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【ガルパン】華「釣り、ですか?」

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1 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:37:50.60 ID:2KUdMdmoo

    華「はい、五十鈴でございます」

    麻子『こんばんは、冷泉だ』

    華「はい、こんばんは。麻子さんがお電話をくださるのは、珍しいですね」

    麻『今、電話、大丈夫か?』

    華「ええ、構いませんよ。何でしょう」

    麻『釣りに行かないか?』

    華「……は?」

    麻『駄目か?』

    華「釣り、ですか?」

    麻『ああ』

    華「釣り、って……それは、魚を釣る、釣りですか?」

    麻『ほかに何を釣るんだ?』

    華「……」

    麻『どうした?』

    華「いえ……何だか、唐突で……」

    麻『……』


2 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:39:59.64 ID:2KUdMdmoo

    華「わたくし、そういうものは、経験が一切ありませんけど」

    麻『私は、やったことがある』

    華「……」

    麻『道具は私が持ってる』

    華「そう……ですか」

    麻『だが、一人分しかない、つまり、竿は1本しかないけどな』

    華「……」

    麻『駄目か? 駄目なら別に構わない』

    華「……」

    麻『夜分に失礼した。それじゃ』

    華「……麻子さん、待ってください」

    麻『何だ?』

    華「誰かと……例えばチームの皆さんと、一緒ですか?」

    麻『ほかには誰も誘ってない』

    華「……」

    麻『どうした?』

    華「行くとすれば、どこへ行きますか?」

    麻『53F地区にある大きな池はどうだろう』

    華「53F地区……。ああ、あそこですか」

    麻『……』

    華「人が滅多に行かない、静かな、良い所ですね」

    麻『辿り着くのが少々大変だが』

    華「でも、途中にある林の中を、少し長めに歩くだけです」

    麻『どうする? 行くか?』


3 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:42:11.31 ID:2KUdMdmoo

    華「いつにしますか?」

    麻『次の日曜日』

    華「天気は……」

    麻『我が艦はその日、まだ高気圧の勢力下にあるそうだ』

    華「それなら、しばらく良いお天気が続きますね」

    麻『一緒に行ってくれるか? 五十鈴さん』

    華「ええ。是非、お供させてください」

    麻『良かった』

    華「想像したら、楽しくなってきました」

    麻『断られるとばかり、思ってた』

    華「たまには、アウトドアも素敵ですね。汚れてもいいような服で行きます」

    麻『ただ、さっき言ったとおり、道具は一人分しかないが』

    華「わたくしは、麻子さんが魚を釣るのを見ています」

    麻『……』

    華「もし飽きたら、周囲を散歩でもしています。問題ありません」

    麻『行きと帰りに道具を少し持ってもらうが、それはいいか?』

    華「もちろんです。分担しましょう」

    麻『そうか』

    華「何だかワクワクしてきました。お弁当でも作って、行きましょう」

    麻『五十鈴さん』

    華「はい」

    麻『弁当なんて、作れるのか?』

    華「……やっぱり、途中にあるコンビニで買っていきましょう」


4 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:44:54.77 ID:2KUdMdmoo

    麻『それに……』

    華「何でしょう」

    麻『行くのは、午後にしないか?』

    華「……ふふふ」

    麻『何か可笑しいか?』

    華「麻子さん。それは午前中、寝ていたいからですね?」

    麻『……さっきは、一本取ったと思ってたが』

    華「ふふ。取り返して、さしあげました」

    麻『待ち合わせの時間と場所は、土曜日にまた、連絡を取り合って決めよう』

    華「ええ。それまでにお互い、都合が変わることもあるでしょうから」

    麻『それじゃ。夜分に失礼した』

    華「いえ。誘ってくださって、ありがとうございます」

    麻『礼を言うのは私の方だ。楽しみにしてる』

    華「わたくしもです。それでは、おやすみなさい」

    麻『おやすみなさい』



    ~~~~~~~~~~



    華「……麻子さん」

    麻「何だ?」

    華「……来ましたよ」

    麻「何がだ?」

    華「今、浮きが動いています。あれは、いわゆる……」

    麻「……」

    華「引いている、という状態なのでは」

    麻「いや、まだだ」


5 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:46:57.05 ID:2KUdMdmoo

    華「え。でも……」

    麻「餌の周りに魚が近寄ってるのは、間違いない」

    華「……」

    麻「だが、今はまだ、魚が餌を突付いてるだけだ」

    華「……」

    麻「本当に魚が食いついたら、浮きはぐっと沈み込むはず」

    華「……あ……動きが、止まってしまいました」

    麻「……逃げられたな。恐らく、警戒された」

    華「……」

    麻「竿を上げてみるか」

    華「……」

    麻「餌だけ取られて、魚は掛からない。多分、そうだ」ヒュッ

    華「あ……そのとおりです」

    麻「餌を付け直さないと」

    華「麻子さん」

    麻「何だ?」

    華「麻子さんは、いろいろなことを知っていますね」

    麻「釣りに関しては全部、死んだ父親の受け売りだ。……よっ、と」ポチャン

    華「今度は掛かるといいですね」

    麻「せっかく来たんだからな。1匹くらい釣りたい」

    華「おとうさまは、釣りが御趣味だったのでしょうか」

    麻「いや。趣味というほど、熱心じゃなかったと思う」


