絶交しろ”とか、“付き合う相手を選べ”なんて、言えないよ」
華「……」
麻子「ああ。私たちは友達だが、同時に、それ以上の存在じゃない」
みほ「ただの友達、ってことだね」
華「でも、そのかたは……祐天寺さんは、できれば……」
麻子「できれば、秋山さんと無関係であってほしい、付き合ってほしくない生徒だ」
華「……すごく、悩ましいですね……友達が、他のどんな人と友達であろうと……」
沙織「人の友達付き合いに文句言うなんて、そんなの、できないよ」
華「……」
沙織「それに、私たちがどこかで、そう言われてるかもしれないんだし」
みほ「……その可能性は、あるよ」
麻子「西住さん、そう思うか?」
みほ「うん。戦車道に対する偏見は、絶対なくならないと思うから」
華「確かに……わたくしの母が、以前、その偏見の持ち主でした」
沙織「私たちは全国大会で優勝した。でも、だからって……」
麻子「偏見を持ってた人の中で、戦車道そのものへの見方を変える人は、多くないだろう」
沙織「私たちを、こう思ってる人たちだっているかもよ?」
華「どのように、でしょう」
沙織「“戦車道なんかやってる、関わらない方がいい奴ら”って」
華「……」
みほ「うん。いても全然、不思議じゃないよ」
華「もし、わたくしたちが優花里さんへ“祐天寺さんと絶交してください”と言うなら……」
沙織「誰かが“戦車道の人たちと絶交してください”って言っても、何も文句言えないよね」
麻子「ほかの友人との付き合いを断ち切ろうとする。その意味では、どちらも同じだ」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:46:35.84 ID:2JrnA4b70
華「……やはり、わたくしたちにできることは、一つしかありませんね」
みほ「うん。タバコを、やめさせること」
沙織「それしか、ないよ」
麻子「秋山さんが誰と友達でいようと、そんなものは個人の自由だ」
みほ「優花里さんが私たちと友達でいるのと、同じだから」
華「そして、わたくしたちが、優花里さんの友達であり続けるためには……」
麻子「秋山さんが、今ここからいなくなってしまう可能性。それを排除すべきだ」
みほ「その可能性を生んでるのが、タバコだね」
沙織「うん。それをやめさせる、これが私たちの最優先事項だよ」
麻子「……じゃあ、どうするか」
華「……それが、問題です」
みほ「入手ルートは、分かったけど……」
麻子「それを突破口にするか?」
沙織「そこへ手をまわすしか、ないんじゃない?」
麻子「十分に策を練る必要があるぞ。その方法を採るとすれば」
華「そもそも、彼女へ接触するという手段が、一番良いのか……」
麻子「ああ。相手は高校生にして、いわゆるホンモノだからな」
華「祐天寺さんは決して、親の威光を笠に着て威張っているのではありません」
麻子「本人にカリスマ性と実力がある。一言、何かを言っただけで学園艦中の不良が動く」
華「あの存在感、そして威圧感は、持って生まれたものでしょう」
沙織「うん。オーラがすごいよね、あの子」
華「“持って生まれた”などという言い方は、問題あるのかもしれませんけど」
麻子「だが、親も子供もそういう種類の人物なのは、事実だ」
みほ「……」
沙織「私が……」
華「何でしょう」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:49:58.87 ID:2JrnA4b70
沙織「私が、祐ちゃんに話してみるよ」
麻子「……何だと?」
華「沙織さん、今、何て言いました?」
沙織「え……どっか変? 私が祐ちゃんに話してみる、って言ったんだけど」
麻子「おい沙織、“祐ちゃん”って何だ?」
華「その呼び方は、一体……」
みほ「沙織さん。それって、その祐天寺って人のこと?」
沙織「うん」
麻子「沙織。まさか、知り合いだったのか?」
沙織「顔見知り程度だけどね」
華「これは、驚きです……」
麻子「おい。そんな大事なことを、どうしてもっと早く言わないんだ?」
沙織「怒らないでよ……。だって、話すタイミングがなかった、っていうか……」
みほ「でも沙織さんは、さっきから言い方が私たちと違ったよね。その人のことを喋るときに」
華「……そうでした。“あの子”と言っていましたね」
みほ「私は、“あれ? 実は友達なの?”って思ってたよ」
麻子「いつからだ? 沙織」
沙織「入学したすぐ後くらいだったかなあ。知り合ったの」
華「きっかけは何だったのでしょう」
沙織「あの子の髪質、びっくりするくらい、私のと似てるんだよね」
麻子「そんなのを、見ただけで分かるのか?」
沙織「たまたま気が付いただけ、かもしれないけど。それで、話しかけて……」
華「では、祐天寺さんがその筋のかたと分かったのは、知り合った後でしょうか」
沙織「うん。最初会った時も、何かすごいオーラの子だなあ、とは思ったけど」
華「……」
沙織「でも、それが分かったからって、その後の態度を変えちゃうのもおかしいしね」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:53:25.48 ID:2JrnA4b70
みほ「沙織さんって、やっぱりすごい……。誰とでも友達になれるんだね」
華「相手がどんなかたでも、決して物怖じしないのですね」
麻子「そして、知り合うきっかけを作るのが、絶妙だ」
沙織「だから、顔見知り程度だって。友達ってわけじゃないよ。それに……」
麻子「何だ」
沙織「こんなの、誰でもやってるんじゃない?」
みほ「こんなの、って?」
沙織「相手をほんの少しだけよく見れば、話しかける理由なんて、すぐ見付かるよ」
みほ「そんな、簡単に言われても……」
麻子「沙織は恐らくほかの人より、それを見付ける能力に長けてるんだ」
華「そして見付けたら、すぐに話しかける……」
みほ「そんなの、私だったら絶対、無理」
麻子「沙織と祐天寺順子に、共通の話題があるのか?」
沙織「別に、話すことなんてないけど……挨拶くらい。“よう沙織”“祐ちゃん元気?”とか」
華「……」
沙織「それに大体、あの子はⅡ科だから、会う機会あんまりないしね」
麻子「だが、それでも……学園随一の問題児が、知り合いとは……」
みほ「恐るべし、だね。沙織さんのコミュニケーション能力……」
華「そして、人脈……」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 19:59:26.21 ID:2JrnA4b70
みほ「沙織さん。話す、って言っても……」
沙織「何?」
みほ「優花里さんのことを、その人へどう話すの?」
沙織「うーん……“ゆかりんに、タバコやめさせたいんだけど”とか?」
麻子「まあ、そんなところか」
沙織「私には、このくらいしか考えつかないけど……どう思う?」
華「それ以上まわりくどい言い方よりも、よろしいのでは」
みほ「そうだね。相手がサバサバしてる人だったら」
華「どのような接し方や話し方がいいのかは、面識のある沙織さんにしか分かりません」
麻子「沙織が一番良いと考える言い方が、まさに一番良いだろう」
華「では皆さん、祐天寺さんの件については……」
みほ「うん」
華「沙織さんへ、全権委任でよろしいでしょうか」
麻子「異議無し」
みほ「私も異議無し。沙織さんは自由に動いてくれたら、いいと思う」
華「どんな結果が出ようと、構わないと思います」
麻子「ああ。この役目は、沙織でなければ不可能だ」
みほ「私たちにできるのは、沙織さんへ完全に任せることだけ」
沙織「うん、分かった。やってみる」
麻子「私たちに祐天寺順子との接触ルートがあると分かったのは、一筋の光明だな」
華「みほさんという切り札以外に、もう一枚カードが増えましたね」
麻子「五十鈴さんからこの名前を聞かされた時は、絶望的ともいえる気分になったが」
華「補給路を断つ、というやり方は、あまりフェアではないかもしれませんけど」
みほ「……やっぱり実は、華さんにも抵抗ある?」
華「それは……やはり、多少は……」
沙織「……」
麻子「どうした、沙織」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:02:39.12 ID:2JrnA4b70
沙織「自分で言い出したくせに、こう言うの、変なんだけど……」
麻子「何だ」
沙織「これってゆかりんが知らないところで、本人に関係あることを勝手にやるんだよね」
麻子「この場合は、五十鈴さんが言った“補給路を断つ”というやり方だな」
沙織「みぽりん。戦車道的に、こういうやり方はいいの?」
みほ「ていうか、最初からそんな考え方はないよ」
沙織「あ……そうなの?」
みほ「戦車道は戦争じゃないから。ほかの武道と同じだよ」
麻子「鍛錬し、互いに万全の準備をして、正々堂々と技を競う」
華「そこに“補給路を断つ”などという、戦争のような考え方が入り込む余地はありません」
沙織「でも、だとしたら……」
みほ「うん」
沙織「私たち、何しようとしてるんだろ。いいの? そんなことして」
みほ「……」
麻子「……それは、こういうことだ」
沙織「何?」
麻子「今、私たちは戦車道と、それ以外の実際の生活とを、分けて考えられてない」
沙織「……ごめん。麻子が何言ってるのか、よく分かんない」
麻子「戦車道の世界は、さっきも言ったが、互いに真正面からぶつかり合うというものだ」
沙織「うん」
麻子「だが実際の生活では、それとは全然違うやり方が行われてる」
みほ「資金源や供給源に手をまわす。それで相手に打撃を与える。そんなの当たり前だよね」
華「兵糧攻めですね。正面突破以外で、成果を上げようとする方法です」
麻子「“補給路を断つ”や“兵糧攻め”以外にも、いろいろな言葉があるぞ」
華「“経済封鎖”“糧道を断つ”“干す”“資産凍結”……」
沙織「……」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:06:58.02 ID:2JrnA4b70
みほ「麻子さんはやっぱり鋭い。私は今、分けて考えられてなかったかも」
華「わたくしもです。戦車道ではないのだから、フェアも何もありません」
沙織「そっか。戦車道じゃないから、いいのか……」
華「でも、沙織さん」
沙織「何?」
華「だからといって、このやり方を良しとするかどうかは、別の問題では」
みほ「うん。私は、大人のずるいやり方だと思う」
沙織「……」
みほ「大人が、こういうやり方をしてる。私は昔、それを知った時にすごく嫌な気分になった」
沙織「……」
みほ「相手へ正面から向き合うのとは別に、相手のバックにいる人たちへ接触する」
麻子「そのバックにいる存在を、味方にできれば……」
華「もう、勝負はついたといっていいですね」
沙織「相手は、そのバックの言うことを、聞かなくちゃ駄目なんだもんね……」
みほ「大人は、もっとひどいやり方だって、平気でするよ」
沙織「もっと、ひどい?」
みほ「例えば、こういうことをするのが、相手へ何か言う前だったりするの」
沙織「……」
みほ「それどころか、相手に何も言わないで、こういうことだけを隠れてやったりする」
沙織「……」
みほ「でも実際はこの方法で、すごくたくさんの人が幸せになる場合もあるんだよね」
華「“ずるい”などと言っている場合じゃないことも、あります」
麻子「だからこそ大人たちは、この方法を使うんだ」
沙織「……」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:09:31.91 ID:2JrnA4b70
華「沙織さん」
沙織「何?」
華「先ほど、祐天寺さんへの接触という役目を、引き受けていただきました」
沙織「うん」
麻子「どうする?」
沙織「どうする、って?」
麻子「本当に、それをやるか?」
沙織「……」
みほ「その役目は、私が“大人のずるいやり方”って言ったことを、する役目だよ?」
華「沙織さん自身も、“そんなことしていいの?”と話していた役目です」
麻子「抵抗があるなら、やめても構わない。誰も沙織に強制はできない」
沙織「はぁ? みんな、何言ってるの?」
華「……」
麻子「……」
沙織「特に、みぽりん」
みほ「え……」
沙織「答えは、決まってるでしょ」
みほ「………」
沙織「意地の悪い言い方しないでよ。みぽりんらしくない」
みほ「……」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:12:15.94 ID:2JrnA4b70
沙織「私、やるよ。私が祐ちゃんへ手をまわして、ゆかりんへのタバコの供給ルートを断つ」
華「沙織さん……」
沙織「ここで私が何もしないでいてみ? 私が祐ちゃんに何も言わなかったら、ゆかりんは……」
みほ「……」
沙織「タバコ吸い続けて、それで、いつか見付かって……」
麻子「後は、前に話したとおりだな」
沙織「ねえみぽりん? 友達を一人救えるなら、安いもんだよ。そうじゃない?」
みほ「何が……?」
沙織「私がその“ずるいやり方”をして、“ずるい奴”“卑怯な奴”って思われるくらい、だよ」
みほ「沙織さん、違うの! 私は、沙織さんのことを言ってたわけじゃ……」
沙織「ストップ」
みほ「……」
沙織「みなまで言うな、西住殿」
麻子「……何だ?」
華「優花里さんと時代劇が混ざったような話し方ですね」
沙織「西住殿の思いは、よく分かっておる」
みほ「……」
沙織「わしかて、思いは同じじゃ」
みほ「……」
沙織「だが、わしらは、手段を選んではおられぬのじゃ」
麻子「沙織、普通に話していいぞ」
沙織「え、もうやめちゃう? 場を和ませようと思ったのに」
麻子「その気持ちは結構だが、和むというより、不気味だから」
みほ「沙織さん、ありがとう……分かってくれて」
沙織「いくらおバカな私でも、みぽりんの言いたい中身くらい、分かるに決まってるじゃん」
華「……どうなることかと思いました。この二人の対立なんて、完全に想定外でしたから」
沙織「まったくもう。みぽりんが、らしくない言い方するからだよう」
みほ「ごめんなさい……」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:17:19.79 ID:2JrnA4b70
麻子「それにしても、五十鈴さん」
華「はい」
麻子「五十鈴さんはいわゆるお嬢様だが」
華「はい……と答えるのも妙ですけど」
麻子「“チンピラ”や“その筋”という言葉をボキャブラリーに持ってて、少し驚いた」
華「実家へ時折、そういうかたが来ていましたので」
沙織「ええ? 何それ?」
麻子「なるほど」
華「恥ずかしい話ですけど」
沙織「どういうこと? 華んちがそんなのと、関係あったってことじゃないよね?」
華「それは、もちろんです。関係などあるはずがありません」
麻子「失礼なことを言うな、沙織」
みほ「これから、関係を持とうとしてたんだよ」
華「はい。家が、目をつけられるらしくて」
沙織「そっか、ごめん……あんなに大きいお屋敷だから、お金を強請りに来てたのか」
華「大抵は新三郎が追い返していましたけど、あまり邪険にするのも上策とはいえません」
沙織「どういうこと?」
麻子「うまく付き合ってくのも、必要か」
華「ええ。何をされるか分かりませんから。母も少々、苦労していたようです」
沙織「すごい世界だね」
華「自分の将来なんて、まだ分かりませんけど……」
みほ「何?」
華「恐らくわたくしは五十鈴流を継いで、あの家の当主になるのだと思います」
麻子「五十鈴家では代々、家元である奥方が当主か」
華「はい。当主として家を守っていく中では、様々なことが起こるでしょう」
沙織「……」
華「綺麗事ばかりでは、済まされませんわ」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:21:11.42 ID:2JrnA4b70
沙織「みぽりんの実家は?」
みほ「うちも、事情は似てるかな」
華「差し支えなければ、お話を聞かせてください」
みほ「うちの場合は武道だから、華さんちより、もっと状況はすごいかも」
麻子「武器や兵器を扱うからな」
みほ「うん。うちにもそういう人たちが来てたけど、多分、狙ってたのはそれだと思う」
沙織「やっぱり追い返したり、うまく付き合ったり?」
みほ「お手伝いさんの中に逞しい人がいて、その人が怒鳴りつけるの。すごい迫力だよ」
華「ですが、うまく付き合うといっても……」
麻子「戦車を触らせるわけには、いかないと思うが」
みほ「うん、絶対に駄目。そこは華さんちと違うところ。完全にシャットアウトする方針みたい」
華「甘い顔をしていると、つけ上がるでしょうから」
みほ「前に1回、こんなことがあって」
沙織「どんな?」
みほ「お母さんはそういう人たちと、一切会わないようにしてるんだけど……」
華「はい」
みほ「1回だけ、どうしても会わなくちゃ駄目、って事態になったらしいの」
麻子「恐らく、周囲を巻き込んで、しがらみを作られてしまったか」
みほ「そうだと思う。それでお母さんは、家へ上げて、お茶と和菓子を出した」
華「でも、ああいうかたがたは、何を出されても全く手をつけないんですよね」
沙織「どうして?」
麻子「何を盛られてるか分からないからだ」
沙織「あ、そっか」
みほ「だけどその人は、食べようとする振りくらいはしよう、と思ったみたいで」
華「茶碗や食べ物へ触っても、結局、口を付けなければいいのですから」
みほ「和菓子に菓子箸を刺した。そしたら、中から出てきたのは……」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:25:38.05 ID:2JrnA4b70
沙織「何が入ってたの?」
みほ「機銃弾の、弾頭」
華「……」
沙織「……」
みほ「多分、MG34のだったんじゃないかな」
麻子「……これは、笑う話なのか、そうじゃないのか」
華「冗談が強烈過ぎて、分かりませんね」
沙織「それで、どうなった?」
みほ「その人は急にそわそわし始めて、話なんかしないで、すぐ帰っちゃった」
麻子「まあ、そうなるだろうな」
華「この場合、何をされるか分からないのは、そのかたですね」
麻子「とっとと退散しなければ屋敷の中で消される、とでも思ったんだろう」
華「そうなったら死体すら残らないかもしれない、と考えるでしょうから」
沙織「何か……すごいね、みぽりんのお母さん」
麻子「何がどうすごいのか、分からないけどな」
華「みほさんのお母様は、さすが武道の師範でいらっしゃいます」
みほ「お母さんは、“菓子に手をつけるとは思わなかった”って、笑ってた」
麻子「実弾を送りつけるのは、そういう種類の人間たちがやる常套手段だ」
華「お株を奪ったのですね」
みほ「“相手のレベルへ合わせてやったのに、話もしないで帰るとは失礼な”って言ってたよ」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:29:53.60 ID:2JrnA4b70
沙織「大人って、いろいろ、あるんだね……」
麻子「大人になるのが嫌になったか? 沙織」
沙織「だからって、どうにもならないでしょ?」
華「少なくとも、身体の成長は止められませんから」
沙織「華がさっき言ってたとおりだよね。綺麗事ばっかりじゃ、済まされない」
みほ「私たちにはちょっと早く、それを経験する機会が来ちゃったのかもね」
華「とにかく、次回が最後のチャンスだと思います」
みほ「うん。もう、次の練習までほとんど日数がない」
沙織「今度、説得に失敗したら……」
麻子「この雰囲気のまま、練習へ突入する羽目になる」
沙織「私、そんなの絶対に嫌……耐えられない」
華「全員、気持ちは同じです」
沙織「それに、隊長車の私たちがギクシャクしてたら、他のチームに迷惑が掛かるよ」
みほ「それは、絶対、絶対に、避けなくちゃ駄目だね」
華「絶対、絶対に……」
麻子「……」
華「……“絶対に勝ちたいです”」
麻子「……“無論、負けるつもりはない”」
みほ「何、それ?」
沙織「決勝の試合中に、二人が言ったことだよ」