6 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:51:19.22 ID:2KUdMdmoo

    華「でも、こんなに立派な道具を持っていらして……」

    麻「私たちみたいに釣りに詳しくなくても、値段が高そうだと分かるものばかりだな」

    華「ええ」

    麻「竿、竿受け、針や浮きとかを入れる用具箱……」

    華「わたくしが座らせていただいているこの折り畳み椅子も、すごく頑丈です」

    麻「椅子は大小2脚あった」

    華「これは、大人の男性用でしょうね」

    麻「よく憶えてないが、父親がそれを使ってたと思う」

    華「……」

    麻「そして私の座ってるのが、私や母親の、家族用」

    華「釣りへ一緒にいらした時、使ったのですね」

    麻「こんな道具一式が、なぜ、うちにあったのか」

    華「……」

    麻「謎だ。理由が全く、分からない」


7 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:53:04.63 ID:2KUdMdmoo

    華「それは……形見として、麻子さんが引き取ったのではないでしょうか」

    麻「全然、憶えてない」

    華「……」

    麻「形見分けなんて、やったのか、やってないのか」

    華「……」

    麻「それどころか、最近は……」

    華「何でしょう」

    麻「両親が死んだ前後にあった、出来事」

    華「……」

    麻「そのほとんどを、思い出せなくなってる気がする」

    華「……」

    麻「私は、記憶力がいいはずなのに」

    華「……ごめんなさい。こんな話をさせて……」

    麻「いや、いい。気にしないでほしい」


8 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:56:24.34 ID:2KUdMdmoo

    華「……あ……」

    麻「どうした?」

    華「今、遠くで魚が跳ねました」

    麻「魚がいるのは間違いないんだが」

    華「なかなか、釣れませんね」

    麻「まあ、まだ始めたばかりだ。果報は寝て待て」

    華「そうですね。釣り糸を垂らして、すぐに魚が掛かってしまうのも変です」

    麻「ところが、こんな考え方をする人は、釣りに向いてないそうだ」

    華「そうなのですか?」

    麻「気の短い人ほど、たくさん釣るといわれてる」

    華「どうしてなのでしょう」

    麻「釣れないとイライラして、すぐに釣る場所や仕掛け、つまり使ってる糸や針、餌とか」

    華「……」

    麻「それを次々と変えて工夫するから、ということらしい」

    華「確かに、成果の上がらない方法をずっと続けているのは、愚の骨頂ですけど……」

    麻「初心者の私たちは、次の一手を思いつかない」

    華「やはり、しばらく様子見ですか」

    麻「ああ」

    華「でも……予想どおりの良いお天気です」

    麻「……」

    華「のんびりしていれば、よろしいのでは」


9 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 20:59:28.41 ID:2KUdMdmoo

    麻「道具一式の中に傘がないのを、もっと早く気付くべきだった」

    華「大丈夫です。麻子さんもわたくしも、帽子を被っていますから」

    麻「五十鈴さんは、日傘を持ってくると思ったが」

    華「この格好で日傘は、おかしいでしょう?」

    麻「そんなミリタリー調の服を持ってたんだな。少し意外だ」

    華「最近、買いました。自分がこういうものを選ぶとは思わなかったですけど」

    麻「背が高い人は何を着ても似合うな」

    華「わたくしの背なんて普通です。麻子さんこそ今日は、普段以上に可愛らしいですよ」

    麻「部屋着同然の格好だ」

    華「麻子さんの私服姿は、なかなか見る機会がないので貴重です」

    麻「傘がないから、今日は陽に焼けるぞ。平気か? 五十鈴さん」

    華「むしろ大歓迎です。積極的にそうしたいですわ。大体……」

    麻「何だ?」

    華「生白い、深窓の令嬢などという立場は、真っ平御免です」

    麻「……」

    華「家の者たちがわたくしに期待しているのは、そういう在り方ですけど」

    麻「……」

    華「いっそのこと、いつか全身日焼けして、髪を金色に染めてやろうかしら」

    麻「それは……自重してくれるように、心の底からお願いする」


10 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:03:03.20 ID:2KUdMdmoo

    華「ところで、麻子さん」

    麻「何だ?」

    華「この学園艦には、どんな魚がいるのでしょう」

    麻「私も同じ疑問を持ったから、調べてみた」

    華「どうでした?」

    麻「あまり興味深い結果じゃなかった」

    華「……」

    麻「陸でもありきたりの魚ばかりだ。鯉とか鮒とか」

    華「……」

    麻「だが実は、私たちが今やってるのは、その鯉や鮒が相手の釣りだ」

    華「釣りにも、いろいろな種類があるのですね」

    麻「結果的にだが、死んだ父親がやってたのは、この学園艦向きの釣り方だったな」

    華「……」

    麻「それに……魚がいるだけ、マシなのかもしれない」

    華「そうですね。学園艦にある自然は、いうまでもなく全て人工的なものです」

    麻「“自然”と呼ぶのが、憚られるくらいだ」

    華「でも、植物や動物、生物の種類が、多ければ多いほど……」

    麻「多様性が生まれて、本物の自然に近くなる」

    華「鯉や、鮒……」

    麻「どういう理由で、それが選ばれて、持ち込まれたのか」

    華「いつか、わたくしが調べてみましょう」

    麻「興味が湧いたか」

    華「ええ。学園艦の生物相やその歴史なんて、今まで考えもしませんでした」

    麻「資料が、図書館にあると思う」

    華「文科省もそういう調査くらい、やっているでしょうね」

    麻「艦が建造されて、もう何十年もたっているから……」

    華「ここでは恐らく、独自の生態系ができているのでしょう」


11 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:05:26.96 ID:2KUdMdmoo

    麻「五十鈴さん」

    華「はい」

    麻「私たち、何をやってるんだろうな」

    華「は……?」

    麻「どうした?」

    華「いえ……麻子さんが、何を言っているのか、ちょっと……」

    麻「分かりにくかったか」

    華「それは、今この場でわたくしたちが、ということですか?」

    麻「ああ」

    華「それなら、誘ってくださった麻子さん自身が、よく御存じだと思います」

    麻「……釣りをしてることは、間違いないが……」

    華「……」

    麻「……」

    華「……麻子さん」

    麻「何だ?」

    華「今日わたくしは、二つのことを麻子さんへ訊こうと思っていました」

    麻「二つのこと」

    華「はい」

    麻「どんなことだ?」

    華「一つは、どうして釣りをしようと思ったのか」

    麻「……」

    華「もう一つは、どうしてわたくしだけを、誘ったのか」

    麻「……」


12 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:09:14.66 ID:2KUdMdmoo

    華「もちろん、無理に答えてくださらなくても、何の問題もありません」

    麻「……それは……」

    華「ひょっとしたら、答えたくないことかもしれませんから」

    麻「……いや、私は……」

    華「……」

    麻「……分かった。話す」

    華「後でゆっくり、うかがいます」スッ

    麻「どうした? 立ち上がって」

    華「ちょっとお手洗い」

    麻「トイレなんか、ないぞ」

    華「元より承知です。その辺りで済ませてきますので、少しの間、失礼」

    麻子「……………………」





    華「戻りました。外でするのって、気持ちいいですねえ」

    麻「早かったな」

    華「すぐ近くに、手頃な藪がありましたので」

    麻「後で場所を教えてほしい。今日はそこをトイレにしよう」

    華「はい。空を見ながらって、解放感がありますよ」

    麻「五十鈴さんは名家で生まれ育ったお嬢様なのに、度胸があるな」

    華「人が周囲にいる可能性がないのだから、怖気づく必要はありません」

    麻「確かに、言うとおりだ」

    華「わたくしは、いわゆるお嬢様かもしれませんけど……」

    麻「そんなことは関係ない、か」

    華「はい」


13 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:11:24.43 ID:2KUdMdmoo

    麻「そのお嬢様の、五十鈴さんは……」

    華「何でしょう」

    麻「将来、どうするんだ?」

    華「……将来の、お話ですか」

    麻「ああ」

    華「わたくしは、あの家で生まれ育ちました」

    麻「……」

    華「そして、兄弟姉妹がいません。一人っ子です」

    麻「……」

    華「その時点で、将来のことはもう決まっています」

    麻「五十鈴流を継ぐんだな」

    華「そのとおりです」

    麻「しかし、さっき“深窓の令嬢など真っ平御免”と言ってたが」

    華「ええ。確かに言いました」

    麻「家を継ぐのは、嫌なのかと思ってた」

    華「それが、そうでもありません」

    麻「どういうことだ?」

    華「わたくしは、もう、その生き方以外を考えられないのです」

    麻「……」


14 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:14:20.56 ID:2KUdMdmoo

    華「例えば、わたくしの、この話し方」

    麻「……」

    華「小さな頃から躾けられて、今までずっと、この話し方をしてきました」

    麻「五十鈴さんはその話し方が、同年代のほかの人とは違う、ということを……」

    華「もちろん、分かっています」

    麻「……」

    華「奇異に思ったり、違和感を覚えたりして、意見してくださるかたがた」

    麻「……」

    華「そういうかたがたが、小さな頃は特に、たくさんいました」

    麻「そうなのか」

    華「ええ。でもこれは、もうわたくしにとっての標準なのです」

    麻「今さら、変えられないか」

    華「もしこれを変えるのなら、今までと同じ年月が必要でしょう」

    麻「……」

    華「生き方も、同じです」

    麻「……」

    華「家を継ぐのが当然。わたくし自身も、家の者たちもそう思って、ここまで来ました」

    麻「それも、今さら変えられないか」

    華「はい。もう、ほかの生き方など考えられないのです」

    麻「……」

    華「……麻子さんは?」

    麻「……今度は、私が言う番だな」

    華「はい」


15 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:17:20.39 ID:2KUdMdmoo

    麻「正直に言う。まだ、よく分からない」

    華「……」

    麻「すまない」

    華「どうして、謝ったりするのでしょう」

    麻「五十鈴さんが明確に答えてくれたのに、こう言うのは卑怯だから」

    華「そんなことは、気になさらないでください」

    麻「……」

    華「今、決まっていなくても全く構わないと思います」

    麻「……」

    華「麻子さんの頭脳なら、これから、どんなことでも可能でしょう」

    麻「……そう……なのかな」

    華「今さら、何を言っているのですか?」

    麻「……」

    華「不動の学年主席。大洗女子学園始まって以来の秀才、いえ、天才が」

    麻「実は……」

    華「何でしょう」

    麻「この仕事を選ぼうかと、何となく思ってるものは、ある」

    華「それは?」

    麻「弁護士」

    華「素敵ではありませんか。資格取得の難度は、医師などと並んで最高峰らしいですけど」

    麻「……」

    華「麻子さんなら何の問題もないでしょう」

    麻「……」

    華「それで、なぜ弁護士を?」


16 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:19:46.87 ID:2KUdMdmoo