華「今回もわたくしたちは、絶対に勝たなくてはなりません」
麻子「そして今回も、負けるつもりはない」
華「でも、今回は……誰も敗者にならない、という戦いです」
麻子「全員が、勝者になるという戦いだ」
みほ「うん。相手を撃破すればいい、っていうことじゃないんだよね……」
沙織「全国大会の方が、楽だったかもね」
華「でもわたくしたちは、やらなければなりません」
麻子「仲間のために。友達のために」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:34:07.52 ID:2JrnA4b70
7
優花里「ついに全員、そろいましたか」
みほ「……」
優花里「ここへ呼び出されるの、もう3回目なんですが」
みほ「……」
優花里「いい加減にしてくれませんかね」
沙織「相変わらず、何言ってるのよ……」
優花里「私のことは放っといてくれ、って言ってるんです」
華「そんなこと、するはずがありません」
麻子「いい加減にしろとは、こっちのセリフだ。秋山さん」
優花里「冷泉殿。前回、私のことは理解してもらったと思ってましたが」
麻子「秋山さん。いい加減、目を覚ませ」
華「わたくしたちは、仲間です。友達なんです」
沙織「ほっとくなんて、できるわけないじゃない」
優花里「ふっ。友情の押し売りですか。暑苦しい」
みほ「……」
優花里「皆さん、今回はとうとう西住殿まで連れてきましたね」
みほ「……」
優花里「喩えるなら“ラスボス登場”ってところですか」
麻子「――五十鈴さん」
華「――はい」
麻子「――秋山さん、明らかに動揺してるな」
華「――ええ。みほさんの顔を、まっすぐ見られないようです」
沙織「――口じゃ強がってるけど、すごく落ち着かない様子だよね」
65 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:37:15.87 ID:2JrnA4b70
優花里「それにしても、私もこうして、御本尊を引きずり出すところまで来ましたねえ」
華「何て言い方を……」
優花里「少しは、自分を褒めてやっていいのかもしれませんね」
麻子「褒められるようなことをしてると思ってるのか?」
優花里「何言ってるんですか?」
麻子「……」
優花里「そんなの、思ってるはずがないですけど」
沙織「もう……言ってること、おかしいよ……この前と同じ、わけ分かんない」
優花里「私だって、わけ分かりませんよ?」
沙織「……」
優花里「もう、どうでもいいんです。私なんて。何もかも」
みほ「……」
沙織「――麻子」
麻子「――何だ」
沙織「――みぽりんがさっきから、ちょっと変じゃない?」
麻子「――ああ。一言も喋ってない」
華「――優花里さんの顔から、全く目を離してません」
沙織「――みぽりんは前に、ゆかりんの言ったこと聞いて、ブチギレてたよね」
華「――ええ……少々、嫌な予感がします」
優花里「西住殿……」
みほ「……」
優花里「どうして、何も言わないんですか?」
みほ「……」
優花里「怒ってるんですか? それとも……」
みほ「……」
優花里「そんなの通り越して、呆れてるんですか?」
みほ「……」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:40:28.61 ID:2JrnA4b70
優花里「ま、そりゃ、呆れますよね。隊長として」
みほ「……」
優花里「隊員が、タバコ吸って、グレて……」
みほ「……」
優花里「ほかのみんなに、ひどいこと言ってるんですから」
みほ「……」
優花里「私をチームから外してもらって構いませんよ?」
みほ「……」
優花里「Ⅳ号から、降ろしてください」
みほ「……」
優花里「私に戦車道をやる資格なんて、ないでしょう?」
みほ「……」
優花里「何か言ってくださいよ」
みほ「……」
優花里「私を、怒ってください」
みほ「……」
優花里「どうして、何も言わないんですか?」
みほ「……」
優花里「どうして、何も……言って、くれないんですか?」
みほ「……」
優花里「何か、言ってくれたって、いいじゃないですか……!」
みほ「……」
優花里「声をかける価値も、ないんですか……私なんかには!」
みほ「……」
優花里「西住殿! 何か、何か言ってくださいよ……! 私に……!」
みほ「……」スッ
優花里「……!!」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:43:26.88 ID:2JrnA4b70
沙織「――みぽりんが、ゆかりんに近寄った」
華「――あんなに、近づくなんて」
麻子「――これは……まずい」
華「――みほさんは、優花里さんを……」
麻子「――殴るつもりだ」
沙織「みぽりんやめて! ぶったりしちゃ駄目!」
麻子「よせ! 西住さん!」
華「暴力は、絶対に、あってはいけません!」
優花里「なっ……何ですか!? 殴る気ですか!?」
みほ「……」
優花里「な、殴るなら! 殴ればいいじゃないですか!!」
みほ「……」
優花里「殴ってくださいよ!! 早く!! 早く殴……あっ」
みほ「……」ギュッ
華「……あ……」
沙織「……ひゃー……」
華「みほさん……優花里さんを……」
沙織「だ、だき……」
麻子「抱き締めた……」
沙織「みぽりん……」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:45:35.98 ID:2JrnA4b70
優花里「……」
みほ「……」
優花里「………………う。ううっ」
みほ「……」
優花里「……うう……ぐすっ……」
みほ「……」
沙織「……あー、ゆかりん……」
華「……泣き出して、しまいました」
麻子「……」
優花里「ぐすっ。うう。うううう」
みほ「……優花里さん」
優花里「うぐっ。ぐすっ。ううう」
みほ「もっと、泣いていいんだよ?」
優花里「う……」
みほ「私のことも、抱き返して?」
優花里「……うう。うううっ。うわあああああん」ギュッ
みほ「もっと強く、抱いて」
優花里「うわああああん。ぐすっ。うわあああああん」
みほ「痛いくらいでも、いいよ?」
優花里「うわあああん。ぐすっ。ひぐっ。うわああああああん」
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:49:37.70 ID:2JrnA4b70
沙織「あーあ……もう、号泣だよ」
華「やはり、優花里さんは……」
麻子「自棄になって、強がって……」
華「ずっと、無理をしていたのでしょう」
沙織「みぽりんに抱き締められて、その“無理”が、一気に弾けちゃったか」
麻子「もうとっくに、限界だったんだな」
華「恐らく、誰にも話さず、話せずに……」
麻子「悩みを自分の中へ、溜め込み続けていたんだろう」
華「それを、わたくしたちへ打ち明けて……ぶつけてきて、ほしかったです」
沙織「うん。グレたりなんか、しなくてもよかったよね」
麻子「荒んでいく自分を、冷静に見てたくらいだ」
華「本当は、不良の真似事なんて、どうでもよかったのでしょう」
優花里「ううっ。ぐすっ。に、西住殿、ごめ……ごめんなさい……」
みほ「……」
優花里「わ、私……ずっと、ずっと、分からなく……て……ぐすっ」
みほ「……」
優花里「ど、どうしたら、いいか……ううっ。自分が、どうしたら、いいのか……」
みほ「……」
優花里「それに、だんだん……自分が、ぐすっ。何やってるのかも、分からな……」
みほ「……」
優花里「ごめんなさい、西住殿……ぐすっ。ほ、本当に、ごめんなさい」
みほ「ほら、優花里さん?」
優花里「は……はい……ううっ。ぐすっ」
みほ「みんなにも、ちゃんと言わないと」
70 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:53:43.86 ID:2JrnA4b70
優花里「は、はい……ぐすっ。み、みなさん、ごめんなさい。本当に、本当に……」
沙織「……」
優花里「ほ、本当にご、ごめんなさい。わ、私、私……ぐすっ」
華「……」
優花里「わ、私、バカだから……ううっ。どうしたらいいか、ずっと、わ、分から……」
麻子「……」
沙織「いいから。ね? ゆかりん」
華「わたくしたちは、優花里さんのことを分かっていますよ?」
麻子「秋山さん、こっちへ来てほしい」
沙織「私たちもゆかりんのこと、ぎゅっとしてあげるから」
華「みほさんほど、抱き心地がよくないかもしれませんけど。わたくしたちは」
優花里「うわあああん。み、みなさ……ごめ、ごめんなさい……うわあああん」
華「ほらほら、優花里さん。しっかり抱き締めてくれないと」
優花里「うわあああん。ひ、ひどいことばかり言って、ご、ごめんなさい。うわあああん」
沙織「ゆかりんが泣いてると、私たちまで……泣きそうに、なっちゃうよ」
麻子「もう泣いてるだろ、沙織」
71 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 20:56:52.34 ID:2JrnA4b70
8
沙織「もう、みぽりんも華も、そんなに早く歩かないでよう」
みほ「だって、もう日が暮れちゃうよ」
沙織「こっちは、まだベソかいてる人、連れてるんだからさあ」
華「早くしないと、優花里さんをおうちへ送り届ける前に、暗くなってしまいますよ」
沙織「ゆかりんが麻子にしがみついて離れないから、ゆっくりしか歩けないんだよう」
麻子「もう泣くのをやめろ、秋山さん」
優花里「ぐすっ……はい、冷泉殿。ううっ。ごめんなさい」
麻子「秋山さん。私は怒ってないし、気にしてもいない」
優花里「はい。うう。ぐすっ……ごめんなさい冷泉殿。ごめんなさい」
麻子「だから、もう泣くのをやめてほしい」
優花里「はい……ぐすっ。ごめんなさい……」
華「……やはり、優花里さんは気にしていたのですね」
みほ「うん。元々、あんなことを言うような人じゃないもの」
華「あの言葉が本心だなんて、そんなはずがありません」
みほ「頭のよさが、ちょっとだけ変な方に、発揮されちゃったんだよね」
華「ええ。売り言葉に買い言葉で、話がエスカレートしてしまっただけですね」
みほ「自分がしたことや話したことへ何か言われると、つい、強い言葉を返す」
華「引っ込みがつかなくなって、さらに何か言われると、もっと強い言葉で応じる」
みほ「これの繰り返しだね」
72 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:05:36.99 ID:2JrnA4b70
華「みほさん、今回も……」
みほ「何?」
華「やっぱり今回も、みほさんが事態を解決しましたね」
みほ「ううん。今回も、みんなと一緒だからできたんだよ」
華「あの時わたくしたちは、みほさんが優花里さんを殴るとばかり、思っていました」
みほ「そんな、友達を殴るなんて……そもそも、人を殴るなんて、私にはできないよ」
華「優花里さんも、殴られると思ったようですね」
みほ「うん。だけど、そんなことしたって、状況をこじらせるだけだったと思う」
華「でもまさか、抱き締めるとは。予想外の一手で、効果はてきめんでした」
みほ「そうかな……」
華「みほさんは、皆さんの気持ちを分かっているのですね」
みほ「……」
華「隊長として。仲間として」
みほ「……」
華「そして何より、友達として」
みほ「華さん」
華「はい」
みほ「それは、違うの」
華「え?」
みほ「私は、人の気持ちなんて、分からないよ」
華「……」
みほ「だって私は、私自身でしかないから。私は、その人じゃないから」
華「……」
みほ「“気持ちは分かる”って言う人が、よく、いるけど……」
華「……それは違う、と……?」
みほ「うん。何でそんなの言えるのかな、って思う」
華「……」
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:11:44.19 ID:2JrnA4b70
みほ「それに、そんなの言う人に限って、“気持ちは分かる”だけ」
華「……どういうことでしょう」
みほ「私が、黒森峰を離れる時がそうだったの」
華「……」
みほ「ほとんどの人は、“気持ちは分かる”って言ってくれた」
華「はい」
みほ「だけど、そう言うだけで、何かをしてくれるわけじゃなかった」
華「……」
みほ「何かをしてほしいなんて、甘えちゃいけないのかもしれないけど」
華「……」
みほ「口では、何とでも言える。実際の行動は、また別の話」
華「それを、目の当たりにした……ということですか?」
みほ「もし、私と一緒に悩んでくれて、泣いてくれる人が、一人でもいたら……」
華「……」
みほ「私は、黒森峰を離れなかった……と思う」
華「“気持ちは分かる”と言うかたがた……その中に、そういうかたは一人もいなかった……」
みほ「うん。だから、人の気持ちが分かるって、言葉だけのことなんだって理解した」
華「……」
みほ「結局、黒森峰ではずっと、私の気持ちなんて、誰も考えてくれなかった」
華「……」
みほ「お姉ちゃん、お母さん……家族でさえ、そうだった」
華「でも黒森峰の隊長さん、いえ、お姉様、それからお母様とは、今……」
みほ「うん。一応、和解っていう状態なのかな」
華「……」
みほ「でも、だからって私、黒森峰には戻らないよ?」
華「それは……そんなことをされたら、わたくしたちは困ってしまいます」
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:15:06.17 ID:2JrnA4b70
みほ「私が優花里さんを説得する番になって、その方法を考える時、こう思ったの」
華「はい」
みほ「私が優花里さんの立場だったら、どう言ってほしいか、どうしてほしいか」
華「……」
みほ「私は、人の気持ちなんて分からない。分かるのは、私自身の気持ちだけ」
華「……」
みほ「だから、私自身の気持ちだけ、考えたの。私だったら、どうしてほしいか」
華「それで、抱き締める、ということに……?」
みほ「うん。私、誰かに抱き締められた経験なんて、なかった」
華「……」
みほ「多分、赤ちゃんの頃はあったんだろうね。でもそんなの、憶えてないから」
華「……」
みほ「だけどここへ転校したら、そうしてもらえたことが2回もあった」
華「……そのうちの1回は、ひょっとして、サンダース大付属の隊長さんの時でしょうか」
みほ「うん、そう。ケイさんっていったよね」
華「では、もう1回は会長……角谷先輩の時。決勝の試合の後……」
みほ「華さん、両方とも憶えてた? どっちも、みんなの前でやられちゃったからね」
華「ええ」
みほ「2回ともすごく驚いた。でも、人に抱き締めてもらえるのって……」
華「……」
みほ「体が温かくなるだけじゃなくて、何だか心も、温かくなれるんだなぁ、って思ったの」
華「……」
みほ「自分だったら、悩んで、すごく追い詰められた時……誰かに抱き締めてほしい」
華「そうすれば、心が温かくなれる……」
みほ「うん。もちろんそんなこと、何の解決にもならない。だけど……」
華「……」
みほ「うまく言えないけど、心が、優しくなれるんじゃないかって、思ったの」
華「はい」
75 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:17:56.49 ID:2JrnA4b70
みほ「それに、優花里さんみたいな頭のいい人を説得するなんて、私には無理」
華「……」
みほ「私が、言葉でそうするなんて、無理だと思った」
華「言葉以外の方法を採る。それが、抱き締めるという実際の行動だった……」
みほ「うん」
華「……」
みほ「華さん」
華「はい」
みほ「人の気持ちなんて分からない。……そんなこと言う私って、冷たい女だと思った?」
華「いえ……。それはみほさんの、経験に裏打ちされた考えだと思います」
みほ「……」
華「なので、わたくしには、何も言うことはありません……」
みほ「……人の気持ちなんて分からない。自分は、自分の気持ちしか分からない」
華「……」
みほ「だから、自分がその人の立場だったら、どうしてほしいか考える」
華「……」
みほ「そして、考えるだけじゃなくて、言葉だけじゃなくて、行動する」
華「それが、人の気持ちを考える、そして、考えた、ということ……」
みほ「うん。黒森峰ではずっと、誰も私の気持ちなんて考えてくれなかった」
華「……」
みほ「それなら、私は人の気持ちを考えよう、考えてあげよう、って決めたの」
華「優花里さんは……そうして、もらえたのですね」
みほ「何かを人にしてあげる、なんて……偉そうかもしれないけど」
華「いえ。優花里さんは、みほさんにそうしてもらえて、本当に良かったと思います」
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:20:48.47 ID:2JrnA4b70
沙織「……ふー、やっと追いついた」
みほ「あ、沙織さん」
華「優花里さんは泣きやみましたか?」
沙織「ううん。まだぐしぐしやってる」
優花里「ぐすっ……ううっ……ごめんなさい、冷泉殿」
麻子「もう分かったから」
優花里「うう。ぐす。ごめんなさい。ごめんなさい……」
麻子「いい加減、泣くのをやめろ」
沙織「もう、みぽりん、何とかしてよ」
華「きりがありませんね」
優花里「うう。ごめんなさい。ごめんなさい冷泉殿。ぐすっ」
麻子「……謝るくらいならあんなこと、最初から言わなければいいと思うが」
優花里「あ…………う…………」
みほ「麻子さん、それは……」
華「ちょっと、余計に……」
優花里「う……ううっ。うわああん。うわああああああああん」
みほ「あー、また号泣になっちゃった……」
優花里「うわああああん。ごめんなさい冷泉殿ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
沙織「もう、麻子!」
麻子「何だ」
沙織「ゆかりんを許してるんだったら、もっと泣かすようなこと言わないの!」
みほ「でも……」
沙織「何?」
みほ「ちょっと怒ってあげても、いいんじゃないかな」
華「そうですね。今回は少々、わたくしたちも振り回されましたので」
優花里「うわあああん。ごめんなさい冷泉殿ごめんなさいごめんなさい。うわあああん」
沙織「じゃあ、みぽりん」
みほ「何?」
77 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:22:58.33 ID:2JrnA4b70
沙織「この子さあ、いつまでたってもピーピー泣いてて、ちっとも静かにできないからさあ」
みほ「うん」
沙織「ちょっと、気合入れてやってくんない?」
みほ「よし分かった。任せといて」
華「あらみほさん、ノリノリですね」
麻子「沙織のヤンキー臭い口調に感化されたか」
みほ「……優花里さん!」
優花里「……!!」ビクッ
みほ「泣いてないで、話を聞いて!」
優花里「は、はい」
華「優花里さんが、一瞬で泣きやみました」
沙織「やっぱ、みぽりん効果はハンパないなあ」
みほ「優花里さん。今回のことで、どれだけ私たちを心配させたか分かってる?」
優花里「……はい……」
みほ「どれだけ、私たちが優花里さんを気にかけてたか、分かったでしょ?」
優花里「……はい……すみません、でした……」
みほ「不良の真似なんかして、あんなの、カッコいいとでも思ってたの?」
優花里「も、申し訳……」
みほ「あんなの、迷惑なだけだったんだよ?」
優花里「ごめんなさい……」
みほ「大体、不良娘ってことだったら、私に全然敵わないよ?」
優花里「……な……何のこと、なのか……」
78 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:25:14.90 ID:2JrnA4b70
みほ「私なんて、ただ今現在進行形で、絶賛家出中なんだから」
優花里「……」
みほ「親にパンツ洗わせてるくせに、その親のことで文句言ってる人とは、わけが違うんだよ?」
優花里「うう……」
沙織「みぽりん、良いこと言うなあ」
麻子「西住さんらしからぬ下ネタだが、心に響く喩えだ」