    麻「今、家のことは、全部おばあが一人でやってる」

    華「財産管理……それを引き継ぐ、ということですね」

    麻「ああ。おばあは、もう長くない」

    華「え。そのようなことは……」

    麻「事実だ。今は、殺しても死なないくらいだが」

    華「立ち入ったことをうかがいますけど、何かあったのでしょうか」

    麻「年々、倒れてから、次に倒れるまでの間隔が、どんどん短くなってる」

    華「……」

    麻「逆に、倒れた後、回復するまでの時間は、どんどん長くなってるんだ」

    華「……」

    麻「医者からは、覚悟しておいた方がいい、と言われてる」

    華「あんなにお元気なのに。信じられません」

    麻「本人も薄々、気付いてると思う」

    華「……」

    麻「だが、ああいう性格だ。考えるよりも先に、いつも……」

    華「お体の方が、先に動いてしまうのですね」

    麻「体も、口もだ。もっと穏やかにしてくれてば、周りもヒヤヒヤしなくて済むんだが」

    華「弁護士を選ぶ、理由は……」

    麻「五十鈴さんが今、考えてるとおりだ。自分の身を、自分で守れるようにするためだ」

    華「……」

    麻「おばあが死んだら、私は完全に、一人ぼっちだからな」

    華「……」


17 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:22:10.00 ID:2KUdMdmoo

    麻「五十鈴さん」

    華「はい」

    麻「五十鈴さんは、一人っ子だ」

    華「……は?」

    麻「兄弟姉妹がいない」

    華「ええ、そうですけど」

    麻「だから、家を継ぐのは自分しかいない」

    華「おっしゃるとおりです」

    麻「姉妹とか兄弟がいれば、状況は変わったか?」

    華「あの……麻子さん」

    麻「……」

    華「麻子さんは、いきなり、何を話し始めて……」

    麻「……すまない。今のは、忘れてほしい」


    華「……」

    麻「……」


    華「一人っ子、ですか」

    麻「……」

    華「我がチームでいえば、優花里さんもそうですね」

    麻「……」

    華「おねえさまや妹さんがいるのは、みほさんと沙織さんだけです」

    麻「西住さん……」

    華「みほさんのおねえさまは、凛々しいかたでしたね」

    麻「……決勝……」

    華「はい?」

    麻「全国大会の、決勝……」

    華「決勝? それが何か?」


18 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:24:31.80 ID:2KUdMdmoo

    麻「あれは、ある意味……」

    華「はい」

    麻「やたらとスケールの大きな、姉妹ゲンカだった」

    華「……その見方は、斬新ですね」

    麻「そうじゃなかったか? Ⅳ号の私たちは、西住さん……西住妹の側についた」

    華「……」

    麻「そして相手のティーガーの人たちは、姉の方についた」

    華「……」

    麻「最後の、一騎討ち……あれは姉妹ゲンカの、いわば極致だ」

    華「その解釈でいうと、わたくしたちは、みほさんへ加勢していたのですね」

    麻「西住さんは、あの時、何を考えてたと思う……?」

    華「さあ……。訊いたことはありませんし」

    麻「“お姉ちゃんになんか、絶対に、負けない”……」

    華「……」

    麻「とでも……考えて、たんだろう……か……」

    華「……!!」

    麻「……どう、した……?」

    華「麻子さん……!?」

    麻「何……だ……?」

    華「泣いて、いるんですか!?」

    麻「……可笑しい……か……?」


19 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:27:26.75 ID:2KUdMdmoo

    華「麻子さん。一体、どうしたというんですか?」

    麻「……」

    華「突然、釣りに誘ってくださったり。突然、将来とか、一人っ子の話を始めたり」

    麻「……」

    華「そして突然、泣き出したり」

    麻「……すま……ない……」

    華「謝る必要など、ありません」

    麻「……二つの……こと……」

    華「何ですか?」

    麻「五十鈴さんから……訊か……れた、二つのこと……」

    華「……」

    麻「ちゃんと……答えなくちゃ……ならない、な……」

    華「そんなことは、後で結構です」

    麻「……」

    華「今はとにかく、泣きやんでください」

    麻「……」


20 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:30:00.07 ID:2KUdMdmoo

    華「……とりあえず、ほら。気分を変えて」

    麻「何……だ?」

    華「おやつを、来る途中に二人で買いました。食べましょう、ね?」

    麻「私は……いら、ない……」

    華「なぜ? 食べてしまわないと、帰り道で荷物になってしまいますよ?」

    麻「五十鈴さん、は……よく食べる、な……」

    華「まっ。何でしょう失礼な。まるでわたくしが、健啖家のようではありませんか」

    麻「違う、のか……?」

    華「確かに、ほんの少し、人より食べるかもしれませんけど」

    麻「ほんの、少しでは、ないだろ……」

    華「聞こえませんわ。では、いただきまーす」


21 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:36:07.19 ID:2KUdMdmoo



    ~~~~~~~~~~



    華「まったく……びっくり、しました」

    麻「すまない」

    華「また謝って……今日は何回、そうするつもりですか? もう謝るのは禁止です」

    麻「禁止、か……」

    華「泣いているのなんて、初めて見ました。麻子さんって……」

    麻「何だ?」

    華「声をあげずに泣くのですね。涙だけ流して」

    麻「自分でも、初めて知ったかもしれない」

    華「そうなんですか?」

    麻「私は今まで、泣いた記憶がほとんどない」

    華「……でも……」

    麻「五十鈴さんの言いたいことは想像がつく。両親が死んだ時、だろ?」