優花里「はい……おみそれ、しました……」
みほ「そう言ってくれるなら、優花里さん」
優花里「はい……」
みほ「今回のことでは、私の言うことを聞いてくれる?」
優花里「はい」
みほ「じゃあまず最初に! 優花里さん!」
優花里「は、はい!?」
みほ「出して」
優花里「え……?」
みほ「出して。私に渡して。人に見られないように、素早く」
優花里「あ。ああ……これの、ことですね……」ゴソ
みほ「もうこんなこと、やめてくれるよね?」
優花里「はい……」
華「みほさん、わたくしが穏便に処分します」
みほ「うん。お願い、華さん」
華「優花里さん。――ライターも。携帯灰皿も」
優花里「……お手間掛けます、五十鈴殿……」
華「わたくしからもお願いします。こんなこと、もう、やめてくれますね?」
優花里「はい……もう二度と、やりません」
79 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:28:15.19 ID:2JrnA4b70
麻子「それにしても、すぐにやめられるんだな。秋山さん」
華「大人の中にはやめたくても、やめられない人がいるそうですね」
麻子「そういう人は病気とみなされて、専門の医者がいるくらいだ」
沙織「ゆかりんは元々、吸いたくて吸ってたんじゃ、なかったんだよねー?」
優花里「……」
華「ほんの気まぐれで、格好つけて吸っていただけ、でしょう?」
優花里「……そ、そのとおり、です……」
みほ「じゃあ、優花里さん。次のお願い」
優花里「はい」
みほ「それをくれてた人との付き合い方を、もう一回考える」
優花里「……それは……」
沙織「祐ちゃんだよね?」
優花里「……」
麻子「祐天寺順子、だろ?」
優花里「はい……。皆さん、何でもお見通しなんですね……」
華「決して、絶交してくださいとは言いません」
沙織「友達がどんな人でも、それはやっぱり大事な友達だもん」
麻子「だが、付き合い方というものがある」
優花里「それを、考え直せ、ということですね……。分かりました……」
麻子「ところで、沙織」
沙織「何?」
麻子「祐天寺順子に会ったんだろ?」
沙織「うん」
優花里「ええっ!?」
80 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:31:36.46 ID:2JrnA4b70
沙織「ゆかりん。私たちを見くびってもらっちゃ、困るなあ」
優花里「……」
華「わたくしたちはやると決めたら、情報収集活動、工作活動だって、厭わず実行します」
優花里「……」
麻子「祐天寺順子は何か言ってたか?」
沙織「“そうか。じゃ、秋山にそれ、あげるのをやめるか”って」
優花里「……」
沙織「“沙織や秋山は、あたしにとって数少ない普通の知り合いだ”」
優花里「……」
沙織「“その沙織からのお願いだからな”って、言ってくれたよ」
華「沙織さんのお人柄がなせるわざですね」
麻子「この役目は、沙織でなければ絶対できない」
沙織「あの子は元々、ゆかりんは自分の仲間になれるタイプじゃない、って思ってたみたい」
麻子「祐天寺順子と本気で仲間になろうとしてるのか、それとも……」
沙織「今だけ少し、グラついちゃってるだけなのか」
華「祐天寺さんは最初から、分かっていたのですね」
麻子「やはり祐天寺順子は、学園の裏を仕切ってるだけのことはあるな」
華「どんな道であろうと、人の上に立つ人は、何かを見通す力を持っていますね」
みほ「……私なんて、隊長やってるくせに、そういうのは全然駄目だなぁ」
沙織「何言ってんの。みぽりんはそんなことより、ちゃんと結果を出し続けてるじゃん」
華「ええ。今回も、優花里さんを“取り戻した”という結果を出しました」
沙織「ま、そもそも完全に“あっち側”へは、行ってなかったみたいだけどね」
華「そうでした。ちょっと拗ねて、ソッポ向いただけのようでしたね」
麻子「西住さんはそんな秋山さんを、“こっち側”にちゃんと向けさせた」
みほ「優花里さん、手間の掛かる子供みたいだったね」
優花里「……面目、ありません……」
81 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:34:17.97 ID:2JrnA4b70
沙織「でも祐ちゃんと、この件は話がついたけど……」
華「何かありましたか? 沙織さん」
沙織「あの子、意味の分かんないこと言ってたんだよね」
みほ「何て?」
沙織「“じゃ、その代わり今度は、秋山に……”」
優花里「……」
沙織「“冷たいものでもやってもらうか。ガハハハ”って」
みほ「“冷たいもの”?」
優花里「何ですか? それ」
麻子「この解説は、五十鈴さんにお願いしよう」
華「……意地悪をしないでください、麻子さん」
麻子「清濁併せ呑む、五十鈴家の次代当主だ。意味は知ってると思うが」
華「麻子さんも、人が悪いです……。分かりました」
沙織「どんな意味?」
華「“冷たいもの”とは――シャブ、覚醒剤のことです」
みほ「……」
優花里「……」
麻子「まあ、祐天寺順子も冗談で言ったんだろうが」
沙織「……冗談にしちゃ、キツくない?」
華「彼女が言うと冗談に聞こえませんね」
みほ「優花里さん……」
優花里「何ですか?」
みほ「勧められても、絶対、やっちゃ駄目だよ?」
優花里「やっ、やりませんよ! そんなもの! ダメ。ゼッタイ。ですよ!」
82 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:37:15.94 ID:2JrnA4b70
沙織「さあ? どうだかなー?」
優花里「な、何ですか武部殿」
麻子「秋山さん、自分の立場を分かってるか?」
優花里「冷泉殿まで、何を……」
華「優花里さんには“前科”がついてしまいましたからねえ」
優花里「……」
麻子「当分の間、私たちがしっかり見守ってないと、駄目だ」
優花里「うう……信用、なくなっちゃいました……」
みほ「でも、優花里さん」
優花里「はい」
みほ「私たち、ずっとそうしてたんだよ?」
優花里「……」
華「ずっと、優花里さんを見守って……気にかけていたんですよ?」
優花里「……」
沙織「私たち、ずっとゆかりんを心配してたの」
麻子「だから私たちは、秋山さんから何を言われても、何度も呼び出したんだ」
優花里「……はい」
華「優花里さんは恐らく、誰にも相談せず、一人だけで悩んでいたのでしょうけど……」
麻子「そんな必要など、なかったと思う」
優花里「……」
83 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:39:55.54 ID:2JrnA4b70
みほ「いつも笑顔でいるだけが、友達じゃないよ」
沙織「一緒に怒ったり泣いたりする。たまにはケンカだってする」
華「全て、友達同士なら当然です」
麻子「一緒に悩むのだって、友達がすることだ」
優花里「……皆さんへ……」
沙織「何?」
優花里「……皆さんへ、相談しても、よかったんでしょうか……こんなこと」
みほ「当たり前だよ」
沙織「どうして駄目なの?」
華「“こんなこと”かどうかは、問題ではありません」
麻子「家族の話だから、確かに、他人へ相談しにくいかもしれない」
華「それに、わたくしたちでは何も解決できず、ただ悩みを聞くしかできないでしょう」
麻子「だが、誰かへ話すだけで、気が紛れたり楽になったりすることもあるんだぞ?」
優花里「……う。ううっ。ぐすっ」
みほ「あ、また泣き出しちゃった」
優花里「みなさん……ぐすっ。あ、ありがとう、ございます……」
沙織「もう、泣き虫だなあ、ゆかりんは」
優花里「だ、だって……ううっ。ぐす。み、みなさんが……」
麻子「いい加減に泣くのをやめろ。私の肩の辺りはもうベトベトだ」
沙織「気持ち悪い?」
麻子「いや……温かい」
沙織「温かい涙、か」
華「涙は、悲しいものばかりでは、ありませんから」
84 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:42:21.32 ID:2JrnA4b70
みほ「じゃあ、優花里さん」
優花里「は……はい……ぐすっ」
みほ「私の言うことを聞いてほしい、最後のを言うね」
優花里「……はい」
みほ「これは、できれば、でいいんだけど……」
優花里「……」
みほ「今回のことを全部、御両親へ話す」
優花里「う……」
沙織「みぽりん、それはちょっとムズいんじゃない?」
みほ「うん。だから、できれば、でいいと思う」
優花里「……いえ……」
華「何でしょう」
優花里「話します。両親に……全部」
麻子「本当か」
優花里「はい、本気です……。今回のことを、全部」
みほ「優花里さん、無理しなくていいからね?」
優花里「大丈夫です……約束します。全部話します」
85 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:44:40.43 ID:2JrnA4b70
沙織「ね、さっきのことなんだけど」
麻子「何だ」
沙織「みぽりんが、ゆかりんをぎゅっとしたの、驚いたよね」
麻子「まさか、ああするとはな」
沙織「ちょっと羨ましくない?」
華「沙織さんもそう思っていましたか?」
麻子「同じことを思わない人間などいない」
沙織「ねー? ゆかりん」
優花里「何ですか?」
沙織「いいなー。ゆかりんだけ、みぽりんにぎゅっとしてもらって」
麻子「秋山さん、どうだったんだ? 西住さんに抱かれた感想は」
優花里「えっ……そ、そんなこと……言わなきゃ駄目ですか……?」
沙織「言わなきゃ駄目」
華「駄目です」
麻子「駄目だ」
優花里「……」
みほ「ねぇみんな! さっきから、何てこと喋ってるの!」
沙織「みぽりんは黙ってて」
華「みほさん。今、わたくしたちは……」
麻子「非常に重要な話をしてるんだ」
みほ「……」
86 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:46:55.40 ID:2JrnA4b70
沙織「で、どうだった?」
優花里「……よ、良かったです……」
沙織「ひゃー」
華「あらあら」
沙織「やだもー。羨ましー」
麻子「どんな具合だ?」
優花里「その……温かくて……柔らかいけど、芯があって」
沙織「――今の聞いた?」
麻子「――“柔らかいけど、芯がある”そうだ」
沙織「――どういうこと? 意外とムチムチってこと?」
華「――恐らく、何というかこう、優しい弾力というか」
麻子「――とにかく実際に、抱かれてみないことには分からんな」
沙織「くぅ~、私もみぽりんにぎゅっとされた~い!」
麻子「西住さんから、そうしてもらうには……」
華「その答えは、実に単純です」
沙織「単純? どんな方法?」
華「優花里さんと同じことを、すればいいのです」
沙織「あ、なるほど」
麻子「前例に学べばいいだけの話か」
沙織「答えが簡単過ぎて、気付かなかったわ」
華「成功例を、つぶさに見てきたのですから」
沙織「真似しない手はないよね」
麻子「西住さん」
みほ「何……?」
麻子「私たちもグレたら、西住さんが抱き締めてくれるか?」
88 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:50:34.34 ID:2JrnA4b70
みほ「ま、麻子さん! 何てこと言うの!」
沙織「グレちゃおうかなー、私も」
麻子「何から始めるか」
華「やはり今回の例に倣って、タバコでしょう」
沙織「ね、ゆかりん。吸い方教えて?」
華「わたくしからもお願いします」
優花里「……さっきと言ってることが、同じなのに違いますけど」
麻子「酒という手もあるぞ」
沙織「それも楽しそうだよね。いつものお食事会を、飲み会にしよっか」
華「沙織さんなら、お酒のおつまみをレパートリーに加えることなど容易でしょう」
沙織「お酒飲む人だって、胃袋からゲットしちゃうよー?」
麻子「だが酒とタバコ、どちらも入手が困難だ」
華「それらを手に入れるには……」
沙織「大丈夫。私が祐ちゃんに頼んでみる」
華「沙織さん……頼もし過ぎますわ」
沙織「あの子だったら、お酒も全然オッケーだよ」
麻子「沙織の人脈は万能だな」
華「素晴らしいの一言ですね」
みほ「ちょっと! 何言ってるの! みんな!」
90 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:54:19.37 ID:2JrnA4b70
沙織「だって、不公平だもん。いい思いしたの、ゆかりんだけだもん」
みほ「……」
沙織「私たちも、みぽりんにぎゅっとされたいもん」
みほ「だって、あれは……事情が特別でしょ?」
麻子「私たちも、同じⅣ号の搭乗員だが」
華「車長は、装填手だけ特別扱いですか?」
沙織「えこひいきだー」
麻子「ひいきだー」
みほ「やめてよ、もう……困らせないでよぉ」
華「では、こういうのはどうでしょう」
沙織「何?」
華「グレるのが駄目なら、逆に、褒めてもらえるようなことをするのです」
沙織「褒めてもらえること、って?」
華「そうですね……例えば……」
麻子「例えば、練習で活躍するとか」
沙織「あ、それがいいじゃん」
麻子「チームの中で、活躍して……」
華「その日、一番頑張った人を……」
優花里「西住殿が褒めて、抱き締めてくれる、と……?」
華「これなら、全員に機会が与えられて公平ですね」
優花里「練習の大きな励みになります!」
沙織「よし! 決まりー!」
みほ「決まり、って……みんなだけでそんなの、勝手に決めないでよぉ」
沙織「いーじゃん、堅いこと言わないの!」
華「わたくしたちも、たまには車長から御褒美が欲しいです」
優花里「そのために、頑張れます!」
麻子「それに第一、減るもんじゃなし」
みほ「納得いかないなぁ……」
91 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 21:56:59.93 ID:2JrnA4b70
沙織「ほら、みんなでバカ言ってる間に、ゆかりんちへ着いたよ」
麻子「秋山理髪店」
華「久しぶりですね。ここへ来るのは」
沙織「ゆかりん」
優花里「はい」
麻子「私たちは、ここで失礼する」
優花里「はい」
華「御両親には、わたくしたちから何か言わなくても……」
優花里「はい」
みほ「ここから先は、一人で大丈夫だよね?」
優花里「もちろんであります!」
沙織「うん、いつもの明るい爽やかなゆかりんが戻ってきた」
優花里「皆さん。わざわざ送っていただいて、ありがとうございました!」
麻子「礼には及ばない」
優花里「それでは、これで」ガチャ
みほ「ほら、元気に、大きな声で」
優花里「はい! ただいまです!!」
92 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 22:01:17.57 ID:2JrnA4b70
9
みほ「……以上が車長からの、今日の練習についての講評です」
一同「ありがとうございました」
みほ「チームのみんなから、何かありますか?」
一同「……」
みほ「何もなければ、チームのミーティングの最後に……」
一同「……」
みほ「優花里さんが、みんなへ言いたいことがあるそうです」
優花里「戦車道とは関係ない、私事なんですが」
みほ「特別に認めたのは、練習前に言ったとおり。いいから優花里さん、前へ来て」
優花里「はい。……皆さん、今回は大変申し訳ありませんでした」
一同「……」
優花里「そして、私のような者をあんなに心配してくださって、ありがとうございました」
一同「……」
みほ「優花里さんは、あの日以降のことを、みんなへ報告したいそうです」
華「あの日、御両親はびっくりされたでしょうね」
優花里「はい。自分たちの娘が、涙でグシャグシャになって帰ってきたんですから」
一同「……」
優花里「皆さんが送ってきてくださったのは、気が付いてたみたいでした」
沙織「あれだけ騒いでれば、聞こえちゃうよね」
麻子「騒いでたのは主に沙織だが」
優花里「自分たちの子供が、泣きはらした顔で、友達みんなに送ってもらって帰宅した」
一同「……」
優花里「そんな状況を見て、何か異常な事態が起こってると、すぐ分かったようです」
一同「……」
94 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 22:04:53.75 ID:2JrnA4b70
優花里「私は、今回のことを全部、話しました」
沙織「ほんとに、話したんだ……」
優花里「はい。全部」
一同「……」
優花里「両親は、かなりショックを受けてました」
麻子「無理もない」
優花里「だけど、父も母も、全然怒りませんでした」
一同「……」
優花里「娘は深く反省してると、理解してもらえたみたいです」
華「やはり、素敵なお父様とお母様です」
優花里「でも……」
一同「……」
優花里「私が、両親の信頼を裏切ったことは確かです」
一同「……」
優花里「それは、これから元どおりの生活を着実に続けて、回復するしかないと思ってます」
みほ「うん、そうだね。優花里さん」
優花里「あと、父と母は、呆れるほど急速に仲直りしました」
一同「……」
優花里「今ではいい年して、バカップルみたいにベタベタしてます」
沙織「……まるで、自分の家族のことみたいに、嬉しいよ」
麻子「ああ。本当にそう思う」
優花里「床屋の経営も、広告の方法やサービス内容を見直すとか、前向きに考えていくそうです」
華「御両親のことも、おうちの御商売のことも、今回がきっかけになったでしょうか」
沙織「間違いないね」
麻子「雨降って地固まる、だ」
95 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 22:09:31.20 ID:2JrnA4b70
みほ「……以上ですか?」
優花里「はい。ミーティング中のお時間を頂いて、ありがとうございました」
みほ「一件落着、だね。優花里さん」
優花里「はい! 皆さん、本っ当にすみませんでした!」
みほ「じゃあ、チームのミーティングを終わります」
一同「お疲れ様でした」
みほ「続いて全体ミーティングを行いますから、格納庫前へ移動してください」
沙織「え? みぽりん?」
華「まだ終わってませんけど」
麻子「話が違うぞ」
優花里「まさか、忘れてるのでは」
みほ「え? 何かあった?」
沙織「とぼけちゃって」
華「なかったことにしようとしても、そうはいきません」
麻子「で、記念すべき初回は、誰なんだ?」
優花里「誰が一番、活躍しましたか?」
みほ「もう、まだ言ってるの? そんなの、決められないよぉ……」
沙織「やっぱ、憶えてるじゃん」
華「わたくしたちは、互いに競い合いつつ、戦車道に精進する」
麻子「その結果、各人の練度が上がる」
優花里「最後に、西住殿から褒めて、抱き締めてもらえる」
沙織「良いことづくめのシステムじゃない?」
みほ「……みんな、活躍しました。これで、もういいでしょ?」
96 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 22:11:48.90 ID:2JrnA4b70
沙織「ぎゅっとしてくれるって、約束だったよね……?」
華「今日はそのためだけに、頑張りました……」
麻子「西住さん……私だと言ってほしい」
優花里「あの感触が忘れられません……!」
みほ「みんな、怖いよ……じわじわ近寄ってこないでよぉ……」
華「どうして、決めてくれないのですか……?」
麻子「実は……意外と、優柔不断なのか?」
優花里「期待してたのに……」
みほ「ね、もう諦めて。みんなを比べるなんて、そんなの不可能なんだから」
沙織「それなら、今日は……」
みほ「何?」
沙織「全員でみぽりんを、ぎゅっとしちゃえ!」
みほ「えぇ!?」
華「あら、いいですね」
麻子「賛成」
優花里「了解であります!」
みほ「……じょ、冗談だよね……?」
沙織「みんな、行くよー? せーの……」
一同「わー!!」
みほ「きゃあ! みんなやめてぇ!! 苦しいくるしい」