    華「ええ……」

    麻「さっき、私はこう言った」

    華「……」

    麻「両親が死んだ前後の出来事。そのほとんどを思い出せなくなってる、と」

    華「……」

    麻「本当は、自分でその理由を分かってる」

    華「自分自身、で?」


22 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:38:02.82 ID:2KUdMdmoo

    麻「ああ。私は、その記憶を消し去ってしまいたいんだ」

    華「……」

    麻「無意識にそう考えて、無意識に記憶を消去してる」

    華「……」

    麻「恐らく私は、涙が涸れるほど泣いた。だが、泣いた記憶を、自分で消してるんだ」

    華「麻子さん」

    麻「何だ?」

    華「こんなお話は、もう、やめた方がよろしいのでは」

    麻「なぜだ?」

    華「こんな良いお天気の日に、お出かけをして、くつろいでいるのに……」

    麻「……」

    華「今、ここで、しなくてはならないお話ではないでしょう?」

    麻「だが……これは、私が五十鈴さんを釣りに誘ったから、始まった話だ」

    華「……」

    麻「それに、私はまだ、質問に答えてない」

    華「……わたくしが先ほど、訊いたことですね」

    麻「まず、“どうして、釣りをしようと思ったのか”」

    華「……分かりました」

    麻「……」

    華「うかがいましょう、その答えを」

    麻「五十鈴さんから訊かれた二つのこと、その一つめ」


23 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:40:24.95 ID:2KUdMdmoo

    華「釣りの道具をおうちで見付けたから、ということは聞きました」

    麻「ああ。ここへ来るまでの間に、話したとおりだ」

    華「でも、見付けたからといって……」

    麻「実際に釣りをしようと、考えるとは限らない」

    華「ええ」

    麻「大体、私は釣りなんて、ほとんど興味がない」

    華「興味があれば今までも、やっているはずです」

    麻「だが私は今回、道具一式を見付けて、久々に釣りをしたくなった」

    華「どうしてなのでしょうか」

    麻「私は、父親を思い出したんだ」

    華「……」

    麻「父親が使ってた、道具を見た時……」

    華「おとうさまと、釣りをしたこと。それを思い出したのですね」

    麻「ああ。父親と過ごした、あの時間」

    華「……」

    麻「あの空気」

    華「……」


24 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:42:12.47 ID:2KUdMdmoo

    麻「何か特別なものがあるわけじゃない。ただ、二人で、並んで座ってるだけ」

    華「ただ、釣りをしてるだけ……」

    麻「ただ、二人で、浮きを眺めてるだけ」

    華「それが、懐かしかった……と?」

    麻「そのとおりだ。私は、無性に懐かしかった」

    華「……」

    麻「ただ、二人で、並んで座ってる」

    華「……」

    麻「たまに、どうでもいいような話をする」

    華「そういう時間、そういう空気……」

    麻「それが、たまらなく、懐かしくなった」

    華「……」

    麻「大好きな人と、一緒にいる時間」

    華「……」

    麻「大好きな人に、守られてる、空気」

    華「それを……思い出したのですね」

    麻「……そう、だ……」

    華「あ……泣かないでください、麻子さん」


25 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:45:38.99 ID:2KUdMdmoo

    麻「すま……ない……」

    華「いいんです。わたくしが、泣かせてしまいました」

    麻「また……謝ってしまっ……た。禁止、されてた、のに……」

    華「いえ。今のは、わたくしが……」

    麻「……道具を、見付けて……すぐに……五十鈴さんへ、電話を、した」

    華「メールではなく、電話でしたね」

    麻「ああ……早く、返事が……聞きたかった」

    華「……」

    麻「……五十鈴さんが……訊いた、二つのこと」

    華「……その二つめ、ですね」

    麻「ああ……」

    華「“どうして、わたくしだけを誘ったのか”」

    麻「……」

    華「どうして……わたくしだったのでしょう」

    麻「……」

    華「……やはり、答えたくないこと、なのですね」

    麻「……笑わない、って……」

    華「え?」

    麻「笑わない、って……約束して、ほしい」

    華「もちろんです。もちろん、笑ったりなどしませんよ、麻子さん」

    麻「……その、理由は……」

    華「はい」

    麻「五十鈴さんが……」


    華「……」


26 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:52:16.83 ID:2KUdMdmoo


    麻「五十鈴さんが、お姉さんみたい、だったんだ」


    華「……」

    麻「私も、一人っ子だ……姉妹も兄弟もいない」

    華「……」

    麻「でも、お姉さんがいたら、こういう感じなのかな……って、思ったんだ」

    華「でも……釣りとは」

    麻「道具を見付けて、釣りをしようと思って……」

    華「はい」

    麻「真っ先に思い浮かんだのが、五十鈴さんを、誘うことだった」

    華「……」

    麻「……」

    華「……と、いうことは……」

    麻「……」

    華「わたくしは……おとうさまの代わりですか?」

    麻「……」

    華「たとえわたくしが、その“お姉さん”だったとしても……」クス

    麻「あ……」

    華「ごめんなさい。笑って、しまいました。ふふふ」

    麻「……笑わないって、約束、したのに……」

    華「ごめんなさいね。ふふふ。だって、おかしいじゃありませんか」

    麻「五十鈴さんなんて、嫌いだ……」


27 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 21:55:43.60 ID:2KUdMdmoo

    華「拗ねないでくださいな。だって、麻子さんの思い出と、まるっきり違いますよ?」

    麻「……」

    華「わたくしみたいな生白い、頼りない“お姉さん”が、おとうさまの代わりなんて」

    麻「……」

    華「それに、そもそも……」

    麻「……何だ?」

    華「今、釣りをしているのはわたくしではなく、麻子さんじゃありませんか」

    麻「それは……確かに、そうなんだが」

    華「わたくし、やっと、いろいろと合点がいきました」

    麻「何をだ?」

    華「例えば、先ほどの決勝のお話」

    麻「……」

    華「麻子さんは、みほさんが羨ましかったのですね?」

    麻「……それは……」

    華「あんなに凛々しい、見るからに頼れる、おねえさまがいる」

    麻「……」

    華「そのおねえさまと、戦車まで使って、思い切り姉妹ゲンカをしている」

    麻「……」

    華「ケンカするほど仲がいい、といいますものね」

    麻「あれは、事情がもっと複雑だったはずだが……」

    華「あら? あの試合を、単純な姉妹ゲンカに喩えたのは、誰だったでしょうか?」

    麻「……」

    華「“お姉ちゃんになんか、負けない”と思っていたのは……」

    麻「……」

    華「実は、麻子さんだったのでしょう?」


28 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:02:59.31 ID:2KUdMdmoo

    麻「……一騎討ちの最中、はっきり、そう思ってたわけじゃない」

    華「ええ。でも、いずれにせよ……」

    麻「西住さんを、全力で応援する気持ちだったのは、間違いない」

    華「試合に勝利する、という以上の思い入れがあったのですね」

    麻「私は、どうしようもなく、西住さんが羨ましかった」

    華「はい」

    麻「私も、あんなふうにしてみたかった」

    華「まさか、戦車で? ふふふ」

    麻「……私は、真面目に話してるのに。もう五十鈴さんなんて、大嫌いだ」プイ

    華「ごめんなさい、まぜ返したりして。ふふ。怒らないでくださいな」

    麻「これ以上、茶化さないでほしい」

    華「ええ、今度こそ約束します。それで?」

    麻「……ケンカするくらい、本音を言い合える仲」

    華「……」

    麻「そういう姉妹や兄弟が、欲しかった」

    華「……」

    麻「沙織の家も、そうだった」

    華「妹さんのことですね」

    麻「ギャーギャー喚きながらの、取っ組み合いのケンカ……」

    華「いかにも、沙織さんらしいです」

    麻「他人の私がいる前でも、平気でやってた」

    華「何となく、情景が想像できますね」

    麻「小さい頃は、そんなもの、ただ呆れて眺めてるだけだった」

    華「今は違う、と?」


29 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:06:05.23 ID:2KUdMdmoo

    麻「両親が死んで、おばあも先が長くないと分かった」

    華「……」

    麻「それほど遠くない将来、私は必ず一人ぼっちになる」

    華「……」

    麻「せめて、姉妹や兄弟がいたら……と、思うようになった」

    華「だから、みほさんや沙織さんを、羨ましく思う……」

    麻「ああ」

    華「将来のことや、一人っ子の話をしたのは、これが理由ですね」

    麻「……私は、怖いんだ……」

    華「何を、でしょう」

    麻「私は、一人になりたくない」

    華「……」

    麻「おばあが死んだら、私は一人ぼっちになってしまう」

    華「……」

    麻「天涯孤独に、なってしまうんだ」

    華「そんな……」

    麻「確定した未来だ。誰にも否定できない」

    華「……」

    麻「私は、怖いんだ……。それが、すごく……」

    華「……」

    麻「せめて、姉妹や、兄弟がいたら……」

    華「状況は変わった、かもしれない……?」

    麻「ああ……」

    華「……」

    麻「……」

    華「……分かりました」スッ


30 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:08:58.98 ID:2KUdMdmoo

    麻「どうした?」

    華「……麻子さん」ストン

    麻「何をやってるんだ? 草の上に座ったりして」

    華「先ほど麻子さんは、わたくしが“お姉さんみたい”と言いました」

    麻「ああ」

    華「だから、今だけわたくしが……」

    麻「……」

    華「麻子さんのお姉さんに、なってさしあげます」

    麻「え……」

    華「ね、そばへいらっしゃい?」

    麻「……」

    華「お尻の所が少しくらい汚れても、平気でしょう?」

    麻「……ああ」スッ

    華「駄目。やり直しです」

    麻「……何がだ?」

    華「“ああ”ではなく、もっと可愛らしい返事の仕方が、あるでしょう?」

    麻「……う、うん……」

    華「そうです。さ、隣へお座りなさい」

    麻「……」ストン

    華「もっと、そばに」

    麻「……」

    華「もっと、くっついて。……恥ずかしいのですか?」

    麻「少し……」

    華「妹は、姉の言うことを聞くものですよ?」

    麻「うん……」

    華「……やっと、ちゃんとくっついて、座れましたね」


31 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:11:15.27 ID:2KUdMdmoo

    麻「五十鈴さん」

    華「はい」

    麻「こうしても、いいか……?」ギュッ

    華「あらあら。この子は、抱きついてきてしまいました」

    麻「今だけ。今だけで、いいんだ……」

    華「ええ。好きなだけ、そうしていてくださいな」

    麻「……ずっと……」

    華「はい?」

    麻「ずっと、こうしたかった……」

    華「……」

    麻「誰かに、そばにいてほしかった」

    華「でも……麻子さんには、おばあさまが……」

    麻「……おばあは、ああいう性格だ。孫を甘やかしたりしない」

    華「……」

    麻「それに……私自身も、こういう性格だ」

    華「誰かに甘えたり、できないのですね」

    麻「でも、本当は……こうしたいんだ」

    華「……」

    麻「ずっと、こうしたかったんだ」

    華「……」

    麻「……良い匂いがする。五十鈴さんの、髪……」

    華「ん……くすぐったいです」

    麻「チームのみんなには、内緒だぞ……?」

    華「もちろん、分かっていますよ」

    麻「誰も、こんなこと……してくれなかった。させてくれなかった」

    華「……」


32 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:13:49.56 ID:2KUdMdmoo

    麻「勉強ができることと、この性格のせいで、みんな私を遠巻きに眺めるだけ」

    華「でも、麻子さんには……」

    麻「何だ?」

    華「沙織さんという大親友が、いるではありませんか」

    麻「沙織と、あと何人かだけだ……私へ普通に、接してくれるのは」

    華「……」

    麻「勉強なんか、できなくてもいい」

    華「……」

    麻「“天才”なんて、呼ばれなくてもいいんだ」

    華「ただ、誰かに、そばにいてほしい……」