97 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 22:14:21.99 ID:2JrnA4b70
おりょう「……隊長車のみんなは一体、何しゆうぜよ?」
左衛門佐「奇態だな」
澤「あー、あれはですね……」
カエサル「知ってるのか?」
澤「はい。先輩たちから聞きました」
エルヴィン「何をやってるんだ? アレは」
澤「その日、チームの中で一番頑張った人を、隊長が抱き締めてくれるらしいんです」
宇津木「え、ほんと? 隊長にぎゅっとしてもらえるの? いいなー」
阪口「いいなー」
山郷「“抱かれたい女”No.1だもんねー、隊長」
宇津木「ねー」
大野「隊長って、超可愛いのに、超カッコいいよねー」
阪口「ねー」
丸山「……」
左衛門佐「だが、今のアレは、隊長を皆でいたぶってるようにしか見えないが」
磯辺「早く、全体ミーティングを始めてもらわないと」
澤「今日はその後、車長会議もありますからね」
近藤「キャプテン、私たちもやります?」
磯辺「何をだ?」
佐々木「その日のMVPを、キャプテンがぎゅっと、してくれるんです」
近藤「ちょっと嬉しいかも、ですよ?」
磯辺「勘弁してくれ。お前たちにそんなことをしたら、私は窒息してしまう」
澤「……プフッ」
カエサル「くくく……」
磯辺「あ、笑うなよ。私の身長とこいつらの胸だと、どうしてもそうなるだろ?」
98 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/16(日) 22:17:18.43 ID:2JrnA4b70
河西「キャプテン……」
磯辺「何だ?」
河西「それって何気に、私へひどいこと言ってませんか……?」
山郷「まあまあ」
阪口「どうどう」
河西「あ。な、何よ? みんな、ひっつかないでよ!」
山郷「まあまあ河西さん。同じ学年のよしみで」
阪口「胸のことなんて、気にしなくていいから」
宇津木「みんなで前から、河西さんってカッコいいよねー、って言ってたんだよねー」
大野「ねー」
丸山「……」
河西「ちょ、ちょっと、丸山さんまでどこ触ってるの!?……ひゃあ!」
エルヴィン「……まあ、それにしても……」
澤「何ですか?」
エルヴィン「激闘の連続だった全国大会も、終わった」
カエサル「廃校騒ぎは去ったが、優勝の余韻もまた、去ったな」
左衛門佐「最近やっと、一段落着いた」
澤「はい」
磯辺「日常っていうか、そういうのが……」
澤「戻って、きましたよね」
カエサル「全て世は、ことも無し」
おりょう「学園艦は、今日も平和ぜよ」
終
99 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/16(日) 22:20:37.32 ID:JVpiN4C4o
乙
良かったよ
100 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/16(日) 22:23:39.22 ID:fhP8gGBOo
乙
やさぐれENDじゃなくてよかった
101 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/16(日) 22:34:40.07 ID:mIRHvmCfo
乙でした
102 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/06/17(月) 00:15:10.75 ID:5YFfjADDo
乙!
久々のガルパンSSだったけど、こういうのもなんか良いな。

Entry ⇒ 2013.06.23 | Category ⇒ ガールズ&パンツァー SS | Comments (7) | Trackbacks (0) |
【ガルパン】みほ「……キス……1回だけ……」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 20:47:36.08 ID:gx3oKrbV0
沙織「うひょー! お泊りだー!」
麻子「うるさいぞ沙織」
華「もう夜も遅いですし、みほさんに御迷惑ですよ」
沙織「いーじゃんちょっとくらい。みぽりんだって楽しそうなんだしさ」
みほ「うん。みんなが私の部屋へ泊まりに来てくれて、すっごく嬉しいよ」
華「そうは言っても……」
みほ「大丈夫。隣は階段だし、もう片方の隣は空き部屋だし」
優花里「あ、そういえばここは角部屋だったですね」
みほ「飛んだり跳ねたりしない限り、大丈夫だと思うよ」
麻子「そんな奴はいないけどな」
華「もう寝る仕度してますしね」
みほ「女子高生みたいで楽しい。友達が集まって、お泊りでパーティーするなんて」
麻子「いや、女子高生だから」
みほ「みんなのパジャマ姿、すっごく新鮮」
沙織「さー、パジャマパーティーだー!」
華「沙織さん。はしゃいでないで、お布団敷くのを手伝ってくださいな」
みほ「お布団、人数分なくてごめんね」
優花里「全く無問題であります!」
みほ「雑魚寝で、うまく分け合ってもらうしかないんだけど」
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 20:49:24.84 ID:gx3oKrbV0
沙織「ゆかりん、寝袋持ってきてるでしょ」
優花里「え。武部殿、どうして分かるんですか?」
沙織「そりゃ、ゆかりんのノリを考えれば」
麻子「で、それは迷彩柄だろ」
優花里「うっ、冷泉殿まで。いきなり披露して羨望の的になろうと思ってたのに」
沙織「別に羨ましくないけど」
優花里「あ、何ということを。これはあらゆる天候に耐えるスグレモノで……」
沙織「私はこれからのトークに備えて、お菓子を用意しなくちゃっ」
華「優花里さん、それなら寝袋用にスペースを空けておきましょう」
優花里「恐縮です、五十鈴殿。あ、そっちの隅の方でいいです」
麻子「布団の配置は、大体こんなものか」
華「各人がどう寝るかは、成り行き任せですね」
みほ「部屋が狭くてごめんなさい」
沙織「もー、みぽりん、さっきから謝り過ぎだよ」
みほ「あの、嫌じゃなければ……」
麻子「ん?」
みほ「私のベッドに、もう一人寝られるよ?」
沙織「……」
みほ「私と一緒に寝ることになっちゃうから、嫌じゃなければ、なんだけど」
華「……」
優花里「……」
麻子「……」
みほ「え? みんな、どうしたの? 私、何か変なこと言った?」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 20:52:01.84 ID:gx3oKrbV0
沙織「それは……」
華「それは、遠慮申し上げますわ」
優花里「ここは西住殿の部屋なんですよ?」
沙織「みぽりんは、普段どおりに寝なくちゃ駄目」
麻子「私たちはお邪魔してる立場だ」
みほ「……みんな……」
優花里「何ですか?」
華「どうしましたか」
沙織「何ウルウルしてるの?」
みほ「……気を遣ってくれて、ありがとう……」
優花里「気を遣ってくださってるのは、西住殿の方じゃないですか」
華「いろいろと心配りが足りないかもしれないのは、わたくしたちです」
麻子「私は相変わらず、気を遣えてないんだろうが」
沙織「さー、そんなことはいいから、全員真ん中に集まれー!」
みほ「……でも、さっきのは一体、何だったんだろ?」
~~~~~~~~~~
優花里「冷泉殿、そっちのお菓子取ってもらえませんか」
麻子「これか。幾つ欲しい?」
優花里「じゃあ二つください」
みほ「このお菓子おいしいな。初めて食べる味」
華「うわ、これ甘いですねえ」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 20:54:17.51 ID:gx3oKrbV0
麻子「五十鈴さんは、甘いものは駄目か」
華「好きですけど、余り甘いのはちょっと……」
優花里「これですね。さっき食べましたけど、確かにすごく甘いです」
みほ「華さんは、塩味とかの方が好きなの?」
華「甘いものと同じくらい好きです。辛いのも大丈夫ですよ」
優花里「このすごく甘いもの、誰のチョイスでしたっけ」
みほ「私……」
麻子「西住さんだったか」
みほ「このくらいの甘さ、普通だと思ったけどなあ」
華「逆にみほさんは、塩味や辛いものは……」
みほ「辛いものは駄目。食べられないよ」
優花里「なるほど」
麻子「こういう時に、それぞれの好みが分かる」
華「面白いですね」
沙織「……さて」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 20:56:32.96 ID:gx3oKrbV0
みほ「何? 沙織さん」
優花里「改まって、どうしました?」
沙織「お泊り、パジャマパーティーと言えば、ガールズトークだよね」
華「ガールズトークという言葉、聞いたことがあります」
沙織「で、ガールズトークといえば、恋バナだよね」
みほ「こいばな?」
麻子「恋の話、恋愛話。略して恋バナらしい」
華「麻子さんは何でも知ってますね」
麻子「沙織の知り合いを長くやってると、こういうことまで憶えてしまう」
沙織「何それ。とにかく全員、お泊りでこうやって集まってるんだし」
みほ「うん」
沙織「今夜のトークで語り合うのは、恋バナしかないでしょー!」
みほ「……」
華「……」
優花里「……」
沙織「あ、あれ?」
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 20:58:27.93 ID:gx3oKrbV0
麻子「沙織」
沙織「何?」
麻子「学園艦にいる私たちに、そういう話題を期待するのか」
沙織「そんなこと言ったって、分からないよ?」
麻子「何が」
沙織「実は、我がチームに彼氏持ちがいましたー!なんてことになったら、大ニュースじゃん?」
麻子「みんなの今の沈黙で、分かりそうなものだ」
沙織「でも、彼氏がいる子って、どのクラスにも大抵いるよね」
優花里「私のクラスにもいます。話を詳しく聞いたことはありませんけど」
沙織「ほら見なよ。みんなに訊くだけ訊いてみても、いいんじゃない?」
麻子「好きにしろ」
沙織「じゃあ……今、彼氏がいて、ラブラブな人ー!」
みほ「……」
華「……」
優花里「……」
沙織「あ、あれ?」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:00:25.18 ID:gx3oKrbV0
麻子「それ見ろ」
沙織「……みんな、嘘つかなくていいんだよ?」
みほ「嘘なんて、つくわけないよ」
華「そんな嘘をついたって、追及されたらすぐバレます」
優花里「そもそも、嘘をつく必要がないですし」
沙織「……」
麻子「おい。沙織」
沙織「何?」
麻子「そう言う、沙織自身はどうなんだ」
みほ「あ」
華「麻子さん」
優花里「それは、言っては……」
沙織「……」
優花里「あーあ……。武部殿、落ち込んじゃいました」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:02:10.62 ID:gx3oKrbV0
みほ「麻子さん、駄目だよ」
華「こういう話題の時に、沙織さんに訊くのは……」
優花里「それがタブーなのを、冷泉殿が知らないはずありません」
麻子「もちろん知ってる。でも、余りうるさい時はお灸をすえた方がいい」
華「確かに、一人ですごく盛り上がってますけど……今夜の沙織さんは」
沙織「……ふ、ふーんだ。じゃあ、もう一回訊きまーす!」
優花里「お?」
みほ「もう復活した」
華「今回は立ち直りが早いですね」
沙織「質問をちょっと変えまーす!」
麻子「まあ何度訊いても同じだろうが」
沙織「今までに、彼氏がいた人ー!」
みほ「……」
華「……」
優花里「……」
麻子「それ見ろ……ん?」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:04:14.70 ID:gx3oKrbV0
優花里「武部殿が……笑ってます」
華「今までに見たことのない笑みですね」
麻子「正直、気味が悪い」
沙織「……ふっふっふ……」
みほ「……」
沙織「見たぞ、みぽりん……」
みほ「……え……? な、何を……?」
沙織「その手がちょっと、動くのを……」
みほ「……」
沙織「嘘をつかない、嘘をつけない性格……さすが、私たちの信頼する隊長だよね」
優花里「西住殿……!」
麻子「思わず、手を挙げそうになってしまったのか」
みほ「……」
華「と、いうことは……」
麻子「昔、彼氏がいたんだな。西住さんに」
華「こんなに可愛らしいかたですから、全然、不思議ではありませんけど……」
優花里「今、問題なのは……」
麻子「今夜の沙織に、格好のエサを与えてしまったことだ」
沙織「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ。みぽりん……」
みほ「……な……何……?」
沙織「どうしたの? 何をそんなに怯えてるの?」
みほ「……だって……」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:06:33.38 ID:gx3oKrbV0
華「この状況は……」
優花里「肉食獣に追い詰められた、小動物も同然です……」
沙織「ね、みぽりん。これから、私たちの訊くことに……」
みほ「……」
沙織「ほんの少しだけ、答えてくれないかなあ……?」
麻子「“私たち”と言っても、どうせ訊くのは沙織だけだが」
沙織「悪いようにはしないから、ね?」
みほ「……」
華「“悪いようにはしない”というのは……」
優花里「悪いようにする時のセリフですね」
麻子「どこかの漫画家も、そんなことを書いてたな」
沙織「それで? いつだったの?」
みほ「……中2の時」
沙織「前にいた学校って、中高一貫の女子校じゃなかったっけ?」
みほ「お姉ちゃんは中学から黒森峰だったけど、お母さんが“みほには外の世界も見せる”とか言って……」
沙織「みぽりんは違ったのね」
みほ「中学までは、普通の学校に通った。近所にある公立の学校で……」
沙織「じゃ、もちろん共学だよね」
みほ「うん。戦車道の備品や施設がないから、それはずっと、うちでやってて……」
沙織「その彼は、同じクラスの男子? それとも先輩?」
みほ「……同じクラス……」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:10:42.16 ID:gx3oKrbV0
華「みほさんが、詳しく話し始めてしまいました」
麻子「やはり西住さんは、訊かれたら、素直に答えるしかない人なんだな」
優花里「さっき武部殿が言ったとおりですね。演技や駆け引きをするのは試合の時、対戦相手にだけです」
華「みほさんは、学校や戦車道の方に話をそらそうとしたみたいですけど……」
麻子「沙織には無駄な抵抗だった。あいつは、こういう話題だとブレないから」
沙織「で? で?」
みほ「……何?」
沙織「どうだった?」
みほ「どうだった、って……何が?」
沙織「何が、って? 決まってんでしょうが。ああ?」
優花里「……武部殿がヤバいです。もはや別人格です」
華「沙織さんは、何を訊いているんでしょうか」
麻子「具体的な行為だろう。恋人同士がするような」
優花里「いきなりですね。怖いくらいに」
華「こういう場合、どうしたらいいんでしょう」
麻子「分からない。こんなモードの沙織は初めて見る」
華「……沙織さん」
沙織「何?」
華「思ったんですけど」
沙織「だから何よ、華」
華「お話の順序が違うんじゃないでしょうか」
沙織「順序?」
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:13:05.83 ID:gx3oKrbV0
華「はい。こういう場合、まず相手がどんなかただったのかを訊いて……」
麻子「そういう基本の情報を知ってから、具体的な行動について訊く」
華「ええ。そうすればもっとお話が分かりやすくなると思います」
優花里「確かにその方が、いろいろイメージしやすいですね」
沙織「ふーん。でも結局、何をやったかは訊くんでしょ?」
華「……それは……」
麻子「……話の流れ次第だが……」
沙織「何よ、華も麻子も。急に歯切れが悪くなって」
華「……」
麻子「……」
沙織「どうせ訊くんだったら、早い方がいいじゃん?」
華「……うまく諫めた積もりだったんですけど」
麻子「厄介なことに、今夜の沙織は頭のキレも、普段と少し違うようだ」
優花里「得意分野だからですかね。“自称”みたいですが」
沙織「ほんで? どうなのよ、みぽりん?」
みほ「……言わなきゃ駄目?」
華「みほさん、嫌なら話さなくてもいいんですよ?」
麻子「今の沙織は、酔っ払いみたいなものだからな」
沙織「二人とも、さっきから素直じゃないね。ホントは聞きたいくせに」
華「……」
麻子「……」
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:15:19.38 ID:gx3oKrbV0
沙織「華も麻子も、興味津々の顔してるじゃん」
華「それは……」
麻子「興味がないと言えば嘘になるが」
沙織「でしょ?」
優花里「冷泉殿が……こう言っては失礼ですけど、意外です」
麻子「小説で読んだことのある行為を、実際にしたかもしれない人が、目の前にいる」
優花里「はい」
麻子「その話をしてくれるんだったら、聞かない理由がない」
優花里「なるほど」
みほ「……何だか……」
華「どうしました?」
みほ「……だんだん……思い出してきちゃったな……」
沙織「お。いいぞみぽりん、おねーさんに話してごらん?」
優花里「おねーさん?」
沙織「何をしたのかな? その彼と?」
みほ「何、って……?」
沙織「デートは当たり前だよね。で、その時に手をつなぐ」
みほ「……」
沙織「そして、キス。それとも、もっと先まで?」
みほ「……」
沙織「これ以上、私に言わせる気?」
華「沙織さんが勝手に言っているのでは」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:17:49.94 ID:gx3oKrbV0
みほ「……それは……やっぱり……」
沙織「うん?」
みほ「付き合ってたわけだし……」
沙織「……奥さん聞きました?」
優花里「誰が奥さんですか」
みほ「うー……恥ずかしいよぉ……」
沙織「でも今、みぽりんの顔、ニヤケてるよ?」
みほ「……」
優花里「あ、笑うのを引っ込めた」
華「だけど、どうしても微笑んでしまっています」
麻子「だから、何だか歯が痛い時みたいな顔になってるな」
みほ「……ス……」
沙・華・優・麻「え?」
みほ「……キス……1回だけ……」
沙・華・優・麻「おお~」
みほ「やっぱり、恥ずかしいよぉ……」
沙織「……ね、キスって……」
みほ「……何?」
沙織「どんな感じなの……?」
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:19:58.76 ID:gx3oKrbV0
みほ「どんな感じ、って……」
華「感想ですよ、みほさん」
みほ「それは……その……唇同士が触れ合う……」
麻子「西住さん、それは感想じゃなくて事実だ」
みほ「……あ、そうか。えーと……」
沙織「うん」
みほ「唇って、温かくて、柔らかいんだなあ、って……」
沙・華・優・麻「……」
みほ「それで、ガムとか噛んだ後だったのかな……ミントの味がした」
沙・華・優・麻「味!」
みほ「うわ、びっくりした」
沙織「ね、それって……抱き合ったりした時?」
優花里「映画とかで見ます。そういうシーン」
みほ「ううん、そうじゃなかった……私の顔に、手を伸ばして……」
沙・華・優・麻「……」
みほ「顔、向けさせて……もう、私、何話してるんだろ」
沙・華・優・麻「いいから続けて!」
みほ「……みんな、どうしたの?」
沙織「それで? 彼が、顔を向けさせて?」
みほ「そしたら、向こうの顔が近づいてきて……」
沙織「……」
みほ「私、何となく目、閉じちゃって……」
優花里「……」