    麻「うん……」

    華「……」

    麻「私の願いは……それだけ、なんだ……」

    華「……」

    麻「……五十鈴さん……」

    華「あ……変な所を、触らないでください」

    麻「少しだけ……」

    華「な、何を……」

    麻「今だけで、いいんだ……」

    華「い、いけません。……そういうのは、駄目です」

    麻「私たち、女同士なんだから……」

    華「女同士だから、そういうことはするものではありません」

    麻「五十鈴さん、お願いだ……」

    華「駄目なものは駄目です。大きな声を出しますよ?」

    麻「そんなことをしても……ここには誰も来ない」


33 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:17:58.74 ID:2KUdMdmoo

    華「……あ!」

    麻「だから、大きい声を出したって、誰もここには来ないと……」

    華「違います。麻子さん……!」

    麻「何だ……?」

    華「竿が、動いてます!」

    麻「何だと?」

    華「浮きが……見当たらない」

    麻「掛かったのか、魚が」

    華「あっ。竿が……」

    麻「まずい、持っていかれる」

    華「竿を、つかまえました! うわっ、引っ張られる……」

    麻「放すな、五十鈴さん。両手で持て」

    華「はい! で、でも、どうすればいいんでしょうわたくし」

    麻「落ち着け。ゆっくり、竿を立てるんだ」スチャ

    華「あ……魚を、こっちへ近づけて、その網ですくうんですね」

    麻「そうだ」

    華「や、やってみます……。魚が少し、大人しくなりました」

    麻「岸へ近づけて……」

    華「はい」

    麻「……」バシャッ

    華「……」

    麻「ふう」

    華「……やりました。釣れました! 釣れましたよ麻子さん!」

    麻「そうだな」

    華「すごい! 魚を釣りました! やっぱり麻子さんはすごいです!」


34 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:24:11.44 ID:2KUdMdmoo

    麻「今、釣ったのは五十鈴さんだが」

    華「でも、ずっと釣りをしてたのは麻子さんです」

    麻「うん」

    華「わたくしは、掛かった魚を釣り上げただけですよ」

    麻「それじゃ、二人で釣ったということだな」

    華「そうですね。すごい……わたくしが、釣りをしたなんて」

    麻「……」

    華「まだドキドキしてます」

    麻「……意外と、小さかったな」

    華「20センチくらいですね。これは、何という魚ですか?」

    麻「鯉」

    華「これが、鯉……」

    麻「口の所にヒゲがある。これが目印だ」

    華「実家の池にも、いましたけど……」

    麻「……」

    華「そういえば、特徴なんて、全く知りませんでした」

    麻「……さ、放そう」

    華「え?」

    麻「まさか、持って帰れないだろ?」

    華「それも、そうですね……」

    麻「飼うことなんてできない」

    華「食べるわけにも……いきませんものね」

    麻「だから、元気なうちに、針を外して……」

    華「おうちへ、いえ、池へ……」

    麻「帰してあげよう」


35 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:27:10.23 ID:2KUdMdmoo

    華「“キャッチ&リリース”……」

    麻「そんな言葉、よく知ってるな」

    華「どこで知ったのか、憶えていませんけど」

    麻「針を外した。五十鈴さんが放してみるか?」

    華「……うわ、ヌルヌルしてます」

    麻「魚だからな」

    華「この子は、まだ子供なのでしょうね」

    麻「鯉は成長するとすごく大きくなる」

    華「実家にいたのは、50センチくらいのばかりでした」

    麻「そいつが泳げそうなら、持ってる手の力を緩めて……」

    華「……この子が、自然に、泳ぎだして……」

    麻「……」

    華「……行って、しまいました」

    麻「……あの魚には、ほんの少しだけ、遊んでもらった」

    華「何となく、“バイバイ”って、手を振りたい……そんな気分です」

    麻「よく考えてみれば、釣りは、妙な趣味だな」

    華「人間って……おかしなことを、しますね」

    麻「魚は、迷惑に思ってるのかもしれない」

    華「さあ……。どうなのでしょう」

    麻「手を……洗おう」

    華「はい……」

    麻「……」チャプ

    華「……」パシャ

    麻「……さっきは……」

    華「……」

    麻「さっきは、すまなかった」


36 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:30:15.96 ID:2KUdMdmoo

    華「……あれは、謝っていただいても、いいかもしれませんね」

    麻「私は、どうかしてた」

    華「もう、気になさらないでください。わたくしも忘れます」

    麻「うん……」

    華「ああいうことは将来、男性に、してさしあげてください」

    麻「……」

    華「もしくは、男性から、されてください」

    麻「……」

    華「……」

    麻「……コイ……」

    華「……鯉?」

    麻「……」

    華「鯉なら、もう放してしまいましたよ?」

    麻「うん……そのコイで、思った……」

    華「何でしょう」

    麻「恋をして、恋人ができれば……」

    華「あ、そのコイ……」

    麻「恋人がいれば、私は一人じゃなくなる、のかな……」

    華「……そう、ですね」

    麻「……」

    華「麻子さんなら、きっと、素敵な男性が現れますよ」

    麻「そんな男なんて、いるのか?」

    華「そんな、って?」


37 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:32:16.52 ID:2KUdMdmoo

    麻「こんな、勉強しか取り柄のない、嫌味な女を……」

    華「……」

    麻「好きになってくれる男なんて、いるんだろうか」

    華「でも、身も蓋もない言い方かもしれませんけど、人の好みはそれぞれです」

    麻「……」

    華「可愛いだけではなく、頭のいい女の子を好き、という男性もいるのでは」

    麻「男、って……」

    華「何でしょう」

    麻「ちょっと間が抜けてるような女を、好きなんじゃないか? 沙織みたいな」

    華「まっ。ひどいことを言いますねえ」

    麻「だが、そんなあいつも、成果が全然上がってないようだが」

    華「沙織さんが聞いたら怒りますよ」

    麻「理屈っぽい女が好きな男なんて、想像できない」

    華「でも、いろいろなお話をできる女性が、好みのかたもいると思います」

    麻「そう言う五十鈴さんはどうなんだ?」

    華「男性について、ですか?」

    麻「うん」

    華「それに関しても、先ほど申し上げたことと同じく、将来は決まっています」

    麻「……」

    華「わたくしは将来、必ず、結婚します」


38 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:35:52.32 ID:2KUdMdmoo

    麻「“必ず、結婚する”?」