みほ「……そのまま……」
麻子「……」
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:21:46.70 ID:gx3oKrbV0
華「……すごく……生々しいです……」
優花里「……何だか、ムズムズしますね」
麻子「ああ。何がムズムズするのか、自分でも分からないが」
優花里「そこらへんを走り回りたい気分です!」
沙織「お酒飲みたいわ。私は」
麻子「飲んだことあるのか?」
沙織「まさか」
優花里「でも、大人がお酒飲む気持ちが、分かるような気がしますね」
華「“飲まなきゃやってられない”ということですね」
麻子「“シラフで聞いてられるか”だな」
華「だけど御存じのとおり、この学園艦では……」
麻子「酒類に触る人は、納入業者から消費者に至るまで、全員、ライセンスが必要だ」
優花里「何年か前に、隠れて手に入れた生徒が、飲み会を開いて暴れたっていう事件がありました」
華「存じ上げてます。購買免許を持つ大人のかたが関係したとか。艦史の汚点といわれていますね」
沙織「お酒無しで、こんな話聞かなくちゃいけないなんて」
優花里「武部殿が訊いたからだと思いますが」
沙織「うおー! 酒だー! 酒持ってこーい!」
麻子「黙れ沙織」
華「元気ですねえ、沙織さんは」
優花里「夜が更けるにつれ、どんどん勢いが増してる気がします」
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:23:54.57 ID:gx3oKrbV0
沙織「ね、ね、みぽりん」
みほ「……何?」
沙織「もー、ビビんないでよ。普通に答えてくれたらいいだけなんだから」
みほ「……」
沙織「彼って、カッコ良かった?」
みほ「あ、そういうことなら、すぐ答えられるよ」
沙織「おおっ、どうだったの?」
みほ「全然、カッコ良くなかったよ」
沙織「えー」
華「どうして、沙織さんがガッカリするんでしょう」
優花里「じゃあ、どんな人だったんですか?」
みほ「何ていうか……モッサリしてる人だった」
華「モッサリ?」
みほ「何をするにも、まず周りを見回してから、みたいな感じ」
沙織「……よく分かんない」
華「落ち着いた雰囲気のかた、ということでしょうか」
みほ「女子からは“オヤジ臭い”とか、はっきり“オジサン”って言われてた」
沙織「みぽりん、そういうのが好みなの?」
みほ「そんなわけじゃないけど」
麻子「クラスに大抵一人は、そういう奴がいるな」
優花里「いますね。何だかやたらと老けてる……いえ、大人っぽい人」
沙織「でも、そういう男って、女子からのウケは微妙だよね。みぽりんには悪いけど」
みほ「うん。人気なんてなかったよ。けど、嫌われてはなかったと思う」
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:26:13.74 ID:gx3oKrbV0
華「みほさん、デートの時なんですけど……」
みほ「何?」
沙織「あれ。華もそんなこと訊くんだ」
華「二人で、どういうお話をしてたんですか?」
沙織「おっ、それは私も興味ある」
麻子「沙織の質問に比べて、かなり趣が違うな」
沙織「いいから。黙って聞きなよ」
優花里「やっぱり、戦車の話ですかっ!?」
沙織「わっ」
麻子「秋山さん、急に身を乗り出すな。びっくりする」
優花里「ものすごく詳しかったりして!? 性能とか、開発時の話とか!?」
華「……優花里さんにも火が点いてしまったでしょうか」
沙織「盛り上がり方が、ゆかりんらしいわ」
優花里「だって、西住殿と付き合うくらいの人なんですから!」
みほ「戦車の話なんて、全然しなかったよ」
優花里「えー」
華「今度は、優花里さんがガッカリしましたか」
優花里「……」
麻子「さっきの沙織より落胆してる」
みほ「そういえば、何を話してたのかな……。忘れちゃった」
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:28:24.32 ID:gx3oKrbV0
沙織「もー、みぽりんの話、聞いてるのツラいんだけど」
麻子「何だ? その反応は」
沙織「だって、これって超ラブラブだったってことじゃない?」
華「そうなんですか?」
沙織「二人きりでいられれば、話の中身なんてどーでもよかったんでしょ?」
みほ「ううん、そうじゃなかった。話の内容が普通過ぎて、憶えてないっていうか」
沙織「ありゃ」
優花里「じゃあ、学校のこととか」
みほ「学校とか、最近読んだ本のこととか……だったかな」
華「優しい人だったんですね。そのかたは」
みほ「え?」
華「気を遣っていらしたのではないでしょうか」
優花里「どういうことです?」
華「みほさんは中学の時、おうちのことで忙しかったのでは」
みほ「戦車道っていう意味? うん。私、どの部にも入ってなかったくらいだし」
沙織「中学で、部活は強制?」
みほ「私は特別に免除されてたの。家の事情ってことで」
優花里「理解のある学校ですね」
華「戦車道へ力を入れている土地柄がよく出ています」
優花里「演習三昧だったんですか?」
みほ「戦車へ乗ったり、整備をしたりで、ほとんど毎日、戦車道をやってた」
優花里「……おお……」
沙織「ゆかりん。“羨望”ってのは、今のゆかりんみたいなことをいうんだよ?」
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:30:40.23 ID:gx3oKrbV0
華「みほさんは、戦車道一色ともいえるような毎日だったのですね」
みほ「うん」
華「だからそのかたは気を遣って、そういうお話をしなかったのでは」
みほ「……そう言われてみれば、そんな感じだったのかな」
麻子「“戦車漬け”状態の相手に、自分といる時まで戦車の話をさせることはない、ということか」
みほ「そういえば、付き合ってたことは、お母さんに全然バレなかったんだけど……」
沙織「もしバレたら、超大変なことになってたの?」
みほ「うん、多分……。でもそうならなかったのは、相手が、気を遣ってくれたからかも」
優花里「と言いますと?」
みほ「会う約束とかは全部、学校にいる時のメールだったの。それ以外の時間には絶対になかった」
華「おうちのかたに分からないよう、連絡方法に心配りをされていたのかもしれませんね」
沙織「ふーん。ルックスはアレだけど、優しい、いいヤツだったってこと?」
みほ「そう言われれば、なんだけど。優しい人だった、かな……」
沙織「うーむ。これも恋の、一つのかたちだよね。外見に囚われない、性格重視の関係」
優花里「でも、その人は絶対、ルックス重視してますよね」
沙織「あ、それはもちろんだけど」
麻子「言うまでもない」
優花里「付き合う相手に選んだのが、ほかでもない西住殿だったんですから」
麻子「で、実際に付き合った」
華「そのかたは、周りの男子から闇討ちやリンチをされたりしませんでした?」
みほ「何それ?」
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:32:59.22 ID:gx3oKrbV0
沙織「あーあ、可愛い子は得だなー。やっぱり女は顔かあ」
麻子「“女は顔”という言い方は、顔以外のことはどうでもいいのかと誤解されるぞ」
みほ「沙織さんは可愛いよ? 私なんかより」
沙織「ね、みぽりん」
みほ「何?」
沙織「彼は、“可愛い”とか“好き”って、たくさん言ってくれた?」
みほ「……」
麻子「西住さんの顔が、一気に赤くなった」
華「これは、返事の内容に期待が持てますね」
優花里「盛り上がってまいりました!」
沙織「そもそも、告白したのはどっちだったの?」
みほ「それは……向こうの方から……」
沙織「直接言われたの? それともラブレターとか?」
みほ「直接……」
沙織「告白の言葉って、何だった?」
みほ「別に、普通だったよ……。好きだから付き合って、とか……」
華「どこかに呼び出されたりしたんですか?」
みほ「ホームルームが終わって、帰ろうとしたら、“西住、ちょっと来て”って……」
優花里「普段から仲がいい人だったんですか?」
みほ「少し話をしたことがあるくらいだった。だから、すごくびっくりした」
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:35:14.57 ID:gx3oKrbV0
沙織「OKの返事って、どうやってしたの?」
みほ「……それがどんなことなのか、よく分からなくて」
華「お付き合いする、ということが?」
みほ「うん。だから、まあいいか、って思って……その場で」
沙織「えー? それはどうなのよ」
麻子「よく分からなければ、返事を保留することもできたと思う」
みほ「……そうだよね。今なら私もそう思う」
優花里「その時は違ったんですか?」
みほ「うん。何だか……」
華「何でしょう」
みほ「私……何だかその時、嬉しかったの」
沙織「嬉しかった……」
華「好き、って言われたことが?」
みほ「……うん」
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:37:13.24 ID:gx3oKrbV0
沙織「彼は、“可愛い”って言ってくれた?」
みほ「……それは……」
華「みほさん、もう、首筋まで真っ赤です」
優花里「思い出してるんでしょうね」
みほ「訊いたことが、あって……」
沙織「何て?」
みほ「“どうして私を、好きになったの?”って」
沙織「うん」
みほ「そしたら、“西住は可愛いから”って……」
沙織「……」
みほ「“西住が可愛いから、好きなんだ”って……言ってくれた……」
華「あらあら、ごちそうさま」
優花里「ヒューヒュー!」
麻子「微笑ましいとはこのことか」
華「こちらの顔まで、ほころんでしまいます」
優花里「ニヤニヤが止まりません!」
みほ「ううー……もうこんな話、やめようよぉ……」
華「微笑みながら言っても、説得力がありませんよ?」
みほ「……」
麻子「また、歯が痛い時の表情になった」
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:39:08.24 ID:gx3oKrbV0
沙織「………………………………………………」
優花里「武部殿?」
華「どうしました? ぷるぷる震えて」
麻子「どこか具合でも悪いのか」
みほ「さっき晩御飯、食べ過ぎたのかな」
沙織「あーもー! いーないーなー!! このー!!」
優花里「うわ。爆発した」
麻子「叫ぶな沙織。近所迷惑だ」
沙織「あたしも言われたいー!」
優花里「何をですか?」
沙織「“好き”ってー!」
華「“可愛い”は?」
沙織「それもー!」
みほ「私、沙織さん好きだよ?」
優花里「武部殿は可愛いと思います!」
華「わたくしも、沙織さんが大好きです」
麻子「沙織可愛いよ沙織」
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:41:11.02 ID:gx3oKrbV0
沙織「………………………………………………」
華「また、どうかしましたか?」
優花里「何だか、不服みたいですが」
みほ「やっぱり、1回言ったくらいだと……」
優花里「足りないんですかね」
華「では、一人につき……」
麻子「あと3回くらい言ってみるか」
沙織「うるさーい! 黙れー! みんなの意地悪ー!」
優花里「うわ。また爆発した」
沙織「もー、わざとやってるんでしょー!」
みほ「やっぱり、分かっちゃったか」
優花里「そりゃ分かりますよ」
沙織「あたしもみぽりんみたいに、男に言われたいー!」
華「そういうことですよね」
麻子「沙織が考えそうなことといったら、それ以外にないからな」
沙織「何よ、みんなであたしをイジメて……泣くぞー!」
みほ「でも、沙織さん」
沙織「……何よー」
27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:43:25.27 ID:gx3oKrbV0
みほ「さっきのは嘘じゃないよ?」
華「皆さん、可愛い沙織さんが大好きなんですよ」
優花里「我がチームのアイドルですから、武部殿は」
沙織「それは……気持ちは嬉しいけどさ」
麻子「私たちじゃ不満か?」
沙織「大体、みんなどうして、みぽりんの話をそんな余裕で聞いてられるの?」
優花里「どういうことです?」
沙織「みんなも、あたしみたいに羨ましがれー!」
華「そう言われましても」
沙織「女子なら、こういう経験、自分もしたいって思うはずだよ! 絶対!!」
優花里「それはそうなんでしょうけど」
華「でも、いくら羨ましがっても……」
優花里「相手があること、ですからねえ」
華「自分だけが幾ら力んでも、どうにもなりませんし」
優花里「西住殿みたいな美少女なら、いざ知らず」
麻子「人にはできることと、できないことがある」
沙織「はぁ? どうして悟っちゃったみたいなこと言ってんの? 今から諦めてどうすんのよ!」
優花里「だって、ねえ?」
華「それは、やっぱり?」
麻子「ま、そういうことだ」
沙織「何よみんなヘラヘラして! あたしが一人でアツくなっててバカみたいじゃん!」
麻子「今頃、気付いたのか」
沙織「何だと? 麻子?」
みほ「まあまあ」
28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:45:18.91 ID:gx3oKrbV0
華「沙織さん」
沙織「何よ」
華「わたくしだって、興味が全くないわけではありません」
沙織「おお! 華は分かってくれるか!」
華「だから、みほさんのお話を聞いて、あることに気付きました」
沙織「あること?」
華「みほさん」
みほ「何? 華さん」
華「男女の機微について、是非、経験者であるみほさんにうかがいたいんです」
みほ「そんな……」
華「今から申し上げることに、怒らないでくださいね」
みほ「え、何……? 私が華さんに怒るなんて、そんなことしないよ」
華「みほさんの、今のお話には……」
みほ「うん」
華「“そういえば”や“そう言われてみれば”という言葉が、多い気がしました」
みほ「……」
華「これは、どうしてなんでしょう」
みほ「……」
29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:47:21.99 ID:gx3oKrbV0
優花里「……五十鈴殿」
華「はい」
優花里「……実は、私も……」
沙織「……ゆかりんも?」
優花里「はい。……武部殿も、ですか?」
沙織「うん……。何でみぽりんは、そんなこと何回も言うのか……」
麻子「やっぱり、気付くし、気になるな」
華「麻子さんも……」
みほ「……それは……」
沙織「何?」
みほ「私、分かるよ」
優花里「何がです?」
みほ「みんなの、言ってること」
華「……」
みほ「“言われてみれば”なんて言っちゃうのって、こう話してるのと同じだと思う」
優花里「……」
みほ「“本当は、それを気にしてなかった。自分の心の中で、大きなことじゃなかった”って」
沙織「……」
みほ「普段の話だったら、よく使う言葉だよね。でも……」
華「……」
みほ「私がそれを言ったのは、昔付き合ってた人のことで、だよね……」
30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:49:39.92 ID:gx3oKrbV0
優花里「何だか、話の雲行きが……」
麻子「妙な具合になってきた」
沙織「今までは、明るい恋バナだったのに」
華「ごめんなさい……。わたくしが、おかしなことを言ったせいで……」
優花里「五十鈴殿、それはちょっと違うと思います」
沙織「うん。みんな、華と同じこと感じてたみたいじゃん」
優花里「五十鈴殿が言わなかったら、ほかの誰かが言ってたかもしれません」
麻子「それに、西住さんの話しぶりは、何か変だった」
沙織「話しぶりが、変?」
麻子「恋愛経験などない私が、こんなことを言うのはおこがましいが」
華「麻子さん、そういうことはお互い、言いっこなしにしましょう」
麻子「西住さんは、昔の彼氏について語ってるのに、屈託がなさ過ぎると思った」
優花里「昔の彼氏、元カレ……つまり、今はもう、別れてしまった男性ということですからね」
沙織「そうか。別れる時、修羅場とか、あったかもしれないんだよね」
麻子「西住さんにとって、彼氏とのことは、思い出したくない出来事だという可能性もあった」
沙織「麻子? ひょっとして、私がみぽりんへいろいろ訊いたこと、怒ってるの?」
麻子「いや、そうじゃない」
華「わたくしたちだって、調子に乗って、みほさんを質問責めにしてしまいました」
麻子「沙織のしたことは、確かに、褒められたものじゃないが……」
優花里「私たちも、同じですよね」
31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:51:53.62 ID:gx3oKrbV0
みほ「みんな、気にしないで。私、昔のことはもういいの」
沙織「みぽりん、最後に修羅場とかなかったの?」
麻子「おい沙織、まだそんなことを訊くのか」
みほ「麻子さん。私、平気だよ」
麻子「いいのか? 西住さん」
みほ「一旦話し始めたんだから、訊かれたことにはちゃんと答えるよ」
沙織「こんなに明るく話せるんだから、修羅場なんて、なかったんだろうけど」
みほ「しゅらば、っていうのがどんなことか知らないけど、その人と、最後は……」
沙織「……」
みほ「何となく会わないようになって、メールとかもしないようになっちゃったの」
優花里「いわゆる、“自然消滅”ということですか」
みほ「クラスが同じの、2年の時に付き合い始めて……」
沙織「うん」
みほ「でも、3年になったら別々のクラスになっちゃって……」
華「はい」
みほ「会うのも、メールとかも減っていって……そのうち、お互い、受験で忙しくなって」
優花里「そのまま、卒業……?」
みほ「うん……」
華「……」
32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:54:16.97 ID:gx3oKrbV0
沙織「……何だか、よく分かんない」
優花里「……」
沙織「ていうか、わけ分かんない。どういうこと?」
みほ「……」
沙織「“そういえば”とか、“自然消滅”とか」
みほ「……」
沙織「ね、みぽりん。はっきり訊いていい?」
麻子「もう、そのくらいにしておけ。沙織」
沙織「これで最後だよ。最後の質問で、一番肝心なことを訊きたいんだけど」
みほ「……」
沙織「一言で、はっきり訊いてあげる。一発で終わらせてあげるわ」
優花里「何だか、他校が私たちに対して言ってそうなセリフですが」
沙織「みぽりん」
みほ「……何?」
沙織「みぽりんは、彼と“付き合ってた”って言ってるよね」
みほ「うん……」
沙織「でも、本当に“付き合ってた”の? 彼のこと、本当に好きだったの?」
みほ「……」
33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:56:17.14 ID:gx3oKrbV0
華「……」
優花里「……」
麻子「……これか」
華「これ、だったんですね……」
優花里「確かに、西住殿の話には、これが決定的に欠けてました」
華「みほさんが、そのかたについてどう思っていたか。これですね」
優花里「何かを言われて、それをどう感じたか、とかじゃないです」
麻子「心の中で、彼氏がどういう存在だったか、だな」
優花里「西住殿の話から覚えてた、微妙な違和感……」
華「それが今、やっと、沙織さんのお陰で言葉になりました」
麻子「“自称”得意分野なのに、今の頭のキレは、なかなかだったな」
華「さすが……」
優花里「モテ道、武部流……」
沙織「ね? みんな?」
麻子「……」
沙織「みんなの訊きたかったことを、代わりに言ってあげたよ?」
華「……沙織さんが、晴れやかな顔をしています」
優花里「誇らしげな表情ですね」
華「自信に満ち溢れた、いい表情です」
麻子「でも、偉そうで、何だかムカつく顔だな」
優花里「ああいうのを、ドヤ顔っていうらしいですよ」
34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 21:58:58.53 ID:gx3oKrbV0
沙織「みぽりん」
みほ「うん……」
沙織「私、ひどいこと訊いてる?」
みほ「ううん、そんなことない。みんなに言われて、自分でもやっと分かった」
沙織「どうなの?」
みほ「その人のこと、嫌いじゃなかったよ。でも、じゃ好きなのか、っていったら……違った」
華「みほさん……」
みほ「全部、相手からだった。告白も、メールも、会う約束するのも……キスも」
優花里「西住殿……」
みほ「私からは、何もしなかった。向こうは“好き”って言ってくれたけど」
麻子「……」
みほ「私からはそういうこと、何も言ってない……」
華「……」
優花里「……」
麻子「……」
沙織「みぽりん」
みほ「何?」
沙織「みぽりんには悪いけど、私、ちょっと信じらんない」
みほ「……」
35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:01:09.68 ID:gx3oKrbV0
沙織「別に好きじゃなくても、私は何も言わないよ。それは、みぽりんの正直な気持ちだと思うから」
みほ「……」
沙織「でも、そういう相手と、どうしてキスまでしたの?」
みほ「……」
沙織「好きでもない男に、ファーストキス、あげちゃったわけ?」
みほ「……うーん……」
沙織「ファーストキスだったんでしょ?」
みほ「もちろんだよ……」
麻子「おい沙織、いい加減にしろ。本当に怒るぞ」
沙織「麻子、同じ女として分かるでしょ? こう思うのって当然じゃない?」
みほ「……ファーストキスって……」
優花里「何ですか?」
みほ「そんなに、大事なのかな……」
沙織「はぁ? 何ですと?」
優花里「……これは予想外のお答えでした」
沙織「今、全員が心の中でズッコケたんじゃない?」
麻子「……」
沙織「麻子だって、そうでしょ?」
麻子「んー……ま、そうかもしれない」
華「反応に困ってる麻子さん、可愛らしいです」
36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:03:39.63 ID:gx3oKrbV0
みほ「……それが大事だっていわれてるのは、知ってるけど……」
沙織「当ったり前でしょ? 何でも“初めて”は大事なんだよ?」
みほ「でも、どうしてそれが大事なのか、分からない……」
沙織「……あちゃー……」
みほ「……こう考えるのって、変なのかな……?」
沙織「また、みぽりんには悪いけど、言わせてもらうと……」
みほ「……ちょっと、ズレてる……?」
沙織「そういうことね」
みほ「そうなんだ……」
優花里「でも……私は、分かる気がします」
沙織「何? ゆかりん」
優花里「たとえ世間のやり方や考え方がそうでも、それが、自分の理解できないものだったら……」
麻子「従ったり、合わせたりする必要はない、ということか」
華「芯の強い、みほさんらしい考え方です」
沙織「何よなによ何よ、みんなでこの子の味方しちゃって」
麻子「味方したら悪いか?」
沙織「別に、悪いわけじゃないけど」
華「それなら、よろしいじゃありませんか」
優花里「ファーストキスについて、こう考える女の子もいる、ということで」
沙織「むー」
麻子「不満そうだな」
37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:06:08.82 ID:gx3oKrbV0
沙織「仕方ない。この恋愛大明神の武部沙織様が、有難い忠告を授けよう」
みほ「へ?」
優花里「あのー、誰ですか?」
麻子「いきなり芝居がかって、気色悪いな」
華「麻子さん……わたくしたち、何か反応すべきなんでしょうか」
麻子「分からない。今夜の沙織は、今までに見たことのないノリが多過ぎる」
華「わたくしも同じことを思ったんですけど」
麻子「最近の付き合いが多い五十鈴さんなら、この状況を把握できると思ったが」
沙織「コラそこ! 何をごちゃごちゃ言ってるの!」
華「とにかく、そのお告げみたいなものを拝聴しましょうか」
優花里「武部大明神殿、お考えをお聞かせください」
沙織「うむ。よろしい」
優花里「……ノリノリですね」
華「ちょっと面白いかもしれませんね」
麻子「相手してやれば、暇潰しにはなるな」
沙織「さっきからうるさいよあんたたち! マジメに聞く気あんの!?」
優花里「へへーっ。申し訳ありません」
華「失礼いたしました。それで、御忠告は?」
沙織「うむ。この考え方は、危険なのよ」
38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:07:55.98 ID:gx3oKrbV0
みほ「危険?」
華「危ないって、何がでしょう」
沙織「よく考えてみ? この考え方の延長線上に、何があると思う?」
麻子「……ふうん。沙織にしては珍しく、論理的な思考をしたな」
沙織「誰にでも分かることだよ」
麻子「でも、さすがにそこまではいかないと思う」
沙織「どうして?」
麻子「嫌悪感を覚えたり、身の危険を感じたりすれば、そういうことは拒否するだろう」
優花里「……話が見えないんですが」
華「麻子さんは聡明だから、沙織さんの言いたいことをもう察したんですね」
優花里「私にも分かるように説明してもらえませんか?」
沙織「単純に言えば、さ」
優花里「はい」
沙織「“初めて”の大事さが分からないで、どんどん許していっちゃうと……」
麻子「そのうち、最後の一線まで……」
沙織「簡単に男へ越えさせちゃうかもしれない、っていうこと」
優花里「なるほど……」
39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:09:57.62 ID:gx3oKrbV0
麻子「確かに西住さんのガードが甘いことは、否定できないな」
沙織「でしょ? 好きでもない男に、付き合うのをすぐOKしたり、ファーストキスあげちゃったり」
麻子「何かあっても嫌なら拒否すればいいが、前もって、簡単に自分をそんな状況にしない準備も必要だ」
優花里「そのための心構えが必要、ってことですね」
沙織「そのとおり。この考え方のままだと“危険”なのよ」
華「……」
みほ「麻子さん」
麻子「ん?」
みほ「麻子さんが言った、その“最後の一線”って、何?」
麻子「……それは……」
沙織「……」
優花里「……」
沙織「……本日2度目の、心の中ズッコケね」
優花里「……今、全員が心の中で、ズコーって音立てましたよね」
沙織「……うーん……じゃあさ、みぽりん」
みほ「うん」
沙織「こう言えば分かるでしょ? 私たち女子にとって、一番大事な“初めて”だよ」
みほ「……」
40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:11:55.48 ID:gx3oKrbV0
優花里「西住殿?」
みほ「……ごめん……やっぱり、分からない……」
優花里「……西住殿。こんなこと言うのは、すごく失礼ですけど」
みほ「何?」
優花里「まさか、そういうこと自体を、知らないわけじゃないと思うんですが」
華「皆さん」
沙織「どした?」
華「わたくしも、それが何なのか分かりません」
沙織「げげっ」
麻子「五十鈴さんもか」
優花里「うわあ……」
織「ちょっとちょっとちょっと、二人して一体どおゆうことなんだってばってよ」
優花里「武部殿、日本語がおかしいです」
沙織「おかしくならいでかい。こんなことがあって」
優花里「気持ちは分かりますけど、まだかなり普段と違います」
麻子「これは、私でさえ分かることだが」
優花里「私もです。小さい頃から戦車以外に興味のなかった、自分でも分かることです」
42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:13:51.10 ID:gx3oKrbV0
麻子「……でも、二人の共通点を考えれば、この事態を理解できなくもない」
沙織「麻子、説明できるの?」
麻子「ああ。飽くまで推測だが」
優花里「聞かせてください。冷泉殿」
麻子「けど、本人たちを目の前にして言うのも、妙な話だ」
華「わたくしは構いませんよ。自分のことなら、むしろ聞きたいです」
みほ「私も興味あるな。私と華さんとの共通点なんて、そんなのあるの?」
麻子「じゃあ言う。二人の共通点は、いわゆる“お嬢様”ということだ」
沙織「……そうか。片や、華道の家元の娘」
優花里「片や、戦車道の家元の娘」
麻子「その生活様式、考え方や知識は多分、一般とは違ったものだと思う」
優花里「今、思い出したんですが……」
沙織「何?」
優花里「以前、五十鈴殿の御実家へ、みんなでお邪魔したことがありましたよね」
みほ「聖グロリアーナとの親善試合の後だね」
優花里「正直言って、私は、驚きの連続でした」
43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:15:59.84 ID:gx3oKrbV0
麻子「あの時私は、おばあの所へ顔出しに行ったから、いなかったんだが」
優花里「冷泉殿。私が驚いたのはまず、新三郎殿という奉公人のかたがいらっしゃることでした」
沙織「ああ、あのイケメンの人」
華「“イケメン”って、よく聞きますけど、新三郎みたいなのを言うんですか?」
優花里「カッコいい男性ってことです。とにかく、私はあの時“奉公人”っていう人を初めて見ました」
沙織「みぽりん」
みほ「何?」
沙織「みぽりんの実家は? 奉公人っているの?」
みほ「いないけど、お手伝いさんはいるよ」
沙織「……やっぱりいるんだ」
みほ「え、また何か変? 別に変なことじゃないよね?」
沙織「変なんて、そんなわけないじゃん」
みほ「ああ良かった」
沙織「でも、庶民の家には普通、そういうのはいないよ」
みほ「……」
44 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:17:56.65 ID:gx3oKrbV0
優花里「あと、驚いたのはお屋敷の大きさです」
沙織「ね、華」
華「はい」
沙織「あの時私たち、お母さんの部屋をちょっと覗き見しちゃったでしょ?」
華「気になさらないでください」
沙織「ううん、ごめんね、あんなことして。でも、あの部屋の大きさにはたまげたわ」
優花里「私も、あの時は申し訳ありませんでした。で、あのお部屋は一体、どのくらいの広さなんですか?」
華「広さ、ですか? 存じませんけど……あそこは何十畳くらいかしら」
沙織「な、なんじゅうじょう~?」
優花里「もう、数え方が違いますね」
麻子「そんなに広い部屋なのか」
沙織「時代劇の撮影に使えるよ。幕府の偉い人たちが集まって、会議するシーンとか」
優花里「テレビでよく見るみみっちいセットなんか、問題になりません」
沙織「みぽりんの実家も、華んちくらいなの?」
みほ「うちは、もう少し小さかったよ……多分」
45 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:19:38.85 ID:gx3oKrbV0
優花里「五十鈴殿のお屋敷で、さらに衝撃的だったのは」
華「何でしょうか」
優花里「門を入ってから、玄関までが遠いということでした」
麻子「広大な庭が、門と玄関の間にあるということか」
優花里「そうです。門を入った時、私にはお屋敷の玄関がはるか彼方、霞んで見えました」
沙織「これは? みぽりん」
みほ「門と玄関との距離? そんなの気にしたことなかったけど……うちもあのくらいだったかなあ」
沙織「ひえ~っ」
優花里「私の家なんてそもそも、門がありません」
沙織「街なかの家だったら、それが別に珍しくないよね」
優花里「玄関を出たらすぐ道路で、人が歩いてます」
麻子「五十鈴さんの実家、私も行ってみたかった」
華「近いうちにぜひ、いらしてくださいな」
麻子「うん」
華「皆さんも、もう一度」
優花里「ありがとうございます。光栄です」
みほ「ありがとう、華さん」
沙織「誘ってくれるのは、嬉しいけど……」
華「何でしょう」
46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:21:15.76 ID:gx3oKrbV0
沙織「華はお母さんと、完全に仲直りした、ってことでいいのね?」
華「あの時は親子で、皆さんにみっともないところを見せてしまいましたね」
優花里「あれは、私が口を滑らせたせいでした。本当にごめんなさい」
沙織「私たち、変なタイミングでお邪魔しちゃって……」
みほ「華さんだけじゃなくて、おうちのかたにも御迷惑だったよね?」
華「皆さん、それは逆ですわ」
優花里「逆?」
華「わたくしはあの時、あんなことがあったせいで……」
沙織「うん」
華「皆さんを大しておもてなしできなかったのが、心苦しいんです」
みほ「華さん、そんなこと考えなくていいのに」
優花里「すごい気の遣い方をしますね、五十鈴殿は……」
沙織「気の遣い方の格? みたいなの?が、違い過ぎ」
麻子「これこそ、“お嬢様”の特質だと思う」
優花里「そうなんですか?」
沙織「どういう意味?」
47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:23:14.41 ID:gx3oKrbV0
麻子「私たちが今してた会話は、受け取り方によっては、金持ちへの揶揄だ」
沙織「やゆ?」
麻子「からかう、ってことだ」
沙織「ふーん……まあ、そう思われても仕方ないけど」
優花里「家の大きさとか部屋の広さを、庶民の感覚で勝手に、あーだこーだ言ってたわけですからね」
麻子「だけど五十鈴さんはそれ聞いても、鷹揚な態度を全然崩してない」
沙織「おうよう?」
麻子「ゆったりして落ち着きがある、ってことだ」
沙織「もー、さっきから麻子は漢字ばっかり。ひらがなで話してよ」
麻子「何言ってるか、自分で分かってるのか?」
優花里「確かに五十鈴殿は、何を言われても笑顔で聞いてるだけです」
麻子「そして、そんな話をしてる私たちをむしろ、その家に招待してる」
優花里「大らかというか、余裕というか……」
沙織「まねしようとして、できることじゃないよね」
優花里「これが、“育ち”ってやつですか」
沙織「ま、私の親友だから」
麻子「すごいのは五十鈴さんで、沙織じゃないけどな」
沙織「分かってるよ。いちいち言うな」
48 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:25:55.96 ID:gx3oKrbV0
優花里「西住殿についてはどうでしょう」
麻子「西住さんも同じだと思う」
みほ「私が?」
沙織「確かに、みぽりんにもちょっと似た感じはあるかな」
みほ「私が華さんと同じなんて……そんなことないと思うけど」
優花里「でも西住殿には、私みたいな人間にない、落ち着きとか冷静さがあります」
みほ「うーん……よく分からない」
沙織「その雰囲気は、私にはもちろんないし、麻子の落ち着きとも違う種類だよ」
みほ「……私じゃなくて、お姉ちゃんだったら、そういうタイプかもしれないけど」
沙織「みぽりんのお姉さん? 落ち着いてるっていうより、迫力がすごくない?」
華「何回かお目に掛かりましたけど、凛として、威厳に満ちたかたですね」
優花里「あの存在感は半端ないです。西住流第一後継者、マスコミにも出る有名人ですもんね、西住まほ殿は」
みほ「私なんて、お姉ちゃんに比べたら不出来で、ガサツで……」
沙織「みぽりんがガサツだったら、私なんてどうなっちゃうのよ」
みほ「例えば、お姉ちゃんはお母さんのことを、“お母様”ってちゃんと呼んでたの」
沙織「へえ」
みほ「だけど私はどうしても、それができなかった。お姉ちゃんのことだって“お姉様”って言えなかった」
優花里「はあ」
沙織「そう呼ばなきゃ駄目とか、言われてたわけ?」
みほ「うん」
49 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:27:42.75 ID:gx3oKrbV0
沙織「何か……すげー……」
優花里「そういう感想しか、出てきませんよね」
麻子「沙織もそう言われたいか」
沙織「いいかもしんない。私も今度、お姉様とお呼び、って言ってみようかな」
優花里「武部殿には……」
麻子「妹がいる」
沙織「絶対あいつ、抵抗するよ。無理強いしたら面白いかも。小さい頃以来の殴り合いのケンカになるわ」
華「沙織さん、自重してくださいね」
みほ「……あのー、ところで……」
優花里「何ですか?」
みほ「私たち、違う話、してなかったかな」
沙織「え? そうだっけ?」
優花里「話が、脱線してた?」
華「そうだとすれば、そのことすら分からなくなっていましたね」
沙織「どんな話だっけ」
華「……何だったでしょうか」
優花里「……忘れちゃいましたね」
沙織「無理ないよ。華とみぽりんの、話のインパクトがデカ過ぎだったもん」
50 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:30:11.21 ID:gx3oKrbV0
麻子「“最後の一線”とか、“女にとって一番大事な初めて”とは何か、ということだ」
みほ「あっ、そうか」
華「さすが麻子さん」
沙織「そうか……そんな話、してたね」
優花里「脱線しまくった話を元に戻せる人って、本当にすごいと思います」
みほ「こういうのが、“頭がいい”ってことなんだよね。私には絶対できない」
麻子「いや、話を脱線させたのは私だから、責任を感じてた」
華「麻子さんが? そうだったでしょうか」
優花里「あ、思い出しました。もともとは、二人がそのことを分からない、っていう話でした」
沙織「でも、それが何なのか、はっきり言ってなかったんだっけ」
麻子「そのまま私は、二人がそれを分からない背景について、話し始めてしまった」
みほ「で、そっちの方向で話が進んでいったんだね」
沙織「……でも、何となく分かったかな。みぽりんと華が、それを分からない理由」
優花里「やっぱり、生活が全然違うんですね……」
麻子「ああ。生活様式が違えば……」
優花里「知ってることや、考え方も、違ってきますよね」
沙織「だけど、みぽりんも華も、私たちの親友に変わりはないじゃん」
優花里「もちろんです!」
麻子「当然だ」
沙織「麻子に言われるまで、そんなこと全然分からなかったし、気にもならなかった」
優花里「私もです。言われて初めて気付きました」
麻子「今回はたまたま、そういう違いが表に現れるような話題だったんだと思う」
51 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:32:19.82 ID:gx3oKrbV0
みほ「それで……」
沙織「何?」
みほ「結局何なの? “最後の一線”って」
華「わたくしも知りたいです」
沙織「……やっぱり、その話に戻るの?」
みほ「だって、分からないから」
沙織「……」
みほ「沙織さん、“危険”って言ってたでしょ」
華「それが何なのか分からないのは、危険かどうか以前の問題では」
みほ「危険を回避、それとも排除するなら、何なのか分かってないと」
沙織「……ゆかりん。これって……」
優花里「何ですか?」
沙織「さっき、ゆかりんが言ったみたいに、本当にそのこと自体を、知らないってことなの……?」
優花里「……いや、まさか、あり得ないとは思いますが」
沙織「だよね……だって私たち、もう高校生なんだよ?」
麻子「訊けばいい」
優花里「え゛」
沙織「麻子、冗談でしょ?」
麻子「知ってるかどうか、訊くのが一番手っ取り早い」
優花里「それはそうですが……」
沙織「……怖過ぎるんだけど。訊くのも、その返事も」
52 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:38:24.48 ID:gx3oKrbV0