    華「わたくしは、おむこさまを、とらされるのです」

    麻「……」

    華「自分で結婚相手を見付けられなかった場合、間違いなくそうなります」

    麻「いずれにしても、結婚することになる……こういう意味か」

    華「ええ。わたくしの役目は、五十鈴流の継承と発展ですから」

    麻「……」

    華「その役目を果たすため、わたくしは必ず結婚して、子供を産むでしょう」

    麻「それについて、五十鈴さんがどう思ってるか、訊くまでもないな」

    華「おっしゃるとおりです。これも、先ほどと同じ」

    麻「……」

    華「これしか、わたくしには考えられないのです」

    麻「そうか」

    華「人が思うほど、悪くはない生き方ですよ?」

    麻「どういうことだ?」

    華「恐らく多くのかたがたは、窮屈な未来だと考えるでしょうけど……」

    麻「……」

    華「わたくしの家では代々、女性が絶大な力を持っているのです」

    麻「結婚相手を、尻に敷くのか」

    華「はい。どのようなかたが、だんなさまになってくださろうとも」

    麻「楽しそうだな、五十鈴さん」

    華「ええ。わたくしは、だんなさまを思い切り尻に敷いて、こき使ってさしあげます」

    麻「……」

    華「そして、たくさん、甘えさせていただいて……」

    麻「……」

    華「たくさん、愛していただくのです」


39 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:37:42.16 ID:2KUdMdmoo

    麻「五十鈴さんが、羨ましい」

    華「麻子さん。また身も蓋もない言い方をしますけど、人の生き方など様々ですよ?」

    麻「五十鈴さんには、確固としたものが既にある。それが、羨ましいんだ」

    華「これも、繰り返しになりますけど……」

    麻「うん」

    華「今、何かが決まっていなくても、よろしいではありませんか」

    麻「……」

    華「いつか、理想の男性像が明確になって、実際にそういうかたを選ぶのでは」

    麻「……私は……」

    華「何でしょう」

    麻「私は、男を選ぶ場合……」

    華「はい」

    麻「すごく年上の人を、好きになってしまいそうな気がする」

    華「……」

    麻「そんな人が私を、恋人や妻として、それから、娘として……」

    華「……」

    麻「迎えてくれたら、いいな……と思う」

    華「……素敵な、お話ですね」

    麻「そうか? こんなの、自分でもどうかと思うが……ファザコン丸出しだ」

    華「どこにもおかしいことなど、ありませんよ?」

    麻「……」

    華「こんなに可愛らしくて、しかも賢い女の子」

    麻「……」

    華「そんな麻子さんに好かれる男性は、とても幸せです」


40 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/10(水) 22:39:33.30 ID:2KUdMdmoo

    麻「……そろそろ、帰るか」

    華「……そうですね。でも……」

    麻「何だ?」

    華「おやつを食べてからに、しませんか?」

    麻「まだ食べるのか」

    華「だって、残ってますから。荷物になってしまいますよ?」

    麻「私がさっき、食べなかったからな」

    華「そうですよ。帰り支度は、食べてからにしましょう」

    麻「帰りも、長い距離を歩くし」

    華「はい」

    麻「腹が減っては何とやら、か」

    華「ええ。普段の生活も、将来も……恋も」

    麻「どこかで聞いたようなセリフだ」

    華「真理は、誰が考えても、同じようなものへ行き着くのです」

    麻「そうか……そうだな」

    華「では、これ。麻子さんの分ですよ」

    麻「こんなにいらない。半分、お姉さんが食べてほしい」

    華「……まだ、それをやるのですか。もうわたくしは、少々恥ずかしいですけど」

    麻「でも、今だけお姉さんになってくれるって、言った」

    華「はいはい、分かりました。では、その半分、残しては駄目ですよ?」

    麻「うん」

    華「それでは、いただきまーす」

    麻「いただきます」



    終



41 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/10(水) 22:47:56.63 ID:fgbkfKONo

    乙
    珍しいCP(?)だと思ったら、話もSSでは珍しい内容だった。
    なんかグッときた


42 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/10(水) 22:55:32.84 ID:dFRosR2Wo

    乙
    俺こういうの好きだわ


43 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/11(木) 00:48:00.70 ID:g4zlTNzs0

    乙
    やっぱり麻子が甘えるなら華さんかそど子だよなぁ。
    お姉さんな華さんに甘える麻子はそこ代われw

46 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/12(金) 19:25:19.35 ID:1RkGTudqo

    皆さん、レスありがとうございます。

    登場人物たちが、淡々と会話してるだけのSS。
    そういうのを書きたいなあ、と思って挑戦しました。しかし、やっぱりそれだけでは
    物語にならず、この二人には泣いたり叫んだりをさせてしまいました。

    投下してから読み返してみると、言葉におかしい所があるし、脱字もあるし、
    話自体も楽しい雰囲気ではありません。でもガルパンSSはまだ種類が少ないので、
    枯れ木も山の賑わいと思っていただければ嬉しく思います。

    これを読んでくださったかたがた全員に、お礼を申し上げます。
    ありがとうございました。

47 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage]:2013/07/12(金) 23:59:59.47 ID:CPqszz65o

    乙。
    マジ良作読ませていただきました







この記事へのコメント

-名無し - 2013年10月28日 00:23:33

久しぶりのガルパンSSキタ━━(゜∀゜)━━!! こういうの好きだわ~。ガルパンSSってなかなか良作あるからもっと見たいな

-名無しの三等兵 - 2013年10月28日 05:47:04

独特な雰囲気いいね
華さんかわいい

-名無しさん - 2013年10月28日 13:00:12

泣けるやないか

-名無しの三等兵 - 2013年10月28日 16:00:35

これはTSUMARAN
作者の自己満足しか見えない
SSだから好きにしろって話ではあるがな

-名無しの三等兵 - 2013年10月28日 22:34:07

アニメ放映分では映らない影で、キャラたちが
こういう悩みとか話したりしてるのかなあと思える。

良作だな。

-名無しの三等兵 - 2013年10月28日 23:21:14

まこはないいな

-名無しの三等兵 - 2013年12月13日 23:40:57

ガルパンではなかったタイプだな
確かに麻子はおばあが逝ったら寂しいだろうなあ
もっとガルパンSS増えろ

-名無しの三等兵 - 2014年08月16日 12:43:39

これは良SS……
面白かった

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