麻子「ああ。今の二人の様子を見れば……」
みほ「?」
華「?」
優花里「……二人とも多分、私たちが何を話してるのか、全然分かってません」
麻子「その様子だと、もう答えは予想どおりといっていい」
沙織「でも、どうやって訊くの?」
麻子「沙織の言ってる意味が分からないが」
沙織「だって……あれとか……どうするのか知ってる?とかって訊くのかな、って……」
麻子「何をごにょごにょ言ってるんだ」
優花里「はっきり、セッ……あの、これを、知ってるか訊くんですね?」
麻子「いや、恐らくその言葉を知らないと思う」
優花里「あ……それもそうですね。この言葉を知ってるくらいなら、その意味も知ってるはずです」
沙織「それなら、作り方を知ってるか、とか?……嫌あもう」
麻子「その訊き方がベストだと思う」
優花里「直球の質問ですね……」
沙織「……もちろん、麻子が訊いてくれるんだよね?」
麻子「まず隗から始めよ、だ」
優花里「冷泉殿、御武運をッ……!」
沙織「その言葉、使うところ間違ってない?」
53 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:40:38.78 ID:gx3oKrbV0
麻子「西住さん。五十鈴さん」
みほ「何?」
華「何でしょう」
麻子「質問に質問で答えて、申し訳ないが」
華「謝ったりしないでください。お話を進めるのに、必要なんでしょう?」
みほ「気にしないで訊いて、麻子さん」
麻子「じゃあ訊く。人間の赤ん坊はどうやって作るか、知ってるか?」
優花里「来ましたッ。ド直球です! 徹甲弾攻撃です!」
沙織「やだああああああもおおおおおお」
優花里「いきなり何つー声を出すんですか、武部殿」
沙織「もう嫌あああ恥ずかしい。どうしてあたしたちこんなこと話してるのよおおお」
麻子「沙織がそれを言うのか」
優花里「元はといえば、武部殿が始めた話題だったのでは」
沙織「こんなにナマな話になるなんて思わなかったよおおお」
麻子「そのナマな話を、聞きたがったくせに」
沙織「もっと恋バナ的なのを聞きたかったのよおお」
優花里「……でもこれは、むしろ」
麻子「ん?」
優花里「いい機会じゃないですか?」
沙織「いい機会?」
54 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:42:40.23 ID:gx3oKrbV0
優花里「生意気なこと言いますけど、もし二人がそれを知らないなら……」
沙織「うん」
優花里「知った方が絶対いいと思います。いろんな意味で。今後のためにも」
沙織「確かにね……」
麻子「同感。知らない方がいいなんてことは、ない」
優花里「とにかく、知ってるかどうか、答えを聞いてみましょう」
麻子「西住さん、五十鈴さん。それを知ってるか?」
みほ「……赤ちゃんの作り方?」
華「そう言われてみれば……」
みほ「詳しくは、知らないかな」
華「赤ちゃんは、“できる”ものではないことは知っています」
みほ「うん。“作る”ものなんだよね」
華「男性と女性とが、何かをするのだと思いますけど……」
みほ「その“何か”って、そういえば、何なんだろうね」
華「裸だったと思います」
みほ「裸で、抱き合ったり?」
華「抱き合うと、赤ちゃんは作れるんでしょうか」
みほ「抱き合うだけで?」
華「わたくしも、詳しくは存じません」
沙織「……」
優花里「……」
55 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:45:20.35 ID:gx3oKrbV0
麻子「……やはり、だ」
沙織「……マジ信じらんない……超あり得ない……」
優花里「いるんですね……高校生で、知らない人」
麻子「今、二人がしてた会話は、率直に言って……」
沙織「小学生レベル。小学生でも高学年の子なら、多分もっとマシだわ」
優花里「はい。二人には失礼ですけど、そうとしか……」
沙織「嘘をついてるようには見えないし」
麻子「こんなことで嘘をつく必要もないからな」
優花里「かえって、知ったかぶりをした方が、まだ分かります」
沙織「大体、これって、私たち自身の体のことでもあるんだよ?」
優花里「一応、私たちはもう……」
麻子「赤ん坊を作れるようになってるはず。あれが来てれば、だが」
沙織「自分の体がそうなった時に、その意味や赤ちゃんのこと、誰かに教わらなかったのかな」
優花里「私は、母から教わりました。だけど、二人は……」
沙織「……よーし」
優花里「武部殿?」
沙織「麻子があんなこと訊いてくれたんだから、今度は、私の番」
麻子「何をする気だ」
56 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:47:01.05 ID:gx3oKrbV0
沙織「みぽりん。華」
みほ「何?」
華「何でしょう」
沙織「私たちの体ってさ……」
華「はい」
みほ「何? 沙織さん」
沙織「すごく言いにくいんだけど……毎月……ああなるよね?」
華「それは、生理のことでしょうか」
沙織「ぐはっ」
麻子「ストレートな返答だな」
優花里「しかも即答です。相手も徹甲弾攻撃です!」
麻子「沙織が、わざわざ遠回しに訊いた意味が全然ない」
みほ「生理がどうかしたの?」
沙織「……」
麻子「沙織がダメージを受けてる」
優花里「突撃を敢行したけど、反撃の方が勝ってましたね」
麻子「あいつが何をしたいのかは分かったが」
優花里「この話題だと、さっき西住殿を問い詰めてた時みたいな勢いは、出ないようです」
麻子「無茶しやがって」
優花里「武部殿、相手の打撃力は強大です。撤退してください」
57 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:48:49.69 ID:gx3oKrbV0
沙織「……ま、まあ、良かったわ。二人とも、もうそれが来てるみたいで」
優花里「お?」
麻子「沙織が立ち直った」
優花里「武部殿、再起動!」
沙織「……さっきの様子で、ひょっとしたらまだなの?って思ったから」
みほ「初潮が?」
沙織「ぐはっ」
優花里「再び徹甲弾攻撃です!」
みほ「私は早かったよ。小4だった」
華「わたくしも小学生の時でした。遠足の最中で」
みほ「あ、私も外出先」
華「でも事前に知識があれば、大したことにはなりませんね」
みほ「うん。周りの人たちも気を遣ってくれたなあ」
沙織「……」
優花里「武部殿、またも沈黙」
麻子「畳み掛けるような反撃だったからな」
沙織「……もー、この子たち……どうしてこんな簡単に話せるのよう」
優花里「こういう話題なのにアケスケですよね」
麻子「天真爛漫、天衣無縫か」
58 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:50:39.34 ID:gx3oKrbV0
沙織「……じゃあ、二人に訊くけどさ」
みほ「何?」
華「何でしょう」
沙織「生理の意味って、どういうもんだと思ってるわけ?」
みほ「それは……私たちの体の中には、子宮っていう赤ちゃんが入る部屋があって……」
沙織「うん」
みほ「そこに、赤ちゃんの寝るお布団が敷いてあるんだけど」
沙織「ふむ」
みほ「いつ赤ちゃんが来てもいいように、月に一回、それを新しく敷き直してるんだって、聞いた」
華「出てくる血は、怪我などのときとは違う、ごく自然なものということですね」
沙織「何だ、ちゃんと知ってるじゃん」
麻子「これについては、正しい知識を持ってるようだな」
優花里「でも、その赤ちゃんをどうやって作るか、ということは……」
沙織「知らないんだね……」
みほ「沙織さん」
沙織「何?」
みほ「それなら、教えてほしいな」
沙織「えっ」
華「わたくしからもお願いします」
沙織「あ、あたしが教えるの!?」
59 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:52:30.32 ID:gx3oKrbV0
華「皆さんの言っていることが、大体、分かってきました」
みほ「“最後の一線”って、そのことなんだね」
華「男性と女性とが何かをすることで、赤ちゃんを作る。その“何か”ですね」
みほ「それを最初にするのが、私たち女の子の“一番大事な初めて”ってことなんでしょ?」
沙織「う、うん……」
優花里「そのとおりです。西住殿、五十鈴殿」
麻子「二人とも、理解が早いな」
みほ「どんなこと、するの?」
華「どのようにすれば、赤ちゃんを作れるんでしょうか」
沙織「……」
麻子「じゃあ、沙織」
沙織「何よ、じゃあ、って……」
麻子「説明して差し上げろ」
沙織「……どうしてあたしなのよう」
麻子「知ってることを話せばいいだけだ」
沙織「そんなの……恥ずかしくてできないよう」
麻子「実地に教えろとは、誰も言ってない」
沙織「なっ……何てこと言うのアンタは! 女同士でそんなこと、するわけないでしょ!」
優花里「相手が男性でも、実地に教わるのは勘弁願いたいですが」
沙織「教わるなら、やっぱイケメンに限るよねー……って、何言わすのよゆかりん!」
優花里「いや、武部殿が勝手に……」
60 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:54:27.59 ID:gx3oKrbV0
沙織「麻子がやってよ……。生物、教えるみたいに」
優花里「あ。それ、名案です。生物の授業っぽい説明にすればいいのでは」
沙織「私だと恥ずかしくて、言葉をボカしたりしながらになっちゃう。そんな説明じゃ意味ないよ」
麻子「確かに、授業みたいなやり方なら、客観的に事実だけを伝えられるかもしれないな」
優花里「説明する方も聞く方も、恥ずかしくないですし」
麻子「分かった。私がやる」
みほ「麻子さんが教えてくれるの?」
華「よろしく御教授ください」
麻子「ヒト、つまり私たち人間の生殖は……」
~~~(説明中)~~~~
麻子「……と、いうことだ」
みほ「……」
華「……」
麻子「説明で、分からないことは?」
みほ「……人間って、そういうことしなくちゃ、赤ちゃんを作れないの?」
麻子「基本的には、そうだ」
華「“試験管ベビー”という言葉を、聞いたことがあります。あれは何でしょうか」
麻子「確かに、試験管内で、赤ん坊のもとを作ることは可能だ」
みほ「……」
麻子「今話したように、必要なのは卵子が受精し、それが子宮内に着床すること」
華「……」
麻子「それさえ行われれば、手段は何でもいいことになる」
61 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:56:18.80 ID:gx3oKrbV0
優花里「卵子と精子を人間の体から取り出して、試験管内で受精させてもいいんですね」
麻子「その受精卵を子宮に入れる。着床すれば妊娠だ」
華「……“試験管ベビー”というのは、そうやって作った赤ちゃんですか」
麻子「だから、男女の性交渉は、絶対に必要なことじゃない」
沙織「逆にそれ、幾らやっても、赤ちゃんを作れない夫婦もいるんだよね」
みほ「赤ちゃんを欲しいのに、何年も授からないっていう話、聞いたことある。どうしてなんだろ」
優花里「理由はいろいろあるみたいですよ。夫婦のどっちかが原因だったり、両方に原因があったり」
麻子「そういう夫婦から卵子と精子をもらって受精卵を作り、奥さんの子宮へそれを戻す」
沙織「普通にしてても妊娠しないから、お医者さんの手で、そういうことするんだよね」
優花里「それが、不妊治療ですね」
みほ「ふーん……」
華「理解しました……」
沙織「はぁー……疲れた……」
麻子「もう、こんな時間か」
優花里「エロ話……いえ、内容の濃い話をすると、あっという間ですね」
みほ「寝る? じゃ、交代で歯、磨く?」
沙織「……こんなこと話したすぐ後に? 麻子なんて絶対無理でしょ」
麻子「私が夜に強いのはもともとだ」
62 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 22:58:13.12 ID:gx3oKrbV0
華「……人間って、そういうこと、するんですね」
沙織「華、まだ言ってるの? もう終わりにしようよ……」
華「わたくしたちも、するんでしょうか」
優花里「将来、結婚すればそうなりますね」
沙織「結婚の前にする人もいるけどね。ていうか、それがほとんど?」
華「どんな感じなのかしら……」
沙織「どんな感じ、って……」
麻子「五十鈴さんは……もともとの疑問は、人間の生殖についてだったが」
優花里「関心が、その行為自体に移ったんでしょうか」
沙織「イカン。親友を、性に目覚めさせてしまった」
麻子「だが、おぞましいとかの感想を持たなくて、良かったともいえる」
沙織「まあね……みぽりんも別に、ショックを受けたりしてないみたいだし」
優花里「私は初めて聞いた時、かなり動揺しましたけど……。何日も気分悪かったです」
みほ「だって、誰でもすることなんでしょ?」
麻子「ああ。私たちの親も、だ」
優花里「うぐ。それです。私はその話が、すごく苦手なんです」
みほ「私、麻子さんの説明聞いて、そのことを一番最初に思った」
優花里「あう。西住殿、お願いですから“そのこと”の中身を言わないでください」
みほ「私は、親がそういうことをしたから、生まれたんだ、って」
優花里「ぐああああ。許してください。自分の両親で想像してしまいます」
みほ「でも、親の話なんて、麻子さんに悪いから……」
優花里「うががが。私には悪くないんでしょうか。あんまりです」
みほ「だから今、麻子さんが“私たちの親も”って言って、ちょっとびっくりした」
63 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 23:00:15.55 ID:gx3oKrbV0
沙織「麻子なら大丈夫だよ。みぽりん」
麻子「西住さん、気にしないでほしい」
華「私たちが今いるのは、親が、そういうことをした結果……」
沙織「親の親も、そのもっと前も、ね」
麻子「今、自分の親がいようといまいと、このことに変わりはない」
みほ「うん。そうだね、麻子さん」
優花里「……」
沙織「ゆかりんがグッタリしてる」
麻子「さっきから一人で悶え苦しんでたが」
優花里「……いえ、大丈夫です……見苦しくてすみません」
華「優花里さん……顔、真っ赤ですよ」
優花里「え……そうですか?」
沙織「うん」
優花里「私は今、皆さんの顔がそうだって、言おうとしてたんですが……」
沙織「……」
華「……」
麻子「……まあ、こんな話をした後だから」
64 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 23:01:32.98 ID:gx3oKrbV0
優花里「……何だか……暑いですね……」
沙織「うん……」
華「……どうして、なんでしょうね……」
優花里「……もう、脱いじゃっていいですか……?」
沙織「やめてよ……これ以上、ナマな雰囲気、作らないでよ……」
みほ「え? 暑い? エアコンのスイッチ入れる?」
沙織「ううん……そうじゃなくて……」
華「みほさんは、どうして……」
優花里「平然と、してるんでしょうね……」
麻子「恋愛感情がなかったとはいえ、男と、キスまでした経験が……」
優花里「余裕を、生み出してるんでしょうか……」
沙織「もう……寝る……?」
麻子「……おい、沙織」
沙織「……何?」
麻子「寝てる間に、私を襲うなよ」
66 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 23:03:49.46 ID:gx3oKrbV0
沙織「なっ」
麻子「今夜の沙織なら、やりかねない」
沙織「ななな、何言ってんの!?」
麻子「もう女が相手でもいいや、とか考えそうだ」
沙織「どうしてあたしがそんなことすんの! さっきから気持ち悪いことばっかり言って! バーカバーカ!」
麻子「危ない、枕を投げるな。ほら西住さんの顔面に当たった」
沙織「麻子がよけるからでしょ! よけるなアホ! 大人しく当たってろ!」
みほ「あ痛たー」
沙織「みぽりんごめんね」
みほ「ううん、大丈夫」
沙織「……一緒に寝るんだったら……」
優花里「え? 武部殿?」
沙織「ねえ……みぽりん……」
みほ「何?」
沙織「みぽりんの、ベッドに……」
みほ「うん」
沙織「もう一人……寝られるんだよね……?」
優花里「ちょっと待ったァァ!」
67 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 23:05:42.52 ID:gx3oKrbV0
華「抜け駆けは許されません!」
麻子「気持ち悪いことなんじゃ、なかったのか?」
沙織「ああ? 文句あるの? 早い者勝ちでしょ!?」
みほ「何? 何? 急にどうしたの? みんな?」
優花里「暗黙の了解だったはずです! 武部殿!」
麻子「全員、自重してたのが分からないとはな」
沙織「何よ、みぽりんと一緒に寝るのは、あたしよ!」
華「こうなったら、わたくしが身を挺して、みほさんを守らないと……!」
優花里「お言葉ですが、西住殿は誰にも渡しません!」
みほ「みんな、目が怖いよぉ……」
麻子「床で雑魚寝より、ベッドで西住さんを抱いて寝た方が、安眠できるに決まってるからな」
沙織「は? それはあんたの本音でしょ? 麻子?」
華「お下劣な動機ですわ」
優花里「考えてることは全員、同じなんじゃないですか?」
沙織「ゆかりんは、自分の寝袋持ってきてるんだから退きなよ」
優花里「雑魚寝スペースが一人分空くことに、変わりはありませんけど?」
華「スペースのことでいえば、一番大柄なわたくしが、ベッドへ行くのが最善です」
麻子「どいつもこいつも詭弁ばかりだ」
みほ「みんな、ベッドに寝るのはいい、って言ってたんじゃ……」
68 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/04/05(金) 23:07:02.14 ID:gx3oKrbV0
麻子「ここは、平等に決めよう」
華「それがよろしいかと」
優花里「望むところです」
沙織「ふん、仕方ないね。勝ち抜き戦にする?」
華「いえ、一人が勝つまで、何回でもやりましょう」
優花里「賛成です。全員を一度に、まとめて倒せば……」
麻子「文句無しの、完全勝者ってわけだ」
沙織「了解!」
華「勝負です!」
優花里「絶対負けません!」
麻子「束になってかかってこい」
みほ「何でこうなっちゃうの……?」
沙織「それじゃあ、いくよっ!?」
沙・華・優・麻「最初は、グー!!」
みほ「ちょっと、みんなぁ……」
沙・華・優・麻「じゃーん、けーん……!!」
終
69 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/05(金) 23:07:33.37 ID:B3av23vHo
乙
73 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/05(金) 23:51:20.36 ID:3CIZFoEEo
乙
実際のガールズトークってもっと生々しいんだろうなぁ
74 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/04/06(土) 00:22:26.64 ID:TRhWUFAK0
皆さん、レスありがとうございます。
ガールズトークという設定の都合上、さおりんに、本編とは別人かと思えるくらいに
空気の読めない子になってもらいました。
それに対して、秋山殿には割りと常識的な、ツッコミ役になってもらいました。
ガルパンは本編でみんなが満足しているからか、SSが少ないですよね。
機会があれば、バレー部やⅢ突のメンバーをもっと喋らせるようなものを書いてみたいです。
76 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/04/07(日) 19:21:23.23 ID:Qk0p+dKt0
面白かった!乙!!

Entry ⇒ 2013.05.20 | Category ⇒ ガールズ&パンツァー SS | Comments (23) | Trackbacks (0) |
沙織「沙織と!」麻子「麻子の~」二人「「なんでも相談室~」」

1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:18:32.19 ID:8z+//u530
――――大洗女子学園:戦車倉庫にて
麻子「……ってなんだこれ?」
沙織「もー麻子聞いてなかったの?昨日会長さんが来て『空き時間を使ってチームの皆の心のケアをするように』って言ってきたから、こうして戦車倉庫の中に相談室を作ったんじゃん」
麻子「そうだったか……?」
沙織「寝てて聞いてなかったんでしょ?『どうせなら全国大会2連覇して学園艦存続を盤石なものにしたい』って言ってたじゃない?」
2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:24:30.12 ID:8z+//u530
沙織「生徒会の人達、自分達が卒業した後のことも考えてくれてたんだね……ほら、麻子もしゃきっとして!みぽりん達だって別なお手伝いしてるんだから、私達も相談役頑張らないと!」
麻子「今日は戦車道の練習はいいのか?」
沙織「Ⅳ号は今自動車部にオーバーホールしてもらってるからね~筋トレくらいなら出来るんだろうけど……」
麻子「……わかった、なら頑張ろう。筋トレよりは疲れずに済みそうだ」
沙織「ん~でもどんな相談が来るのかな?戦車のことはよくわからないけど、恋愛関係ならどんと来いだよ!」
3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:29:35.23 ID:8z+//u530
――――数十分後
磯辺「というわけで冷泉さん。今度うちのクラスで数学の小テストがあるみたいなんだけど、高得点とるにはどうすれば……」
麻子「教科書の例題を見なおせ。うちの学校の小テストは、例題の数値を変換した問題しか出ないからそれで十分だ」
磯辺「な、なるほど……」
ゴモヨ「あ、あの……操縦がうまくなるにはどうすれば……」
麻子「マニュアル通りにガチガチに考えるな、どうせ視界が狭い中運転しなきゃならないんだ、ある程度目算と感覚で動かしてればなんとかなる」
ゴモヨ「は、はぁ……」
沙織「む~」
4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:33:29.42 ID:8z+//u530
麻子「……なんだ沙織、うるさいぞ」
沙織「……んで……」プルプル
麻子「?」
沙織「なんで麻子ばっかり相談されて、私のところには誰も来ないの!!?」ガーッ
ゴモヨ「ひゃあっ!?」
麻子「何だいきなり……」
沙織「だっておかしくない!?せっかく相談室の看板に名前まで入れたのに……」
5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:37:55.06 ID:8z+//u530
麻子「いつの間に作ったんだこんなの……」
ゴモヨ「確かに『沙織と麻子の』って入ってますね……」
磯辺「すごい……ビーズデコのハートマークまで入ってる……」
沙織「そりゃ~学年主席の麻子に比べれば私は頼りないかもしれないけどさ……でも、恋の悩みとかなら得意分野だもん!!」フンスッ
麻子「……だ、そうだが。ふたりはどうだ?恋の悩みなら喜んで答えてくれるそうだぞ?」
磯辺「いや、私は今バレーボールが恋人なんで……」
ゴモヨ「ふ、不純異性交遊は校則違反ですっ!」
麻子「……だそうだ」
沙織「ああ……そう……」ガクッ
6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:42:49.28 ID:8z+//u530
磯辺「じゃあ、私達はこのへんで……」
ゴモヨ「し、失礼します……」
沙織「ああ……行っちゃった……」
麻子「……そんなに相談を受けたいのか?」
沙織「ん~というより、私だけなにもしてないみたいでなんかね……」
麻子「……まぁ待ってれば沙織目当ての人も来るだろうさ、気を落とすな」
7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:47:29.43 ID:8z+//u530
沙織「麻子……」
猫田「あのう……」ヒョコッ
沙織「あれ、猫田さん?どうしたの?」
猫田「戦車道チームの相談室はこちらでいいのかな?実はご相談したいことがあって……」
麻子「まぁとりあえず座れ……」
猫田「あ、はい……」ガタン
沙織「それで、相談したいことって?」
8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 09:53:58.88 ID:8z+//u530
猫田「実はボクも武部さんと同じくアマチュア無線技士の資格を取ろうと考えていて……」
沙織「ええっ、そうなの!?」
猫田「はい……ボクたちのチーム、決勝戦では全然活躍できなかったから、来年こそはチームの皆さんのお役に立ちたいと思って……」
猫田「資格があれば、遠距離でも強い電波が飛ばせるんだよね?偵察とか作戦の幅が広がるかなと……」
麻子「まぁ確かにな……」
猫田「そこで資格を持ってる武部さんに、何か試験のアドバイスをもらえればと思って」
沙織「なるほどね……」
9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:03:16.68 ID:8z+//u530
沙織(よし!これなら私でも答えられそうだし、しっかりアドバイスしてあげないと……)
沙織「そうだね、まず試験ではね――」
麻子「2級ならば高校程度の知識水準と言われている。きちんと勉強すれば一発合格も狙える範囲だ。ただ、モールス信号など普段使い慣れてない分野の知識が要求されるからそれについては……」
沙織「――って、なんで麻子が答えちゃうのよーーっ!!」
10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:11:16.07 ID:8z+//u530
――――更に数十分後
沙織「…………」
麻子「ふぅ、ようやく一段落したな……」
沙織「結局猫田さんの後は誰も私に相談しに来なかった……何でよ……」ガックリ
麻子「いや、私に聞かれても知らんよ……」
沙織「うさぎさんチームなら誰か来ると思ったのにな……」
麻子「そういえば一年生チームは今日は備品の買い出しに行ってると聞いたな」
沙織「え~タイミング悪いなぁ……」
11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:16:27.26 ID:8z+//u530
麻子「もうこんな時間だし私達も片付けて帰るか」
沙織「あ、うん……」
ガタガタ、ガタン
沙織「でも麻子への相談多かったね~10人くらい来てたかな?」
麻子「ほとんど勉強に関する相談ばかりだったがな……流石に自動車部の先輩まで聞きに来るとは思わなかったな……」
沙織「それでも答えられてた麻子もすごいよ~」
麻子「たまたま前に本で読んだことの有る部分だったからな……」
12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:20:35.23 ID:8z+//u530
沙織「あ~あ、私も血液型別の恋愛運や、星座別の相性のいい式場まで幅広~い知識を持ってるのにな……」
麻子「式場に星座の相性って…………しかし、沙織は何がきっかけでそんな風になってしまったんだ?」
沙織「そんな風って……ん~きっかけか……」
沙織「……そだね、ちっちゃい頃の対抗心から……かな?」
麻子「……対抗心?なんだ、昔振られた子を見返すために――とかそんな理由か?そんな男子、小さい頃いたか……?」
沙織「ん~ん、麻子への対抗心だよ?」
麻子「――――へ?……私?」キョトン
13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:23:21.07 ID:8z+//u530
沙織「そだよ~」
麻子「な、なんでまた……」アセアセ
沙織「だって麻子ってば、小さい頃から勉強はできるわ、運動神経はいいわですごかったじゃない。幼心には『負けてたまるか~』って思ったわけよ」
麻子「そう……なのか?」
沙織「そうだよ~。実はあの時期の麻子ってば、クールな印象も相まって、女子全員の憧れだったんだからね~」
沙織「……ま、朝が弱いのは昔っからだったけどねぇ」ニヤニヤ
麻子「……それがどうして今のお前の恋愛脳に繋がる?」ムスッ
14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:27:55.88 ID:8z+//u530
沙織「恋愛脳って……さっきからひどい言われようね――まぁいいや、んで対抗心を燃やした私は
麻子に負けないスーパーウーマンになってやるぞ~
↓
スーパーウーマンなんだから、当然男の子にもモテモテじゃなきゃダメよね
↓
モテるためには何をすればいいんだろ?いろいろ調べてみよう
そして現在に至る……って感じかな?」
麻子「…………」
沙織「……麻子?」
15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:33:27.43 ID:8z+//u530
麻子「いや、何でもない……」
麻子(『手段の目的化』って、こういう事をいうのだろうな……しかし――)
麻子「『女子全員の憧れ』ってことは、沙織も……?」
沙織「えへへ~お恥ずかしながら。ライバル意識を持ちながらも実力は認めてて……みたいな?当時はまさか、ここまで世話のやける子だとは思ってなかったけどねぇ~」
麻子「悪かったな……」プイッ
沙織「あ~もう冗談だってば、怒らないでよ麻子~」
麻子「別に怒ってない……ただ……」
沙織「ただ……?」
麻子(『憧れ』か――)
16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:37:05.40 ID:8z+//u530
沙織『も~麻子ってば、早くしないと遅刻するよ!』
麻子『眠い……私のことは置いてっていいから……』
沙織『ダメ!遅刻ばっかりしてたら一緒に卒業できなくなっちゃうよ?ほら、ちゃんと立つ!!』グイッ
麻子『…………スマンな、沙織』
17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:39:01.24 ID:8z+//u530
沙織『もう、甘いモノばっかり食べてると太るよ?ほら、今日は私がお夕飯作ってあげるから!台所借りるね~』
麻子『……メニューは?』
沙織『肉じゃが!!』
18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:40:41.73 ID:8z+//u530
麻子『沙織は毎日楽しそうだな……』
沙織『どしたのいきなり?モチロン楽しいよ?学校も……戦車道の授業も……こうやって帰りに皆で寄り道するのも!」
沙織「あ~あ、これで隣に素敵な彼でもいてくれたらな~』
麻子『……私じゃ不満か?』
沙織『えっ?……そうだね、恋人が出来るまでは麻子が恋人代わりでもいいかな~』
19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:43:29.99 ID:8z+//u530
沙織「……どしたの、麻子?」
麻子「……いや、自分に無いものを持ってる人間は輝いて見えるものだなと思ってな」
沙織「え~何それ、自画自賛?」
麻子「……違う。『勘の鈍い友人を持つと苦労する』って話だ」
沙織「?」キョトン
20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:47:43.25 ID:8z+//u530
ガラッ
みほ「沙織さ~ん、麻子さ~ん、お待たせ~」
優花里「ただいま帰還いたしました!!」
華「あら、ちょうどおふたりの方も終わってたようですね」
沙織「みんな~早かったね!うん、もう帰れるよ~麻子、行こ?」
麻子「ああ……」
沙織「ゆかりん達はどんな感じだったの?確か……生徒会の書類整理の手伝いだっけ?」
優花里「はい!未処理の書類が山のようにあったのですが、ここでも西住殿が大活躍されまして……」
みほ「そ、そんなこと無いよ~」テレッ
21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:50:44.64 ID:8z+//u530
沙織「へ~そうなんだぁ。こっちも麻子がすごかったんだよ!ね~?」
麻子「ああ……」
優花里「そうなのですか?ぜひともお話をお聞きしたいです!」グイッ
華「まぁまぁ……それより、どこかに寄っていきませんか?そちらのほうがゆっくり話せるでしょうし……」
沙織「賛成~どこがいいかな……皆、なに食べたい?」
みほ「そうだね……何がいいかな……」
沙織「商店街のスイーツショップは昨日も行ったしな~」
麻子「…………」ジー
22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:53:46.76 ID:8z+//u530
麻子(……しかしまぁ、鈍い相手には、どうすれば気づいてもらえるのだろな……)
麻子(そうだ、今度本人に相談してみるのもいいかもしれない。あれだけ恋愛相談をされたがってたみたいだし、無下にはされまい……)
麻子(その時の沙織の顔が見ものだな。まあ今は――)
麻子「……私はケーキが食べたい」
沙織「またケーキ!?さっきも食べてたじゃない!」
華「いいじゃありませんか、それでは、ケーキ屋に寄ってからいつもの公園にでも行きましょうか」
四人「「「「賛成―っ!!」」」」
麻子(今はとりあえず、糖分を補給するとしよう……)
おわり
23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/10(金) 10:57:53.60 ID:8z+//u530
以上です。
祝 新作OVA・劇場版制作決定!ということで書かせて頂きました。
劇場版は世界大会とかになるんですかね?リトルアーミーのエミちゃんが出てきてくれると嬉しいのですが……
最近はTVでも大洗町が取り上げられるようになって嬉しいです。自分の後ろ姿が写ってたのは恥ずかしかったですが(笑)
24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/10(金) 17:45:52.49 ID:EmsJBvk2o
乙
25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/10(金) 19:09:38.29 ID:LFz1qRYTo
おつい!
26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/05/10(金) 19:38:44.42 ID:WI2bli6+o
乙
久々にアニメで町おこしらしいのができたんじゃないか?

Entry ⇒ 2013.05.19 | Category ⇒ ガールズ&パンツァー SS | Comments (5) | Trackbacks (0) |
| NEXT≫